ー 24 ー ファースト・ミッション③
「だあっ!」
ガキン!!!
正拳突きの勢いに乗せたコン太の光の拳が、ダチョウのような無人兵器の胴体に炸裂する!
炎の尾を引き、後方の無人兵器に追突すると、カッと光を放った!
ドドン!!!
爆風が噴き上がり、周囲に転がる兵器の残骸もろとも、吹き飛ばしていく…!
「はあっ!はあっ!」
黒い煙の向こう、ガチャンガチャンと音を上げ、無数の無人兵器が隊列を成して顔を出す。
「くそっ、きりがねえな!」
クロロも息を切らしている。
初期の特訓で経験したような、体の芯に重りを付けられたような疲労感が、徐々に広がっているようだ。
オーラは無限ではない…短時間で使いすぎるとエネルギー切れになってしまう!
このまま無人兵器の相手をしてたら、更なる兵力投入の時間を与えることになる…。
それ以上に、ボスとチャップマンに逃げられたら…
…ミッション失敗だ!
ごくり。コン太が唾を飲み込む。
(も、もう遅いかもしれない…
元ハウスのチャップマンがいる以上、ボクらがオーラ・ドライブを使える人間、つまりハウスの組織員だと気づいているはず…!
ハウスが攻めてきたとなると、まずボスをはじめとした幹部の連中を匿うだろう…!
だ、だが、ボクらを子供だと思って油断しているなら、まだこの城壁の中にいるかも…。
も、もはや望みは薄いかもしれないけど、とにかく一刻も早くボスとチャップマンを見つけなければ…)
コン太がクロロに向かって叫ぶ!
「クロロ!この機械を全部相手にしてられないぞ!」
「ああ!わかってる!一気にあのでけえビルまで飛行で突っ切らないと…!」
蠢く兵器群と、あちこちから立ち上る黒い煙の先に、巨大な本部ビルが霞んで見える。
「だ、だが…」
ボスとチャップマンがどこにいるのか?
想定以上に本部ビルが巨大すぎる!
会議をしているという事前情報はあるものの、要塞のように聳える建物をしらみつぶしに捜索しているような時間はない…!
侵入者が建物に辿り着いたとなると、間違いなく警戒レベルは最大になり、VIPを避難させるはずだ…。すぐさまボスを発見できないのなら、即ミッション失敗に直結してしまう!
「ああっ!」
唐突に、クロロが声を上げる!
「あ、あいつ!ボスじゃねえか…?」
「な、なんだと!?」
コン太が飛び上がって目を剥く!
「ほら。あそこ、ビルの入り口あたりだ!」
クロロが指さす方向にぐっと目を凝らすが、あまりに距離が離れすぎていて、全くもって見えない。
山で育ったからかは知らないが、デタラメな視力だ。
「いきなりアーク・ロイヤルの発見か!チャップマンも一緒なのか?」
コン太が目を細めながら言う。
「いや、そうじゃなくって、レノン兄ちゃんの手紙をバラバラにした方のボスだっ!」
クロロの視線の先…
無人兵器の群れを通り過ぎ、本部ビルを囲うように展開する構成員の隊列の中に、あの赤髪がいた!
「紛らわしいんだよっ!」
コン太がクロロの肩をぽかんと小突く。
「でもよ、ボスに聞けば、ボスの居場所が分かるかもしれねえ…!」
クロロがぐっと腰を落とす!
「いくぞっ!」
言うが早いか、クロロがオーラを噴き上げ、カタパルトで発射されたかのように飛び出した!
「ちょっ!くそっ!」
コン太も慌ててオーラを上げて飛び出す!
「どけどけっ!!!」
地上から銃口を向けるダチョウ兵器と、空中から狙いを定めるドローン兵器の間を縫うように、目にも止まらぬ高速で飛行する!
ギュン………ッ!!!
稲妻みたいにジグザグとした光の軌跡を宙に走らせ、無人兵器を翻弄しながら本部ビル前に躍り出た!!!
「ようっ!」
「うわわっ!!!」
突然、目の前に現れたクロロに、赤髪の構成員が腰を抜かしてへたり込む!
「久しぶりだなっ!ボスっ!」
クロロがにかっと微笑んだ。
「ああっ!お、おまえはっ!あの時の田舎のガキっ!!!」
尻餅を付きながら、赤髪が叫ぶ。
「ここにボスのボスがいるんだろ?あと、チャップマンてのも。どこにいるのか教えてくれっ!」
クロロが腰に手を当て、ずいっと顔を突き出す。
「ななな!なんだとっ!」
赤髪がマシンガンの銃口をクロロに向ける!!!
「ば、バカめっ!ふざけたことを言いおって!教えると思ってるのか!は、ははっ!どんなトリック使ってたかは知らんが、この距離なら避けられんぞっ!くらえーーーっ!」
ドルルルルル!!!
マシンガンから光が弾け、クロロの胴体を容赦なく撃ち抜いていく!!!
「は、ははは!大人げなかったが、こりゃ大手柄だ!!!ははは!…は、は?」
高笑いしていた赤髪の表情が凍りつく。
「懲りねえやつだなぁ!」
クロロがパンパンと煙を払い、じろっと赤髪を睨みつける!
「そそ、そんな…!」
赤髪は飛び出そうなくらいに目を見開き、口を大きくあんぐりと開けている。
「ボスの居場所を教えろよっ!」
赤髪がガタガタと体を揺らし、鼻水を垂らしながら、右腕を上げる。
「は、はい…ぼ、ボスは今、あ、あちらのホールで会議中です…」
震える指先が、本部ビルの中央最上階に位置する場所を示している。
「そっか!サンキュー!もう次は悪いことすんなよっ!」
コン太っ!と叫びながら、クロロが本部ビルの最上部に向って飛び上がった!
(あ、あわわ…。も、もう…改心しようかな…)
…
「な、なんだと?」
先刻、会議室に飛び込み、侵入者の情報報告をした迷彩服の構成員が声を上げる。
「うん?どうした、アレを待たずに片付いたか?」
アーク・ロイヤルが、葉巻を口から離し、ブカっと煙を吐き出す。
「い、いえ、そ、それがっ!無人兵器の包囲を強行突破し、この会議室に向かっている模様でっ…」
ドカン!!!
その時、閃光と共に、瀟洒な窓ガラスが壁もろとも吹き飛んだ!!!
衝撃で、幹部構成員が椅子から投げ出される!
室内に噴煙が立ち込め、大小の瓦礫がバラバラと転がり落ちていく。
「!!!」
そして、壁に開いた大穴から二つの影が飛び込んできた!
「ここか!?」
「うう…、わ、悪そうな人たちがいっぱいいるぞ…」
クロロとコン太がふわりと浮かびながら、会議室をキョロキョロと見渡す。
「こ、こいつらが侵入者…!」
「う、浮いてやがる…!」
「が、ガキみたいじゃねえか」
会議室にいた黒服の幹部構成員たちが、よろめきながら声を上げる。
「何をしとるっ!さっさと撃ち落とせ!!!」
噴煙を貫くように、アーク・ロイヤルの怒号が響く!
その声に幹部がビクッと体を震わせ、弾かれたようにブラック・スーツから拳銃を引き抜いた!
「!!!」
パパパン!!!パパパパパン!!!
「はあっ!!!」
銃声と同時にクロロとコン太の体からオーラの光が迸った!!!
噴き上がるオーラの壁に銃弾が弾かれていく!!!
勢いを失った小さな金属の塊が床やテーブルにバラバラと散らばり、転がっていく…
「だからよう、効かねえってのに」
クロロがふわりと飛び、丸いテーブルの上に、トッと足を降ろした。
「ばっ!ばば、化け物だ!!!」
「うわあ!!!」
バタバタを埃を巻き上げ、幹部たちが我先にとドアの外へと逃げ出していく。
黒服で埋め尽くされていた会議室があっという間にガランと静かになった。
「ぐうっ!なさけない連中どもめ!それでも幹部か!」
1人残されたアーク・ロイヤルが、巨大な拳を円卓に叩きつける!
「へへ!おめえがボスだなっ!写真のまんまだぜ」
「に、逃げずにいてくれて助かった…」
ふうっと安堵の息を漏らす。
「ふん!貴様らの狙いはワシか!」
アーク・ロイヤルが徐に巨体を椅子から持ち上げる。
「お前たちがハウスの人間であることは分かっている!全く、舐めた真似をしてくれたもんだ」
ブルドックのような頬肉が揺れる。
(や、やっぱりハウスだってバレてる…い、いや、話が早くて良かったと言うべきか…)
コン太の額から冷や汗が流れる。
(ついに世界最大のマフィア、レビオラの大ボス「アーク・ロイヤル」との対面だ!
しかし、とんでもない威圧感…
目に見えるオーラの動きはないから、オーラ・ドライブは使えないのだろうけど…。
だが、全身から発せられるドス黒い感覚は、無意識的に練り上げ醸成されたオーラによるものだろう…。さすが、超大物といったところだ…
だが、ビビってる場合じゃない!
ミッションの目的は2つ…。レビオラの壊滅と、チャップマンの研究内容を明らかにすること!
その一つ、レビオラの壊滅は、目の前のこの大ボスをどうにかすれば達成できそうだ!
…もう一つは…。はっ!チャップマンは?どこだ?この場にはいないようだ…!
会議に出席しているものと思い込んでいたが、そうじゃないのか!?た、確かに研究開発をしているんなら、それも納得だ…!でも、ど、どうしようか?)
「おい、コン太!」
クロロがコン太の肩をバシンと叩く!
「さっさと、こいつをぶん殴って終わらせちまおう!」
そう言って、右腕をブンブンと回す!
「そ、そうだな!まずは目の前のボスからだっ!」
コン太も拳をギリギリと握りしめる…!チャップマンはその後だ!
「ぶわっはっは!」
不意にアーク・ロイヤルが豪快な笑い声を上げる。
「ワシを殴るとな!ぶわっはっは!こいつは傑作だ!さっき、そこの金髪小僧も、逃げてなくて良かったとか抜かしておったな。まさか、ハウスごときが攻め込んできたからといって、逃げるとでも思っていたのか?え?このワシが?」
アークが巨大な円卓の端を片手で掴むと、板切れでも投げ飛ばすかのように軽々とひっくり返した!
クロロとコン太は慌てて宙返りをして床に着地した。
異常な腕力…!これは…!
「いいか、小僧ども!ワシは、この組織を率いるトップであり、そして…」
ばさりと、ダーク・パープルのダブルスーツを脱ぎ捨てた。
「同時に、いかなる構成員よりも最強の存在だ!」
「!!!」
黒いシャツとサスペンダーが勢いよく弾け飛び、鈍く輝く金属の胴体が姿を現した!
「ふはは!ワシ自身が最強の戦闘員だ!他の誰よりも圧倒的にな!
貴様らのような賊どもに狙われる機会が多いからな、自らを改造することで、襲撃にも耐え、賊を殲滅する!
それどころか、護衛のリソースを減らし、心身の安定を図る!経済的にも精神的にも最も効率的だろう!」
ガチャン!と鋼鉄の右足を踏み出す!
「ただの金属の体だと思うなよ!銃弾、爆弾程度の衝撃は何てこともない!貴様らハウスの人間も同程度の防御はできるようだが、それだけじゃないぞ!
両手に機関銃、胸にはレーザー砲、腹部には小型のロケット・ランチャーを備えておる!脚部のジェット噴射と背中にあるローター・ブレードにより空中移動も可能だ!
ふはは!どうだ!オーラだかなんだか知らんが、貴様らだけの特権だと思わんほうがいいぞ!
さらに頭部にはAIによる予測システムが…んん?おいっ!もう1人のガキはどこへ行った?」
さっきまで目の前にいた黒髪と金髪のうち、黒髪の小僧がいつの間にか姿を消している。
「ここだぜ!」
「!!!」
い、いつの間に!?黒髪のガキがすぐ足元で拳を構えている!!!
「鉄砲とか爆弾程度なら何てことないって言ってたよな、安心したぜ!遠慮なくやれそうだ!」
黒髪の右手からカッと光が膨らみ、周囲を眩く照らしていく!
「くらえっ!!!」
光の拳がアークの腹に炸裂した!!!
「うぐわっ!!!」
爆音と共に、衝撃が鋼鉄の体を貫き、あっという間に壁に叩きつけられた!!!
ドカン!!!
強烈な振動が会議室を駆け抜け、巨大なシャンデリアが振り子のようにグラグラと揺れた。
「うぐぐぐ…、こ、このガキめ…!」
アークが壁から体を引き剥がそうとした瞬間、プシューと体から煙が吹き上がり、ガガガ…と不穏な音が響いた。
「く、くそっ!き、機械がイカれたか…!ぴくりともせん!!!」
首から下ががっしりと鎖で固められたように、まるで動かない!
「へへへ…機械の体が仇になったな!まっ、でも丈夫で良かったじゃねえか!」
クロロが人差し指で鼻の下を擦る。
「あ、あっけなく…一丁上がりってことか…」
動くのを諦めたのか、アークが首を横に振って、がっくりと肩を落とした。
コン太とクロロが目を合わせ、やったぜ!と互いの親指を立てた。
「あれ?もう1人のあいつはここにはいないな…」
「そそ、そうだっ!チャップマン…!一体どこに…あっ!」
コン太が声を上げる!
「す、すっかり忘れてた!察知だよ察知!相手が元ハウスなら、オーラを察知できるはずだ!」
「そ、そうか!ようし!」
クロロとコン太が神経を研ぎ澄ます!
ブンッ………
海中ソナーのように、星のオーラを介してオーラの反応を探っていく…!
「!!!見つけた!」
「外か!」
ふわりと体を浮かせ、壁の大穴から飛び出した!!!
ー チャップマン ー
「ボスがやられたぞっ!み、自らを兵器に改造したはずのボスがあっ!!!」
「て、撤退!は、早く逃げるんだ!!!」
「うわあ!!!」
「どけ!早く!」
窓の外、広大なレビオラの敷地を、構成員たちが我先にと出口に向かって駆け出している。
そして、その上空…
「ちゃ、チャップマン!!!」
オーラを纏った元ハウス、ドクター・チャップマンが空中に浮かんでいる。
「あいつか!でも…写真とちょっと違くねえか?」
「か、体の半分が機械みたいになってるな…アーク・ロイヤルみたいに、自らの体を改造したんだろう…!」
チャップマンが憤怒の形相でクロロとコン太を睨みつけ、怒鳴り声を上げる!
「よくも台無しにしてくれたな!ワシの研究資金の源を!」
白衣をはためかせ、出し抜けにオーラ弾を放った!!!
ドンっ!!!
「わわっ!」
「あ、あぶねえ!!!」
慌てて体を逸らす!その脇を高速の光弾が掠め、背後の本部ビルに吸い込まれた!!!
ズドン!!!
ミサイルが撃ち込まれたかのごとく、クロロとコン太の後方が光で包まれ、爆発と共にビル上部が吹き飛んだ!!!
「す、すごい威力…!」
「こ、こいつはまともに食らったらやばいな…!」
チャップマンがクロロとコン太の右腕に目をやる。
「バングル…見習いを寄越してくるとはな。舐められたものだ。火の鳥の情報は期待できんな」
「! ひ、火の鳥…!?どこかで聞いた気が…」
チャップマンの体から禍々しいオーラが迸る!
「貴様らは万死に値する!だが喜ぶが良い!貴様らは同時にワシの研究資源になってもらう!オーラ・ドライブが使える人間は素材としては貴重だからな!くくく…泉は近いぞ…」
「研究資源…?泉…?一体何を言ってやがる!」
クロロが眉をひそめる。
「おい!!!これがミッションの目的になってる、研究内容というやつじゃないのか?」
「そっか!さすがコン太!だったら…!」
クロロがぐいっと前に出て、人差し指をチャップマンに突きつける!
「おい、チャップマン!何の研究してんのか、教えてくれ!火の鳥とか泉ってのも、な!」
「な、なんだと!ばかものが!ハウスに教えるとでも思ってるのか!」
チャップマンが顔を引き攣らせながら唾を飛ばして叫ぶ!
「クロロ、おまえは…」コン太が盛大にため息を吐く。
…
「だが、自ずと分かることになるだろう…。資源として活用させてもらうのだからな…」
チャップマンがニヤリと笑い、視線を地上に落とした。
「はっ!!!」
コン太がビクっと体を震わせる!
「も、もう一つ…もう一つ馬鹿でかいオーラが…!」
コン太がキッと地表に目を向ける。
レビオラの敷地は、アーク・ロイヤルの敗北と先ほどチャップマンが放ったオーラ弾の爆発を受け、全国から召集されていた構成員のほぼ全てが、出口に向かって逃走の群れをなしていた。
しかし!そこに、ただ1人、人の流れに逆行し、本部ビル側に向かってくる構成員が…!
その構成員は、迷彩服に身を包んでいることから、会議に出席していた幹部ではなく、赤髪のように周辺を警備する末端構成員の1人のようであった。
迷彩服からは浅黒い肌が除き、分厚い生地越しにも筋肉質なのが分かる。
スキンヘッドで眉もなく、冷たい切れ長の瞳が真冬の三日月のように鋭く光っているが、世界的マフィアの構成員の風貌としては、これといった特徴はない。…その荒々しく吹き出すオーラを除いては…!
「も、元組織員って、チャップマンだけじゃなかったのか…?」
コン太の額から、幾筋もの冷や汗が流れる。
死線を潜り抜けてきたマフィア構成員とはいえ、こんなオーラを纏えるはずはない…!
「くくく…」
チャップマンが、トンっと地上に降り立つ。
「構成員がいなくなり、広々としたステージになったじゃないか」
チャップマンが両手を広げる。
「もう貴様らには逃げ場はない!ワシの素材になるのみだ!」
ヒュオオオ…
不穏な音を立て、風が通り抜けていく…。
「ぐっ、とんでもねえパワーを感じるぞ…あのツルツル頭、何者なんだ…?」
チャップマンのオーラ量の倍は軽くありそうだ…。分厚いオーラの圧力がクロロの全身をビリビリと揺らしていく。
「い、イマジネット・オーラか!?確か、チャップマンはメンバー強化のサポートをしていたって、モーリーさんが言ってたような…」
オーラ・ドライブの訓練を受けていない人間を、オーラ戦闘員に仕立て上げるような能力なのか?レビオラがそんな研究をしているとなると、とんでもない悪夢を生み出すことになる。
「ふん、この構成員のことが気になるようだな!いいだろう、冥土の土産に教えてやろう…!と、言いたいところだが、貴様らハウスのやり口は熟知しておるぞ…ワシも慎重だからな、言うはずがなかろう!」
チャップマンが下卑た笑いを浮かべる。
「くっ!分かんねえことだらけだ!だが、やべえのは間違いないな」
火の鳥、泉、素材…研究内容に紐づいているのだろうが、関係性が不明なキーワード…。
そして、想定になかった強大なオーラを放つもう1人の敵…。楽勝な任務には程遠い状況だ。
チャップマンが、スキンヘッドの構成員の横に立ち、肩に手を置いた。
「くくく!さあ、キメラ・オーグよ!こいつらを捕えろ!絶命させなければ、どれだけいたぶってやっても構わんぞ…」
「!!!」
クロロとコン太が咄嗟に身構える!!!
しかし…
ー キメラ・オーグ ー
「うるせえ」
しわがれた、小さいがはっきりした声がスキンヘッドから漏れた。
「な、なんだと!?」
チャップマンが思わず、スキンヘッドに置いた手を話して後ずさる!
「このクソじじいが。なぜてめえの命令をきかなあかんのや」
怒気を含んだ声で、チャップマンを睨みつける!
「ぐぬうっ!忠誠心の植え付けが不十分だったか!」
スキンヘッドの細い目には、明確に意思の光が宿っている。それはすなわち、アンコントローラブルということだ。
「人の体を好き勝手に改造しやがって…!」
スキンヘッドが、迷彩服のジャケットをビリビリと破り捨てる!
「!!!」
その体は、無数の傷跡で覆われていた!それも、斬り付けられたような傷跡ではない。
大手術を繰り返したようなツギハギだらけの体だった。
そしてその右胸には№-083というタトゥーが刻まれている。
「失敗作め!貴様も廃棄場送りにしてや…うぐっ!」
目にも留まらぬ速さだった!スキンヘッドが瞬時に間合いを詰め、傷だらけの右手をチャップマンの喉元に食い込ませている!
「お、おい…何かわからないが…仲間割れしてるみたいだぞ…?」
「そ、そうみてえだな」
しかし、クロロとコン太は重々しくぶつかる2つのオーラに気圧され、動けないでいる…!
「うがあ!!!」
チャップマンが咆哮を上げる!!!
同時に、機械製の左手から眩い光が炸裂した!ゼロ距離での巨大なオーラ弾だ!!!
ドン!!!
爆風と共に、衝撃波が敷地内を駆け抜ける!!!
「げほっげほっ!は、はは!ど、どうだ!オーバー・ドライブのオーラ弾だ!舐めた真似をしくさって!」
よろよろと爆煙を抜け、クロロとコン太に対峙する…!
(はぁっ、はぁっ、と、とんだハプニングだ…!か、完成度が高い個体であったが、破壊するよりしょうがなかった…!も、もったいなかったが…。あとはこのガキ2人…オーバー・ドライブで大半のオーラを消費してしまったが、見習い程度なら、どうにでもなる…!)
チャップマンが、鋼鉄の拳にギリリと力を込める。
しかし…
「あ、ああ…!」
金髪のガキが驚愕の表情で、後退りをしている!一体…!?
ざっ…!
「!?」
チャップマンの背後で地面を擦る音が響く!
「ぐあっ!!!」
音に振り返る間もなく、万力で捉えられたような痛みが頭に走る!!!
そのまま、宙に持ち上げられた!
「ぐおお…!そ、そんな!お、オーラ弾が、ちょ、直撃したはず…!」
スキンヘッドの構成員が、体から火の粉を噴き上げながら、チャップマンの頭部を掴んでいる!
「ふん、老いぼれが。そんなチンケな技が効くと思ったか?改造したのは自分やろが」
無表情であるが、鋭利な刃物のような冷たい殺気が声色に宿っている。
「そや、せっかくだから、変身状態で殺ってやるわ。チリの一つでも残っとったら気持ち悪いからのう…」
「へ、変身…!?今、あいつ変身って言ったのか?」
「ど、どういうことだ!?」
スキンヘッドの体が小刻みに震え、荒々しい野生的なオーラが爆発的に膨らんでいく!
「かあっ!!!」
咆哮とともに、スキンヘッドの体が2回りも膨らみ、より獰猛でドス黒いオーラが噴き上がる!
あっという間に体中が真っ黒な毛に覆われ、メキメキと音を立て鼻から額にかけて骨格が変わっていく…!
ー 変身 ー
「お、おいおい、う、嘘だろ…!」
コン太が尻餅をつく!飢えた獣に出会ったかのような、本能的に相手を怯ませる強烈なオーラを増大させながら、スキンヘッドがグリズリーのような見た目に変身したのだ!!!
「ど、どうなってやがる!」
それは、野生の本能を解き放ったぴー助に感じが似ていた!
だが、比較にならないほど凶悪で禍々しいオーラだ!
獣の凶暴さと人の悪い心だけを取り出して膨らませたような、悪しき力が渦を巻いている!
クロロでさえ鳥肌が立ち、無意識に歯を食いしばっていた。
「ぐ、ぐううう!わ、わかった、も、元の体に戻してやろう!わ、ワシを殺したら2度と元には戻らんぞ!」
鋼鉄の杭のような爪が、チャップマンの頭部に食い込んでいく。
「へっ、元に戻せるだ?その場しのぎであってもな、もうちょっとマシな嘘をつけや」
そう言い放つと、毛むくじゃらの丸太のような腕を振り上げ、チャップマンを上空へと投げ飛ばした!!!
「ほんじゃあな」
チャップマンを掴んでいた手のひらを開くと、その中心からレーザー砲のように、圧縮されたオーラの光線を発射した!!!
ズッ………
「ち、ちくしょーーーーーお、おおおお…う…が………か…か………」
オーラの激流に飲まれ、チャップマンの体がかき消されていく…!
燃え切った紙片が風で崩れ消えていくように、機械製のボティが剥がれ、声が途切れ、光の奔流と共にチャップマンも完全に消え去っていった。
…
……
………
静まり返った敷地内に、風が吹き抜ける…
「あ、あの野郎!ちゃ、チャップマンを消し去りやがった…あ、跡形もなく…!」
体の震えを押さえ込むように、クロロがギリっと奥歯を噛み締める。
「そ、そんな、殺してしまうなんて…」
コン太が目を見開いて、ごくりと唾を飲む。
(う、嘘だろ…?な、仲間割れなのかなんだか分からないが、獣人に変身したスキンヘッドが、チャップマンを消し去ってしまった…!
ちゃ、チャップマンは元組織員だぞ?そ、それなのにあんなにあっさりと…!じ、次元が違う、強さの次元が…!)
元スキンヘッドの獣人が、パンパンと体を払っている。
(こ、こいつの目的は何だ?チャップマンの命令に背いたのなら、少なくともボクらでは無いと言える…
す、すると、もうここには用はないのでは?
ミッションにあった「チャップマンの研究内容」ってのは、聞けてないにせよ、どう考えても、人を獣人に変身させるためのものだろう!このための研究に違いない!
ということは、け、結果的にミッションはクリアしたと言えるんじゃないか、これは!
だ、だったらもう帰れるだろう…こんなクレイジーな奴と戦う必要はないだろう!
想定外の強敵が出たと報告し、現役バリバリのハウスチームに託すしかないだろう!もう、とにかくこれは、戦っちゃだめなやつだ…!だ、だったら!)
コン太がふぅーっと、わざとらしくため息を吐いた。
獣人が、体を払う手を止め、コン太をギロリと睨め付ける。
「な、なあクロロ!ははは!ちゃ、チャップマンがいなくなった以上、ボクらももうここには用がなくなったなあ!さ、さあ、長居する必要もなくなったし、帰ろうか」
え?と、言いかけたクロロを無言の目力で制す。
そして「あらそう言えば」という風に、獣人に目をやる。
「そ、それじゃ、ボクらはこの辺で失礼するので…あ、あはは」
その瞬間、獣人の人差し指から銃弾のようなオーラが放たれ、コン太の足の間にあるコンクリートを吹き飛ばした!
「おい、てめえら、ハウス…だって?ふん!あのじじいは気に食わねえが、ハウスはもっと気に食わねえんだわ」
獣人がぺっと地面に唾を吐く。
「てめえらも、あの世に送ってやる!!!」
ドス黒いオーラが獣人の体から噴き上がる!
ブオオオオオっ!!!
…
「へへ…や、やっぱ戦うしかねえみてえだな…」
「うう…、そ、そんな。し、死ぬ覚悟を決めろってことか…」
台風のような獣人のオーラが、クロロとコン太の髪と服を揺らす。
組織に入ることを決めてから今の今まで、強敵と幾度となく対峙してきた…。
しかし、今回が文字通り最大最強の相手だろう…。
クロロとコン太は、肌触りがあるくらいにはっきりと、死の予兆を感じていた。
だが、リアルに迫り来る死の恐怖と比例して、不思議と体の芯からオーラが湧き上がる感覚を覚えていた。
心の鏡に恐怖が映されれれば映されるほど、オーラの光が反射し、跳ね返ってくるような…。
クロロは過去に似た経験をしていた。
宇宙人のコミュニティ・エリアーーー
フンコロガシによる、複数の黒い球体が襲いかかったとき、無意識のうちに発動した光の拳で窮地を脱したのだった。
差し迫った死に抗う生存本能が、潜在するオーラを引き出していく…!
クロロとコン太は気付いてはいなかったが、それぞれの意思とは無関係に、生きるためのオーラが燃え上がりつつあった!
そして、2人は知る由もなかった…。イマジネット・オーラの芽が、今、正に芽吹こうとしているのを!
死への実感が強くなればなるほど、一方で不思議と湧き上がる力…!
クロロとコン太は、そんな複雑で錯綜する感覚をグッと飲み込んだ!
2人の目に、ギンッと、生きるための強い光が宿る!
そして、戦いへの覚悟を、死への覚悟を、己の身に刻みつけ、全身の気を解き放った!!!
「はあっ!!!」
クロロが燃え盛る炎のようにオーラを爆発させた!
「おおっ!!!」
コン太も後に続く!
構成員がいなくなった今…、壁で囲まれたレビオラの敷地は、さながら広大な格闘リングのステージのようだ。
クロロ&コン太の、獣人との死闘の幕が今上がる!!!




