ー 34 ー ポルフィディオ盗賊団編⑧
ジメイ神宮境内ー
ジャンクのブラウン管テレビが無造作に積み上げられた板敷の間ー。
それぞれの画面には、ウィルキンソンの人工衛星が捉えた映像が映し出されていた。
山を成すテレビの手前には、歯科医院にあるようなリクライニングの治療椅子が設置され、その上にクリアが横たわっている。
治療椅子の脇からは、蜘蛛の脚のように複数のアームが伸びている。
レーザー照射機がついたアームがクリアの胴体に光を当てながら、獲物を物色する蛇のように、行ったり来たりを繰り返している。
(さっきから気持ち悪い…!この袈裟男、何をしようとしてんの?)
クリアが顔を顰める。
リクライニングに寝かされてからずっと、おばけの懐中電灯みたいな照射機がクリアの体に光を走らせている。
痛みは無く、服を脱がされたり、乱暴されたりするような気配はないが、
両手両足はリクライニングにしっかりと固定され、動かすことができない。
袈裟の男は天体望遠鏡のような大振りのレンズを覗き込みながら、コントローラーでアームを器用に操作している。
「お」
袈裟の男が短く声を上げ、レンズから目を離して顔を上げる。
「ラフロイグとカルーアがやられた」
「あん?」「…」
板敷の間にいたカメラ男と制服姿の少女、黒縁メガネの男が、テレビモニターに目を向ける。
「情けねえ、まじかよ。ハウスの奴ら、二人ずつに分断されてたんだろ?それでもやられちまったのか」
(ー!)
クリアが首を動かし、モニタールームにあるようなテレビの山に目を向ける。
一つの画面が、ベネット、リリアン、クロロ、コン太の4人を映し出していた。
映像は鮮明ではないが、4人とも傷だらけのようだ。
(み、みんな…!無事だったんだ!よかった…!)
温かい感情が、ぱあっと体中に広がっていく。
しかし、すぐに潮が引くように温もりが消え、代わりに恐怖と不安が押し寄せる。
(みんな、平気なんだろうかー。ボロボロになってる…!きっと私を攫ったこの連中にやられたんだ!こいつらは一体何人いるのか…!?は、ハウスは!?ハウスはいつ助けに来てくれるんだろう!?攫われてから随分時間が経ってる気がする…)
クリアの胸の中ー、複雑な感情が渦を巻いていた。
ー父親のことだ。
私の父親は、ハウスのボス…。
そう、言われている。
父親に対して、好きとか嫌いとかいった感情はない。
ーそもそも、会ったことがないから。
ハウスのボスと言えば、世界の中でもトップクラスの重要人物。
けれど、要人だろうとどんな事情があろうと、ここまでほったらかしにされたのなら、本当は思いっきり怒るべきなんだろう。
実の娘として…。
でも、怒りの感情すら沸いたことはない。
顔も分からないような人に対して、感情のぶつけ方が分からないから……。
…だけど、今。
この異常な状況の中で、私は顔も知らない父親に、ほんの少しだけ期待していた。
本当にハウスのボスで、私の実の父親なら……助けに来てくれるはず。
しかしー。
どれだけ時間が経ったのかは分からないが、ハウス本体の動き、ない。
(…私が人質だから、下手に動けないのかもしれない…。
もしかしたら、見えないところで助ける準備をしているのかも。
あと数分で、誰かが飛び込んでくるかもしれないー!)
でも…。
(本当にそうだろうか?私の勝手な期待だったら?
もし。もし、誰も来なかったら、私は一体何なんだろうかー?)
…
「あいつら、なかなかやるな」
袈裟男の声で、クリアの逡巡が止められた。
「…カルーアは瀕死。リリアンのことはボコボコにできたみてえだが、どうやら、黒髪のガキ…クロロとか言ったな、あいつが強力なイマジネット・オーラを使えるようだ。
いや、というかは、カルーアとの戦いで『使えるようになった』ってのが正しいか」
「ほほー、おもしれーなあ!」
カメラ男が嬌声を上げる。
「…ラフロイグの方は妙だね」
黒縁メガネの男が静かに口を開く。
「ラフロイグに怪我はないみたいだけど、ベネットとコン太っていう金髪の子供が、ラフロイグのゲームから外に出ている。
どうやって脱出したんだろうか…。ラフロイグが戦闘不能になるか、ラフロイグ自身が外に出さない限りは出られない仕様のはずだが」
「まあいい。こいつら、想像以上に遊びがいのあるチームだったってことだな!」
袈裟の男が薄く笑い、顎を撫でる。
「ふん、ハウス相手に戦えるチャンスだからって、遊んでたんでしょ。だからどっかで隙を突かれてやられたんだよ、うん。淡々と処理すればいいのに」
制服の少女が、スマホの画面から目を離さず、抑揚のない口調で呟く。
「けっ。そんな流れ作業みてえに。ヘルメス、お前それじゃつまらんだろ?」
カメラ男が大声で挑発する。
「別に。私は早く仕事終わらして、趣味に没頭したい派だから」
興味がなさそうに、ポツリと言い放つ。
「ちっ。これだから最近の若いもんは」
モニターは、4人が一斉に空に飛び立つ映像を映し出していた。
「あいつら…。やっぱここに向かってんのか!?」
カメラ男が画面を指差す。
「そうだね。この場所に向かってる。人工衛星で追っていくけど、あのスピードだとすぐに都市スターノに入りそうだ」
黒縁メガネの男が、メガネをチャっと掛け直す。
「あ、そうそう。追跡システムのカラクリも分かったぜ」
袈裟の男が、横たわるクリアの顔を覗き込み手を伸ばす。
「な、何っ!触らないで!」
クリアが睨みつける。
「おお〜怖。威勢がいいねえ」
そう言って、袈裟の男はクリアの耳についたピアスを指で弾いた。
キンッ…
高く鋭い金属音が板敷の間に響く。
「この耳飾りが発信機になってるみてーだな。オーラ製の耳飾りだ。奴らはこいつを辿ってここに向かってる」
(!!!耳飾り…?あの時、リリアンがくれたピアス!)
クリアが目を見開く。すぐに目の奥が熱くなる。
(みんな!助けに来てくれてるんだ!)
「見てくれも質感も完全に金属製のピアスだ…。
巧妙にオーラを隠していたが、俺の能力の一つ『revealer』のレンズ越しには隠しきれなかったようだな。ちなみにリリアンの能力によるものだ」
リリアンは変装の能力者。だがここまで精巧なオーラ細工が可能なのは大したもんだ…。
袈裟男が目を細めて、クリアのピアスを見つめる。
ドカドカと音を立て、カメラ男がクリアに近づく。
「よし、そうと分かってんなら、さっさとそのピアスを取っちまおうぜ!」
「や、やめてっ!」
クリアが必死に睨みつける!
「…そうだ。やめな」
袈裟の男が制止する。
「んあっ!?なんでだ!」
「…そうだよ。やめといた方がいいよ、うん」
制服の少女が立ち上がる。
「これは、ただのピアスじゃない。オーラの産物。何が仕込まれてるか分かったもんじゃないよ」
クリアのピアスがキラリと光る。
「…けっ。なるほどな。無理に取って発動する仕掛けがあったら、ってことか」
「取った瞬間に、この子、死ぬかも」
制服の少女がつまなさそうに、クリアを見下ろす。
(ー!そ、そんな!リリアンがそんなことするはずがない!)
クリアが制服の少女を上目遣いに睨みつける。
「まあまあ、おまえら。こんな面倒そうなピアスと真面目に向き合う必要はない」
袈裟の男がモニターに視線を移す。
「こいつは、リリアンの能力ってことは分かってんだ。リリアンを始末すりゃ能力は解ける。それが一番分かり良いだろ」
(!!!こ、こいつら!)
クリアが目を見開く!
「おお、さすがは社長!話が早えぜ!よし、俺がぶっ殺しに行ってやる!ようやく出番だな!」
カメラ男が胸の前でタトゥーにまみれた巨大な拳を叩きつける!
「…私が行く」
制服の少女がダルそうに呟いた。
「ああ!?なんだヘルメス、てめえ、さっきは趣味がどうこう言ってたじゃねえか!」
カメラ男が詰め寄る。
「そう。だから私が行くの。あんたはラフロイグやカルーアみたいに遊ぼうとするじゃん。間違いないじゃん。
私はこのミッションを早く終えたいの。さっさと帰って、映画を観たいの。今日、公開のやつ。
私はハウスに興味ないし、チケット買っちゃったし、全員を行動不能にして、速攻でリリアンを殺すから」
制服の少女が、スマホの画面をカメラ男に突きつける。
そこには、『本日公開!』と荒々しい描き文字で飾られた、巨匠が描く恐竜映画シリーズの最新作が映っていた。
「よし、いいぞ。ヘルメス、頼んだ」
袈裟男が手を打つ。
「お、おい、社長!本気かよ!」
カメラ男が袈裟男の肩に掴みかかる。
「俺の命令だ、お前は待機。手をどけろ」
袈裟の男が深く冷たい声で告げる。
カメラ男が歯を食いしばらながら、手を離した。
そして、怒りに満ちた目をクリアに向ける。
「おい!てめえ!ハウスの本体は!親は!いつてめえを助けに来るんだよ!」
クリアが横たわるリクライニングを蹴飛ばす。
「きゃっ!」
「こっちはおあずけが長すぎんだ!早く遊ばせろ!」
ガン!ガン!ガン!!!
執拗にリクライニングを蹴り続ける。
「や、やめて!」
ー!た、助けて!
カメラ男の突然の狂気に体が震え上がる。
モニターに目をやる。テレビの光が涙で滲んでいく。
ガン!ガン!ガン!!!
銀杏並木通りで攫われた時、あの時の、必死でクリアを取り戻そうとするクロロの顔が目に浮かんだ。
(助けて!クロロ!)
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!!!
板敷の間に、金属が軋む鈍い音がこだまする…
………
……
…
ビシューーーーーン…!!!
クロロたち4人は、目一杯スピードを上げて、クリアの元へ飛んでいた。
「おっ!なんか、馬鹿でけえ家とかが増えてきたな。大家族の家か!?コン太!」
「バカ、家じゃなくてショッピングモールだよ!お店とかがたくさん入ってんだよ!」
「ほーん。コン太、空から見てるだけなのに良く分かるなあ!」
「このクソ田舎もん!」
クロロたちは都市スターノ19番区に入っていた。
ふじみフィールド側から最も近い、23番区内のエリアだ。
「もうじき、16番区…都心部に入る。油断するなよ」
ー今のところ敵の襲撃がないが、スターノ区内のメインエリアがすぐそこだ。
ポルフィディオ盗賊団ー。
まだ刺客はいるー!
(だが、ハウス本部の動きが掴めない…。本部はどうしてるー?)
いや…
ベネットが頭を振る。
(自分がコントロールできないことを考えるな!
今俺たちは、俺たちにできることをやるだけだ。最優先の対応に全力を注ぐ!
それに集中せねばー!)
ベネットが察知の範囲を広げる。
「クリアちゃんのいる13番区も遠くないわ!」
さっきまで戸建てや駐車場付きのコンビニ、工場などが広がっていた眼下の景色が、次第に高層ビルやマンション、複合型の商業施設へと塗り替えられていく。
「なんだか、祭りみてーな賑やかな感じになってきたなー」
「もうレイクバッグだ。16番区の中で最も発展してるエリアだ」
ベネットの視線の少し先には巨大なターミナル駅があった。
全てのホームを人の群れが埋め尽くしている。
電車が止まる度に大量の乗客が吐き出され、同じ数の乗客が電車内に吸い込まれていく。
(…ここで戦闘になれば、二次被害の危険が高い…!状況としてはこちらが不利だ…)
ーそのとき!
ドンっ!
突然、号砲が響いた!
巨大なオーラの塊がクロロたちの真下から突き上がる!
!!!!!
自動車ほどの直径のオーラ弾だ!
「くっ!」
4人は飲み込まれる寸前、空中で散って躱した!
一体どこから!?
すぐ近くから放たれたようだが、察知に引っ掛からなかった!
オーラを消して接近した?いや、空中には隠れる場所がない。
なのに誰も見えない―!
まるで、オーラ弾が突然ワープしてきたようだ!
ー!!!
ベネットとリリアンが同時に違和感を捉える!
「クロロっ!コン太っ!後ろだっ!よけろー!」
ベネットが2人に向かって叫ぶ!
「!?」
「え?」
ビュビュン!!!
2人の背後の空間から、突如として糸の塊が飛び出した!
瞬く間に首から下をミイラのようにグルグルと巻き付ける!
糸の先端は凧のように、地上へ向かってたなびいていた。
「ぐうっ!なんだこれっ!?」
クロロがもがくが、糸はゴムのように伸縮し、身動きが取れない!
「くそっ!オーラ弾は囮か!!!」
グオオっ!
クロロとコン太の糸が一気に引かれ、ものすごい力で地上へと引きずり込まれる!
「わわっ!」「うおおっ!」
「クロロっ!コン太っ!」
ベネットとリリアンが追いかけようとした瞬間――
「しまった!!!」
背後の空間から、再び糸の塊が飛び出し、2人の体を拘束する!
くそ…!どうやって攻撃しやがったー?
透明化?あるいは視認できないほど体を小さくさせている?それとも攻撃だけをワープさせてるのか…?
敵はかなり手強そうだ…!
ベネットとリリアンもまた、地上へと引きずり込まれていった…!
………
……
…
16番区、レイクバッグ…。
都市スターノでも屈指の賑わいを誇るエリアの一つ。
かつては駅周辺に広がる歓楽街により、治安の悪いイメージがあったが、近年は再開発に伴い街全体が洗練されてきており、更にはアニメの街としても急速に発展し注目を集めている。
駅前に古くからあった、ゴミが散乱し、柄の悪い連中がたむろしていた噴水公園も、今では野外ステージとカフェを備えた都会的な広場に生まれ変わっていた。
そこへー…!!!
ヒュー…ン!ヒュヒュヒューン!!!
空を切り裂く音とともに、真っ白な物体が4体、凄まじい勢いで落下してきた!!
「きゃーっ!な、何っ!?」「う、うわっ!何かが降ってくるぞ!」
公園を歩いていたカップルやベンチでくつろいでいたグループが、一斉に空を見上げる!
ズオオオオオ!ビシイィー!!!
白い物体は、糸巻きに巻き取られるみたいに、
ステージの照明を吊るす骨組みにぐるぐると縛りつけられていく――!
「な、なんだなんだ!?」「空から降ってきた?何かの演出!?」「い、イベントでも始まるのかな?」
見上げる群衆の視線の先――糸でぐるぐる巻きにされた4人が、
ミノムシのようにぶら下がっていた。顔だけが外に出ている。
「ちっ。縛り付けやがった。早く抜け出すぞ!」ベネットが叫ぶ!
「だ、だけど…」コン太が顔を歪め、もがきながら言う。
「こ、これ!全然切れる気配がないです!」
強靭なゴム紐で締め付けられたかのように、腕や足を動かそうにも、ビクともしないー!
「はああ!!!」
クロロが体の芯からオーラを爆発させるー!
しかし!
「ぐっ…だ、だめだ!オーラがうまく使えねえ!」
放電するように、糸を伝ってオーラが流れていってしまう!
「まずいわ。この糸…オーラを吸収して分散させてるみたい!」
「す、すみません…!ボクたちが捕まったせいで…!」
(く、くそっ!ベネットさんとリリアンさんは糸の攻撃に反応できてたのに、
ボクとクロロは気付けなかった…!足手纏いになってる!)
「……コン太。後悔に囚われるな。今この瞬間、やるべきことに集中しろ!」
「!!!ーは、はいっ!」
野外ステージの周囲には、次第に野次馬が集まり始めていた。
皆が遠巻きにステージを見つめる中、制服姿の少女が1人、ゆっくりと近づいてくる。
!!!
「あ!あいつ!クリアを攫ったヤローの1人だ!」
クロロがミノムシのような体を揺さぶりながら叫ぶ。
間違いなく、あの時カメラ男と一緒にいた少女だった。
大きなヘッドフォンを耳にかけ、スマホの画面に目を落としながら、退屈そうに近づいてくる。
カメラ男は見えないが、この広場の死角に潜んでいるかもしれない…。
「ふむ…。あっけなく4人とも捕まえれた。捕まえるだけなら楽勝だね。うん」
制服の少女――ヘルメスがゆっくりと顔を上げる。
その瞳が、真っ直ぐリリアンを捉えた!
「……あれがリリアン。とりあえずリリアンを殺そう。
残りの3人はズブロッカにあげれば喜ぶでしょ。そんな感じでいいや」
ヘルメスの右手から、禍々しいオーラが渦を巻く。
ビリビリとした殺気が、吊るされた4人の肌を刺していく――!
「…このまま的みたいに吊るされてるわけにはいかないわね。外側のオーラは吸収されるけど、これならどうかしら…!」
リリアンの体がパァッと光り、次の瞬間ーーー姿が消えた!!!
「ええっ!り、リリアンさん!」
「ど、どこいっちまった!?」
糸の塊が、空っぽの寝袋のようにゆらゆらと揺れる。
「ここよ、ここ!」
!!!
3人の前に、真っ白い雪みたいな猫が浮かんでいた。
顔の中央には、下弦の三日月型の黄色い模様――まるでアイマスクのようだ。
「ね、猫ー?リリアン、お、おまえ本当は猫だったのか!?」
「ば、ばかっ!リリアンさんの変身能力だろうが!」
「無駄口叩いてる場合か!」
ズドン!
ヘルメスの掌から黒紫のオーラ弾が放たれる!!!
「まかせてっ!」
白猫が振り返りざまに右手をかかげる。
そこに、三日月型の光のブーメランが出現した――!
ビシュンッ!!
ブーメランがヘルメスのオーラ弾を両断!!!
黒紫の閃光は弧を描きながら上空へと消えていった!
「ふぅ…あっぶなぁ…!」
白猫が小さな額を肉球で拭う。
「す、すげぇ…!」クロロが息を呑む。
「あ、ああ…!こ、この猫!そ、そうか!特徴的な三日月型の模様ー!やはり…!」
コン太がごくりと唾を飲み込む…
「大人気の超美男子ゲーム『戦国ギャラクシー』の都市スターノ代表、『月燈流星』!そのバディ、猫の『三日月にゃにゃん』…ですね!」
「…へ?」「…う、うむむ」クロロとベネットがポカンとしてコン太を見つめる。
「さっすがコン太!よく分かったね!三日月にゃにゃんのコスプレよ!
普通のコスプレイヤーじゃ猫に変身なんて無理だけど、イマジネット・オーラならできちゃうのが最高よね」
そういって舌をチロリと出す。
…
戦国ギャラクシー
セルラン常連の大人気スマホゲーム。
時は戦国ー。
ご存じのように、全国各地で大名が天下統一を目指し名乗りをあげて戦っていた時代ー。
誰もが覇権を狙えた稀有な時代ー。
時を同じくして、地球の近隣47の星々の間で戦争が起きようとしていた。
ある星の重鎮が地球の動乱を知り、提案した。
「私たちが本気で戦争をすると宇宙が壊れてしまう。
そこで提案なのだが…地球という『戦争に参加しない第三星』があるが、その中で小さなバトルロイヤルのような戦いが起きている。
どうだ、この星に各星の代表者を送り込み、バトルロイヤルで決着をつけようではないか。
1国規模の土地を丸々使えるバトルロイヤルができるタイミングはなかなかあるまい!」
賛同した47の星々は、各星の代表者を1名ずつ全国47の地域に送り込んだ。
都市スターノには、月の代表者である「三日月にゃにゃん」が派遣され、
バディとして見出された青年「月燈流星」が、月の能力「ルナティメット・パワー」を使い、スターノ地域を背負う戦国武将として戦に出陣。
同じように、地球の他の地域にも、火星、水星といった太陽系惑星をはじめ、シリウス、アルタイル、ベガなど地球から肉眼でも見える恒星、アルクトゥルスやレグルスなど馴染みの薄い星に至るまで、様々な星から代表者が送り込まれ、各星の特殊能力を利用できる強靭な戦国武将が爆誕!
地球人は、自身の地域とバディの星の命運を背負い、残りの武将たちと天下一を競う大戦を繰り広げる。
かなり大味な作りのゲーム内容ではあるが、
各武将のイケメンぶりと、各星のバディのビジュアル(スターノ地域の「三日月にゃにゃん」はかわいい猫だが、他の星も可愛い系の動物)が世の女子に刺さりまくり、
今やコミカライズ、アニメ、2.5次元舞台とクロスメディアミックスが行われ、
推し活グッズやバディのぬいぐるみ販売等も含めるとゲーム以上の収益を叩き出している。
…
「でも、三日月にゃにゃんのままだと戦いづらいから…ここはやっぱり…!」
猫の体が光に包まれる。
「俺じゃないとな…!」
光の中から、薄い三日月の弧を描く刀が現れる。
ブルーサファイアのように光るバトルスーツ、スーパームーンのような黄金に輝くミドルヘアー、切れ長のエメラルドの瞳――。
「つ、月燈…流星!」
コン太が目を見開く!
げ、ゲームまんまのクオリティだ…!
ぼ、ボクはこのゲームのコアユーザーではないが(美女ならともかくイケメンなんぞには興味がない)、女の子のユーザーも多いから話についていける程度には嗜んでいる…!
アニメや2.5次元舞台も、話のネタのために念の為触れてたから分かるが、リリアンさんのクオリティはオフィシャルを超えてるレベルだぞ、これは!
ふいに、月燈流星が、三日月刀をしならせコン太に斬りかかった!
「ええっ!?」
バヂン…!!!
刀は、コン太と骨組みを繋ぐ「糸」に食い込んでいた。
「…ふっ、やはりこの糸。剣で簡単に斬らせちゃくれないか。術師を始末した方が早そうだ。ベネット、クロロ、コン太。少し待っててくれ」
「あ、は、はい…(び、びびって漏らすかとおもった…)」
「う、うん、わかった」
「た、頼んだぞ」
3人が驚きの表情でリリアンこと月燈流星を見送る。
(り、リリアンさん、完全に役になりきってる…!もしかして一番推してるキャラなのか…?)
コン太が、黄金に煌めく金髪を見つめる。
「…というわけで。悪いがお前をすぐに始末させてもらう。俺たちには次の用事があるんでね」
月燈流星が三日月刀を構える。チャっという鍔鳴りが公園に響く。
「ふん。なんだか面倒なことになったね。私だって、はやく終わらして映画観に行きたいのに。だからハウスは嫌いだよ。不本意だけど、戦闘だね」
ヘルメスの瞳に澱んだ殺気が満ちる。
ヒュオオオオオオーーー
2人のオーラに感応したように風が公園を吹き抜けていく。
そんな一触即発の雰囲気とは裏腹に、遠巻きにステージを見つめる野次馬のテンションはヒートアップしていた。
「す、すごい!りゅ、流星様よ!でも、誰が演じてるんだろ?」
「だ、誰だろうと、目の前の流星が歴代で一番…!圧倒的に美しいわ…!」
「あれ、ゲームのキャラだよな。やっぱここでイベントやるんだよ、きっと」
「イベントにしては演出が凄すぎるな。今の時代、CGなしであそこまでできるの?仕組みが分からん」
…
「まずいな。野次馬がイベントだと勘違いしている…!近づかれると犠牲者が出るぞ!」
ベネットが小さく舌打ちする。
現に、リリアンの変身キャラをスマホに収めようと、女性たちが近づこうとしているー!
「よしっ!オレに任せろ!」
クロロがすぅ〜っと息を吸い込む。
「く、クロロ!?な、何を!?」コン太の全身にめちゃくちゃ嫌な予感が走る。
「チョンマゲ!チョンマゲ!チョンマゲ!チョンマゲっ!!!大変だーーー!!!」
・・・
「は?」
意味の分からない大声に、公園にいる生きとし生けるものの全てが時を失う。
「お、おまえ、それは一体どういう?どういう意味でどういった意図でなんのために叫んだ?」
至近距離での大声と、理解不能な言動によるめまいを抑えながら、コン太が問いただす。
「い、いや、あはは!イベントだって思われちゃまずいんだろ?だから、なんか思いついたもんを叫んでみたんだ!意味はねえさ!」
「てめえ!こら!アホっ!」
「2人とも落ち着け。しかし、クロロ、逆効果だったようだな」ベネットが目を瞑り頭を振る。
ステージを取り巻くギャラリーは、大いなるイベント妨害だと捉えたようで、憤怒の視線を3人に投げかけている。
さらに次に奇声を出したら鉄拳制裁できるよう、空き缶や小石を構えている者もいた。
「おおっ!まじか!逆に近づいて来るのかよ!んじゃ、もう一発叫んだらどうなるかな?」
「おい!絶対やめろ!うるせえんだよ!今耳を塞げないんだよ!この鬼畜が!」
背後のドタバタを聞きながら、月燈流星が呟く。
「ギャラリーは大丈夫だ。危なくなる前に、片を付けてやるから」
「ふん。それはこっちのセリフさ」
ドンッ! ドドンッッッ!!!
月燈流星とヘルメスが同時に飛び出した――!!
ついにヘルメスが刺客として登場!
イケメン武将「月燈流星」に変身したリリアンとの一騎打ちだ!
ヘルメスの能力とは一体…?そして、月燈流星の実力は?
次回、誰も見たことがない空前絶後の能力バトルに注目だ!




