ー 33 ー ポルフィディオ盗賊団編⑦
ズドン!!!!!
カルーアが地面を捲り上げながら飛び出した!!!
「は、速えっ!!!」
クロロが目を見開いた瞬間──
ズゴッ!!!
カルーアの拳がクロロの鳩尾にめり込む!!!
「が、がはっ!!!」
クロロの口から血飛沫が迸る!
「まだまだぁっ!!!」
マシンガンのような拳の嵐が、クロロの全身を容赦なく貫く!!!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!
まるでサンドバッグだ!
ノーガードの体に炸裂する攻撃は、一撃一撃がとてつもなく重い…!
「く、クロロ!このままじゃ死んでしまう!」
リリアンが震える体を起こし、右手の洋式古式銃に残ったオーラを必死にかき集める!
「ーっ!リリアン!こそこそと…!」
カルーアの目がすぐさま光った。
「前座はステージに立つなっ!!!」
ビュンッ!!!
右手の指先から、針のように鋭いオーラのビームが放たれる!
ビシン!!!
「ああっ!!!」
ビームがリリアンの手の甲を撃ち抜いた!
銃が地面に落ち、溜め込んでいたオーラも霧散してしまう…。
「り、リリアン!」
クロロが途切れ途切れの意識でリリアンを見つめる。
(く、くそっ!や、やばいぞ!この攻撃から抜け出さないと…)
ーあ、あっちに!
カルーアの背後に、一本のクヌギの樹が揺れている。
瑞々しい緑の葉を、風が大きく揺らしていた。
ーこ、こいつが!
カルーアがいない先に…!
ーーー
ブンっ!
「なっ!?」
カルーアの拳が空を切った!
…
「…!?お、オレ!なんでここに!?」
クロロの視界に、カルーアの背中が映っている!
(…いつの間に……!?こ、これは……あの時と…獣人と戦った時と同じ……!?)
クロロが振り返る。
そこには、さっき視界に捉えていたクヌギの樹が聳え立っていた!
(さ、さっき見てた場所だ!あっという間に、この場所まで移動できたってことか?)
「えっ!? き、消えた!?どこに─!」
カルーアが慌てた様子で周囲を見渡している!
──!!!
(隙だらだ!)
クロロは反射的に右の拳にありったけのオーラを凝縮させた!
「だあああああっっ!!!!!」
全力の拳をカルーアの背中に叩き込んだ!
ドカン!!!
轟音とともにカルーアの体が芝生を数十メートルも滑り抜けていく!
「ぐはあっ!!!」
…
「へ、へへ…」
クロロは口の血を拭いながら、震える拳を見つめる。
「な、なんだか分かんねぇけど……!攻撃を抜けて、一発返したぞ!」
「こ、このガキ!」
カルーアが怒りに震えながら立ち上がる。
!!!
(く、くそっ!なんて頑丈なやつだ!ありったけの一撃だったってのに!
そ、そんで、やばいのは変わりないな!
こ、この瞬間移動みたいなの、お、オレ自身一体どうやったのか…わからねえ…!)
「…気味が悪いやつめ!なんか隠し球があるってことか」
カルーアが目を細める。
「へ、へへ…そ、そういうこった…」
まずい…!じ、時間を稼がねえと…。つ、次が最後のチャンスだ。
い、今、この移動をモノにしないと、マジで死んでしまうー!
「…ふん。ガキめ。駆け引きのつもりかよ。自在に扱えるものじゃないんだろ。じゃないと、こんなに瀕死のボコボコになるまで温存する必要がないしな」
カルーアがニヤリと微笑む。
「…へん…そ、そうかな?」
や、やべ。たまたま出来たってのがバレてる!
「まあいいさ。次で殺すから!」
カルーアの掌に極大のオーラが集中していく…!
赤黒く燃える渦は竜巻のような圧力を生み出し、地面を削り取っていく…!
ゴオオオオオ…!!!!!
(と、とんでもねえ力だ!こ、こんなの食らったら、ひ、ひとたまりもねえぞ…!)
どくん!
クロロの心臓が大きく跳ね上がる!
!!!
こ、この嫌な感じ…!この感じは…!
死の予感だ!
どくん!
背中に氷を落とされたような悪寒が走る!
色彩がセピアに抜け落ち、圧倒的なカルーアの気配さえ薄れていく。
どくん…!どくん……!
心臓の鼓動だけが、カウントダウンのように空間に響いていくー!
…
「死ねっ!!!」
ドンっ!!!!!
カルーアの掌から、地獄の火の玉のようなオーラ弾が放たれる!
どくん…!どくん!どくんっ!
ー!
キーンと耳が鳴る。
クロロの瞳孔が開き、世界の全てがスローモーションに変わるー!
ズズズ…!
ゆっくりと、カルーアのオーラ弾が迫ってくる。
死に直面する時、動きが遅く感じるって話は聞いたことがあったけど……。
こ、これが、それってことか…!
不思議なくらいにゆっくりだ。
避けられそうだと思うのに、クロロの体も同じく、少しずつしか動かない。
(だ、だめだ!オレまで動けねえんじゃ意味ねえ!このまま突っ立ってたら、本当に死んじまうぞ!)
残された手は一つだけだ!さっきの瞬間移動をやるしかねえ!
カルーアの背後に、いくつかの樹が聳え立っていた。
そのうちの一本は、オーラの圧で幹が半分折れてしまっている。
(さ、さっきは木の傍に移動した!けど、どうやったんだ!?
わ、わからねえ!くそっ!)
ゴゴゴゴゴ!!!
オーラ弾が徐々に視界を埋め尽くしていく!
(ぐっ!あ、あっちだ!カルーアの後ろにあるあの木のところ!オレは…!)
ぐぐっ!
体が引っ張られる感覚!
あっちにいかねえと!
ズッー!!!
!!!!!?
不思議な感覚だった!
スローモーションの世界の中で、周りの風景がゴムを引っ張るかのように引き伸ばされる!
真正面に一本の樹。
幹が折れたあの木だ。
まるで強力な磁石に引き寄せられるように、木の肌が迫る。
同時に、伸びきったゴムが戻るように、風景が収束した!!!
ドドン!!!
「!?」
クロロは、折れた樹と向かい合うように立っていた!
いつの間にか、スローモーションは終わり、全ての音が戻っている。
「で、できた!」
クロロはカルーアを振り向く!
グオオオっ!!!
芝生を掠め取るように、カルーアのオーラ弾が抵抗なく宙に消えてゆく!
「あのガキっ!」
カルーアが顔を歪める。
(オーラ弾が当たってないっ!
ハッタリじゃなかったのか!?また一瞬で消えやがった!くそっ、速すぎて察知が追いつかない!今どこに――!?)
「な、なんとなく分かったぞ!」
クロロが拳を握りしめる。
「難しいことじゃねえ!単純だ!
“オレはそこにいる”――それを、当たり前に信じればいいんだ!
動こうとするんじゃない…!動くための動きを全部、取っ払えばいいんだ!」
「う、後ろかっ!」
背後に佇むクロロに、カルーアが驚愕する。
(一瞬で背後に…!?やばい…!こいつ、あたしの能力と相性が最悪だ!さっさと片付けないとー!)
ドドドドドン!!!
カルーアが怒涛の勢いでオーラ弾を連射する!
!!!
(ー!仕掛けてきやがった!ズレたままじゃ躱せねえ!けど…!)
クロロの目が、芝生の中の一輪のシロツメクサを捉えた。
「オレがいるのは、あそこだっ!!!」
ビュン!!!
瞬きするよりも速く、クロロはシロツメクサの前に移動した!
「なにっ!?」
また消えーーー
「おりゃああああああ!!!」
カルーアが反応する間もなく、クロロの渾身の蹴りがカルーアの背後に炸裂した!!!
ズドン!!!
樹々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく!
ゴゴゴゴゴ…!!!
「へ、へへ!」
クロロがニヤリと笑う!
(い、今までもそうだったんだ!無意識に、オレはそこにいるって信じて、頭の中身に体を追いつかせてたんだ!
…とりあえず、見える範囲には一瞬で移動することができるみてえだ!!!)
クロロが両の拳を握りしめる!
「今度はオレの番だ!」
バコン!!!
視界の先から砂煙が上がり、怒りで歯を食いしばったカルーアが飛び上がった!
「くっ!くっそー!!!ガキめ!ボコボコにしてやる!」
そう憤った直後、芝生の先にいたクロロがまたも姿を消した!
!!!
カルーアの耳の後ろでクロロの声が響く…!
「てめえは許せねえが…感謝しねえとな。おかげでオレも目覚められたぜ。イマジネット・オーラにな!」
カルーアの背中がぞわりと凍りつく…!
「こ、このっ!!!」慌てて振り返るが、そこには誰もいない!
!!!
ま、またいなっ…
「だああっ!」
クロロが両手を組んでカルーアの胴体に叩きつけた!!!
ドガンっ!!!
カルーアが地面に叩きつけられ、噴煙が舞い上がる!
ゴゴゴゴゴ…!
「す、すごい…!」リリアンが息を呑む。
どうやら、この戦闘中に新しい力に目覚めたみたいね…クロロのイマジネット・オーラ!!!
まだまだ荒削りだけど、それでもカルーアを圧倒している!
砂埃に咳き込みながら、カルーアが震える体を起こして立ち上がる。
「クロローーー!許さない!!!」
カルーアが燃える瞳をクロロにぶつける!
「!あ、あいつ!どんだけ頑丈なんだ!ど、どうするか…そうだっ!」
カルーアが玉虫色に輝くギターを掲げる!
ドンっ!!!
「あんたにはもっとスローになってもらうよ!死ぬまで眠らせてやるっ!!!永眠のララバイ(子守唄)だ!!!」
カルーアの右手が弦に振り下ろされる!!!
しかし!!!
「遅いぜ!!!」
音を奏でる刹那!瞬間移動したクロロが、カルーアの真正面に現れ瞳を光らせる!!!
「一発一発だと埒があかねえけど、思い描いた場所に体を持っていけるってことはよ…、きっと、腕だけでもいけるよな」
クロロが右の拳をギリリと握りしめる。
「オレは想像するぜ…オレの拳がテメーの体に1000発突き刺さるところをよ!」
ブウン!!!
カルーアの目には、クロロの拳が滲み、幻のように揺れて見えた。
「う、うそ」
「くらえーーー!!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
1000発の拳の嵐が一瞬で、同時に叩き込まれる!!!
「…か、かはっ…」
粘土をボコボコに殴ったかのように、カルーアの全身が、瞬時に拳の形に凹む!!!
「オレの勝ちだ!!!」
ドシャーーーン!!!
カルーアが吹き飛び、自然公園の川の水面が爆ぜるように跳ね上がった!
「や、やったぜ…!」
クロロが息を切らす。
「ギリギリだったけど、盗賊団を一人やっつけたぞ…!」
…
クロロがリリアンの元に駆け寄る。
「リリアン!大丈夫か!?」
「く、クロロ、よくやったね…。お、お願い。わ、私の着物の袖に、か、回復糖があるはず…出してもらえるかな」
「回復糖!?あ、あの白いお菓子みてーなやつだな!よ、よーし、待ってろ!」
クロロがリリアンの袖口を探る。
「あ、あった!でも、ボロボロに砕けちまってるぞ!」
「す、少しでも残っていれば大丈夫!」
2人は砕けた回復糖を口に運んだ。
ベールを剥ぐように痛みが消え、傷が癒えていく…!
…
「クロロ、ありがとう!助かったわ。ふー、あぶないところだった」
リリアンが立ち上がり、安堵と笑みを滲ませる。
「しっかし、つえーやつだったな」
クロロは深く息を吐く。
(ポルフィディオ盗賊団…!こんなのが何人もいやがるのか…!)
背筋が冷たくなる。だが同時に、拳がうずく。
(この世界には化け物みてえなヤツが何人もいる…!きっとオレよりもずっと強いやつだって…!でも、誰かがそのレベルまで行けてるってことは、オレだって行けるはずだ!へへ…!なんだかワクワクしてくるな…!)
「ベネットとコン太が気がかりね…!ベネットがいるとは言え、敵の能力が未知数すぎる…!急いで、さっきのショッピングセンターまで戻るわよ!」
リリアンの瞳に焦りが宿る。
(回復糖も残りわずか…。ポルフィディオ盗賊団は10人程度のメンバー構成…まだまだ刺客はたくさんいるはず!)
リリアンがクロロに目を遣る。
(ハードな道中になりそうだけど、この子がイマジネット・オーラを開花させたのは大きな武器だわ…!)
2人がふわりと浮かび上がった。
「急ぐわよ!」「おうっ!!!」
バシューン!!!
風を切り裂きながら、ショッピングセンターの方角へと一直線に飛び立った──。
………
……
…
その頃ーーー
コン太とベネット
物理的ではない方法で、この状況を打開するー?
一体、どうやって…!?
「…コン太。この世界にはどうやって来た?」
「え、ええと、ら、ラフロイグの能力で…ロ、ログインさせられて来ました…」
「…そうだな。あいつによるログインだ…。この世界はラフロイグが作った世界で、ラフロイグによりログインさせられた。
つまり、俺たちのログアウトも、あいつなら可能なはずだ」
ベネットが目を細める。
「!!! そ、それはそうかもしれませんが…あいつがそんなことをするわけが…」
ベネットがコン太の肩に手をやる。
「…幸い、俺たちはあいつと会話が出来る環境にある。…コン太。このスマクラというゲームのシステムや仕組みをもう少し詳しく教えてくれ」
………
……
…
《作戦会議は終わったのかな?》
ラフロイグののんびりとした声が聞こえる。ゲームの世界にベネットとコン太を閉じ込めているため、逃げられる心配はない。
また、どれだけゲーム内で暴れようとも、キャラクターにダメージを負わそうとも、ラフロイグは無傷だ。
完全に相手に詰ませている状態であり、余裕しかない。
「…ああ。だが残念ながら作戦は無い。お手上げだ」
ベネットが首を横に振る。
《ははは!やった!僕が勝ったってことだね?》
嬉々とした声が降り注ぐ。なにせ、ハウスのリーダー格を戦闘不能にしたのだ。
「…いずれ、ハウスの応援が到着するだろうが、それまでは俺たちに出来ることはなさそうだ」
《ふふふ。応援が来たって、君たちは人質だからね。誰が来ようが僕に手は出せないよ》
「だろうな」
ベネットが石畳のステージにゴロリと寝転がる。
《…え? 何?何で寝てるの?》
「俺たちに策はないんだ。つまり暇になったってことだ」
両腕を枕にして、目を閉じる。
《いや、暇ならもう一戦やろうよ!》
「ふん。もう一戦だ?遠慮する。もう飽きたんだ。戦いがワンパターンだからな…。
他のゲームはないのか?『リオネカート』ってのがあるだろ?」
ベネットが目を瞑りながら言う。
《お。よく知ってるね。僕は『リオネカート』も強いよ。でも、あのゲームはレーシングゲームで格闘ジャンルじゃないし。君たちが勝てる要素はなさそうだけどなぁ》
「そうか、それなら他に何があるんだ?…ああ…。『インク・バシャン』とかいうの…これは対戦ゲームか?」
ベネットが何かを探るように答える。
《…。…まあ、それも大得意だけど…。でも、ベネットさん。そんなにゲーム詳しかったっけ?》
リオネすら知らないような素人なのに…。
『インク・バシャン』は、自軍の色のインクを掛け合う、シューティング・アクションの陣取りゲームだ。だが、リオネすら知らないような人間から、このゲーム名が出るのは、違和感がある…。
「いや。よく知らないんだ。お前のセーブデータを見てるだけだ」
!!!
《…は? なに? どう言うこと?なんで、セーブデータがあることを知っている?》
「…ふん。俺は電気を操る能力だ。データを探るのはワケないぜ」
ベネットが薄目を開けてニヤリと微笑む。
《は、ばかな…。そんなことできないよ。ここは僕の空間だ。オーラによる干渉は許可していない!》
「そうか?…しかし、このステージは暑くてかなわんな」
!!!
な、何!?
《…お、おまえ、何を持ってる?》
ベネットが寝転びながら、真っ白なハリセンを手に仰いでいる。
「何って。見ての通りさ。お前が知らないはずはないだろう」
《…な、なぜだ?》
ハリセンはさっきの酒樽に入っていた、スマクラのゲーム内アイテムだ。だが、出現したアイテムは一定時間経つと消える。
先ほどのバットと一緒に入っていたから、もうとっくに消えているはずだ。
それなのに、なぜあいつが手にしている?
追加の酒樽は出現していなかったはずだ!
「…」
ベネットが目を瞑りながらハリセンをパタパタと仰いでいる。
…あ、あり得ないぞ。ここは僕が作り出した空間だ。自由にゲーム内のアイテムを出せるわけがない!あいつは何かトリックを使っている…!そ、そうに違いない…!
「…どうした?息遣いが荒いようだが。ゲームの王者なんだろ?…ラムミートくん」
《…っ!ふざけるな!僕のユーザーネームはラフボーイだ!いい加減に…にぃ!?》
ゴゴゴゴゴ…
ラフロイグが言葉を失う!
リオネの頭上に浮かぶユーザーネームが、『ラムミート』の表示になっている!
ば、ばかなっ!どうして!?
「お。悪いな。戻しておく」
ブォン…!
リオネのユーザーネームが『ラフボーイ』に変わった!
《…お、おまえ!》
こいつっ!ほ、本当にこの世界に手を加えているのか!?
い、いや、空間の設計上、ゲーム内に取り込まれた人間がゲームシステムに立ち入ることはできない。
ゲームハードのシステムとは完全に切り離している!
閉じ込めた相手に好き勝手させないためだ!設計には万全を期している!
し、しかし…この状況!
この状況は、あいつがこの世界に介入し始めていることを物語っている…!
い、いや、待て。まだあいつがトリックを使っていることは否めない!
でも、ベネットは電気を操る能力者だ。ハウスきっての実力者だ!
僕の知見を超えた仕掛けをしてきた可能性も考えられる…!
…ううう…!どっちだ…!?
「…ゲームのやりすぎはな、ラフロイグ、健全な成長には繋がらない…。
いや、ゲームが悪いってことじゃないんだがな。ほどほどが大事なんだ、何事もな」
ベネットゆっくりと起き上がり、首をポキリと鳴らす。
「…ゲーム漬けの生活を見直さないと、いい大人にはなれないぞ」
ベネットが瞳を不穏な光に染める。
「…お前のために、今あるセーブデータを消す」
!!!
《な、何ぃ!!!!!》
ラフロイグに衝撃が走る!
ば、馬鹿なそんな!そんなことは出来ないぞ!で、出来ないはずだ!
させてはならない!
確かに、僕のアカウントには大量のセーブデータが保存されている!
すべて、僕の努力の結晶だ!宝物だ!
そ、それを消すだと!?
「…お前のためだよ、ラフロイグ。もうじき、ハウスが到着するだろう。それまでに全部消し切る。
自分で言うのもなんだがな…、俺は電気を扱う能力者の中でも、最強格なんだ。俺を引き込んだのが誤算だったな…。
じゃ、古いデータから取り掛かろう」
ベネットの両手から扇のように電気の波紋が広がる。
《!!!》
こいつ!
く、くそっ!本当に消す気か!?いや、ブラフだ!出来ない!出来るはずがないんだ!
だ、だが…だかしかし!
あのハリセンやユーザー名は何だ!?
どうしてあんなことが出来る!?
いや、あれはトリックだ!誤魔化しだ!僕を騙そうとしてる!
で、でも…あいつはハウスのリーダーで、電気の能力者だ。
く、くそっ!そ、早々に閉じ込めてしまったから、ヤツの能力の本領が分からない…!
ほ、本当にこの世界に干渉できるとしたら…!?
僕のデータが消されてしまう…!?
全ての努力の結晶が…!
い、一体どれだけの時間を使ってきたと思ってるんだ…!
単なる時間じゃない…ママの目を掻い潜って捻り出した貴重な時間だ。
こんなやつに消されてたまるか!
だ、だけど!だけどな!
消すことなんか不可能だ!
どんな能力であっても僕の空間に手を加えることなんてできないんだ!
しかし、確証がない!
くそっ!どっちだ!どうする!?
……
絶対にブラフだ!自分の力を信じろっ!
僕がやるべきは、こいつの脅しを無視して、急いで戦闘不能にさせることだ!
そうだ、そうしてしまえば、こんなブラフに踊らされることもない!!!さっさと戦闘不能にすれば精神的にも安心だ!
よし!そうだ!あいつを動けなくしてやる!
今すぐにだ!!!
見てろ!!!
「消えろーーーっ!!!!!」
ベネットの全身にスパークが走り、光り輝く!!!
《うわあああーーー!!!》
同時にラフロイグの叫びが響き渡るー!!!!!
ズオオオオオーーー!!!
!!!!!
そして…!!!
パァアアア…!
ベネットとコン太の視界が白く染まる。
…
……
………
視界が徐々に晴れてゆく…!
足元から立ち昇っていたマグマの熱が消え、目の前には玩具屋のカラフルなディスプレイが浮かび上がっていく。
ざわめきとサイレンの音が響き、煙っぽい匂いが鼻をつく。
「…ふう。全く。危ないところだった」
「で、出られた…!出られたんですね!」
ガチャガチャガチャ…!!!
ベネットとコン太に背を向け、ラフロイグが血眼でコントローラーを弄り、セーブデータを管理する画面でデータチェックを行なっている。
「…!!!せ、セーブは…!!!あ、ある!あるぞ!」
ラフロイグが安堵の表情を浮かべた後、すぐに鬼の形相でベネットに振り向く!
「あるじゃないか!やっぱり嘘だったな!もう一度!ゲームの世界に戻してやるっ!再ログインだっ!」
試遊機のモニターが光り輝き、再びベネットとコン太がモニターに吸い寄せられる…!
が…!!!
ドッカン!!!!!
巨大な瓦礫が試遊コーナーごと吹き飛ばした!
「オーラの攻撃だと、また引き摺り込まれるかもしれないので…。とりあえず天井が崩れたときの瓦礫を投げ込んでおきました」
「コン太、ナイスだ」
玩具屋の店内が白い噴煙で染まる。
「くっ!ま、まだだ!僕の能力は、ゲームの本体が生きていれば大丈夫だ!この手元の一台!これさえあればお前たちなんか…!」
ラフロイグがゲームのハードを胸に抱える!
「ふん」
バキンっ!!!
ベネットがゲームハードを蹴り上げる。
そして、手に白いハリセンを持ち、思いっきりゲームハードに叩きつけた!
バッコーーーン!!!!!
ゲーム機は衝撃にバラバラになり、黒煙をプシュっと噴き上げた。
「あ、ああ。そんな…」
ラフロイグが半泣きで崩れ落ちる。
「な、なんなんだ…!うう…そ、そのハリセンはなんで…!」
ベネットがフッと笑みを浮かべる。
「俺は電気の能力者だ。電気細工もわけがないんだよ」
「あ…」
ラフロイグは、先程の戦いでベネットが電気で弓と矢を作っていたのを思い出した。
更に、ウィルキンソンの人工衛星が映していた、ボスの娘のショッピング護衛シーンでも、ベネットは指先からピクトグラムのような注意マークを作り出していた。
「ゲームだから画素が荒くて助かった。荒削りの細工でも、返ってそれが本物そっくりになったからな。そして…」
ラフロイグの頭に手を置き、クシャッと撫でた。
「…おまえ、大人を舐めすぎだ」
ベネットの指先から細長い電気がシュルシュルと伸び、先ほどバラバラにしたゲームハードに接続された。ゲームハードは一瞬、ビリリっとスパークを纏うと、再び煙を噴き上げた。
「話した通り、セーブデータは全てリセットしておいたぞ。おしおきだ。もう悪いことはすんなよ」
ベネットが鋭い眼光で睨みつけると、ラフロイグがわーっと泣き出した。
「もうこいつは戦えないだろう。リリアンとクロロの元へ急ぐぞ!」
「は、はいっ!」
バシュ!!!っと音を立て、天井の大穴からショッピングセンターを飛び出した!!!
ー オマケ 命名!イマジネット・オーラ ー
1. クロロとリリアン
「ねえクロロ。さっきの一瞬で相手の前まで移動する技。あれはクロロのイマジネット・オーラね」
「おおっ!やっぱり!」
「まだまだ芽吹いたばかりだから、これからどんどんパワーアップしていくわよ!」
「うほっ!それは楽しみだな!」
「それで、なんていう名前にするの?」
「ん?」
「名前よ、名前。イマジネット・オーラの」
「な、名前か〜!か、考えてなかったなあ。う〜ん」
「瞬間移動の能力でしょ。かっこいい名前を考えたげようか!えっと…。マッハ・スピード・キング、とか。思った場所に移動できるんだから、我レ其処ニ有リ、とか。一瞬ダッシュとか。シュパット!とか!」
「…そ、それかっこいいのか?う〜ん、『瞬間移動』、でいいかな」
「そのまんまね…。まあ、クロロらしくていいかな。あと、カルーアをぶちのめした技!拳が一瞬で突き刺さるの、ショットガンみたいだったわね!あれもかっこいい名前を付けるとすると…」
「あ、あれね!ショットガン!『ショットガン』って名前でいいや!」
「え〜?ひねりがないわね〜せっかくかっこいいの考えようとしてたけど。まあ自分が良いと思える名前が一番効果を発揮できるからね!」
「は、はは!」
クロロのイマジネット・オーラ:
『瞬間移動』 ※目で見える範囲には、一瞬で移動が可能。発展途上中。
必殺技:
『321ファイア』 ※カウントダウンと共にオーラをため込み、極大のオーラ弾をぶっ放す遠距離攻撃。
『【NEW!!!】ショットガン』 ※一瞬で同時に1000発の拳を叩き込む近距離攻撃。
2. コン太とベネット
「コン太、おまえのイマジネット・オーラ、ウェットスーツみたいだったが、サーフィンに由来するものなのか?」
「い、いやいや!ボクはサーフィンなんてやったことないですし!」
「そうなのか。ではあれは一体…!」
「む、無意識に発現したので、ボク自身も分からないのですが、多分アメコミだと思うんです!ボク、大好きですし!胸に灯る、エメラルドの輝きなんて、まさにヒーローですよ!」
「ふん、アメコミか。俺にはわからん…」
「そうだ、名前をつけないと!うんとかっこいい名前がいいなあ。どうしよう、どうしよう…!そうだ!こうしよう!『マン・オブ・エメラルド』だ!!!かっこいい!!!」
「…うむ。ちょっと言いにくい気がするが、好きにするのが一番だからな」
コン太のイマジネット・オーラ:
『マン・オブ・エメラルド』 ※超防御力を備えていることは判明しているが、その他は未知。
必殺技:
『正拳突き』 ※オーラを凝縮した近距離の打撃技。地味だが強烈。
他の必殺技はかっこいいのをこれから考案する模様。




