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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第六章

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05

 

 母上のドレスから何か見つかったか聞くため、仕事を終えると本邸へ向かった。

 出迎えたテイメンに答えを促すと、眉を下げる。


「何もございませんでした……」

「そうか」


 テイメンを示すような仕草は間違いなく父上からのメッセージだと思うが、母上のドレスはヒントではなかったのか。

 当のテイメンは、いまだ見当がついていなさそうだが。


 テイメンを示唆するため、カモフラージュとしてドレスの話題を出しただけという可能性もある――と思いながら、母上の衣装部屋に入ってみたが、やはりそれらしいものはなかった。


 次に父上の書斎に何かヒントがないかと部屋に入ると、机の上に写画が散らばっていた。床にも数枚落ちている。


「どうして写画がこんなに……」

「申し訳ございません。大旦那様が呼び出されたときに、奥様へ送る写画を『やっぱり違うのにする』と言い出され、急いでいたものですから」

「セレナに送ってきたあの写画か?」

「はい。時間を掛けて一枚をお選びになっておられたのですが。呼び出しが掛かっているというときに、急に別の一枚にするとおっしゃいまして。それからバタバタしておりましたので、そのままになっておりました。すぐに片付けさせます」

「いや、それはかまわない……」


 わざわざ違う写画に差し替えた理由は何だ。

 あの写画の何がヒントになっているんだ?

 昨夜見たときは特に何もヒントになるようなものは見つからなかったが……。


「初めに選んでいた写画はわかるか?」

「はい。……こちらです」


 散らばった写画から一枚を探し出し、渡してきた。


「これか……」


 それは幸せそうな家族写画だった。

 母の体調が悪くなる前最後に撮ったものだ。

 幼少期に比べると多少俺の表情も柔らかく見える。

 何気なく印に触れてみると、ヘラルドが何かを言い、両親が笑いだし、釣られるように俺も笑っていた。

 皆が笑った理由は覚えていないが、父上がセレナにこれをと思うのも納得できる写画だった。

 ならば、やはり送られてきた写画には意味がある。


「テイメンは、父上がセレナに贈った写画を見たか?」

「はい」

「あの写画に何かヒントになるようなものが写っていたと思うか?」

「はて……。少々お待ちください」


 そう言ってテイメンは一度書斎から出て行った。

 しばらくして手帳を手に戻ってくる。


「お待たせいたしました。あの写画が撮られたのは、今から十五年前の二月。写画が開発されて間もなくでございます。この日は、大旦那様がお休みの日でございましたので、皆様で三度目の写画を撮りに行くご予定でございました。ですが、大旦那様に城からの呼び出しがございまして、戻られたのは写画屋の閉店間際でございました。それで、大奥様の機嫌が少々悪うございまして――」

「待て」

「はい?」

「父上が出仕した日をすべて残してあるのか?」

「大旦那様が出仕なさった日に限らず、私がこちらに勤めてからその日あったことを、日記のようなものですが手記に残しております」

「それはずっと?」

「はい。本日まで欠かしてございません」


 侯爵家の秘密がびっしりと書かれているであろう手帳を手に好々爺然とした笑顔を浮かべるテイメンを見て、一番敵に回したら危険なのは実はテイメンかもしれないと思った。


 ◇



 父上が拘束されてから三週間を超えた。

 様々な調査結果を携え、俺は宰相の執務室に向かった。


 最初に呼び出されたときと同じ顔ぶれが集まっている。

 しかし、この国の重鎮とも言える錚々たる面々が揃っているが、俺以上に有益な情報を得られた人はいなかった。

 マルセロは、普段は適当な雰囲気だが、本来の仕事をやらせたらこの上なく有能だということが証明された。

 ハーディング侯爵家の影の一族。

 裏で暗躍するという意味だけでなく、文字通り影を利用する秘伝の魔術を行使する一族。

 ハーディング一族が繁栄できた理由。


「調査結果です」


 端的に言い、まとめた書類を宰相に渡す。

 ロイのことと並行していた上に、二十年も前の証拠を、しかも父上によって記憶を改ざんされ、正しい記憶を持っていない者が多い中から真実を見つけだすという厳しい状況。

 それでも、マルセロをはじめとした影たちはよくやってくれた。

 執務室の中では俺の渡した書類に目を通し、驚きの声を上げる者、納得している様子の者、考え込む者、反応は様々だった。


「やはり、そうか……」


 宰相は静かに声を漏らした。

 その声に驚きは含まれていない。

 予想していたのだろう。父上に記憶の改ざんを指示した者を。


「ここまでの情報は得られなかったが、私の調査結果でも、どう考えても同じ人物に辿り着いた」


 宰相が、バサリと書類をテーブルの上に放った。


「まさか……王妃様が……」


 ある者が呟いた。

 表情を見るに、まったく予想していなかったようだ。


 マルセロたちは俺の指示を受け、初めは手当り次第、関係者の情報を集めた。

 その後、テイメンの手記からヒントを得て、すぐに当時王妃の出産や王の命令を遂行した法務部の関係者をすべて洗い出した。

 すべての人間に接触し確認をしたところ、接触できなかった二人の人間を除き、全員が『王の命令に従い、王女は召された』と話した。

 そして、接触できなかった二人の人物は、国王と王妃のみ。


 それだけではどちらの指示かわからないが、国王は王妃の出産には立ち会おうとせず、執務室に一人で籠もっていたと記録が残っている。国王の側仕えの者たちの行動にも不審点はなかった。

 王妃の側仕えの者の行動も出産前後の行動には不審点はなかった。


 だが、王妃の側仕えはあるときから、定期的に長期の休みを取っていることがわかった。

 王妃の側仕えにも関わらず、毎月誰かが必ず長期休暇を取るというのは、少し不自然だ。

 王妃の側仕えは人数が多いので、こうして調べなければ気づくことはなかっただろう。


 また、手記にはテイメンが把握しうる限りの主一家のその日の行動が書かれていた。

 父上が引退後にも呼び出されて出仕した日を照らし合わせると、王妃の側仕えの者たちの長期休暇明けの日とほぼ合致した。

 父上がセレナに送った写画が撮られた日も、側仕えの者の長期休暇明けの日だった。

 それと、王女が生まれるよりも前に、一度だけ父上が王妃に呼び出されていた記録が、テイメンの手記から見つかった。

 さらに、セレナに贈られた写画で母上が着ていたドレスは、王妃から下賜されたものだとわかった。


 父上には口外しないように術をかけていても、家令が事細かに手記に残していることは知られていなかったようだ。


「直接確かめることはできていませんので、確定情報ではありません」

「充分だ……私から確認しよう。ベルトランが拘束されていることは王妃も把握している。現時点で何も言わずにいることを思うと、少々難しいかもしれないが――」



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