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09

 昨日は突然フェリクス様が登場したので、今日は早めに出勤した。

 今更遅いかもしれないが、パメラには自分の口から話をするために、パメラが出勤するのを待ち構えていたのだ。


「パメラ!おはよう。あの……」


 パメラを見かけて勢いで声を掛けたが、どうやって切り出したら良いか迷う。

 もしかしたら、もう話しかけて欲しくもないかもしれないと思って、俯いて口籠ってしまう。


 こちらの葛藤などお構いなしに、パメラに両肩をがしっと掴まれた。


(!?)


「セレナ!ちょっと、あっち!あっち人来ないから、あっち行きましょう!」

「う、うん」


 予想外のパメラの勢いに圧倒されてしまう。


「で!?何がどうなって昨日のような事になってるのよ?話があるって、そのことよね!?」


 そういうパメラは、怒っている様子はなかった。

 むしろ、目をキラキラとさせて興味津々興奮気味だ。

 その様子をみて、どう説明するか迷っていたが、自分の身に起こった事をそのまま話そうと決意する。


「実は、結婚したの」

「えー!急!あ、実は婚約してたとか?」

「うーん。2週間くらい前に、縁談が来たの」


 それから、相手はフェリクス様の父だと子爵家全員が思い込んでいた事、行ってみたら相手がフェリクス様であった事を話した。

 そして、どうして自分が選ばれたのか全く分からない事と、借金返済と引き換えに例えば縁談除けなどの裏があるのではないかと思っている事を話した。


 パメラは終始、うんうんと興味深そうに聞いていた。


「昨日のフェリクス様の様子しか知らないけど、あれを見る限り裏があるようには見えなかったけどなぁ」

「そうかな?」

「うん。表情や声に、セレナの事が愛しくてたまらない~って気持ちが溢れていたもの。フェリクス様があんな風に笑った顔なんて初めて見たわ!」

「そ、そんなことは……。あの、ごめんなさい」


 パメラに頭を下げる。


「え!?頭上げて!それに、謝るのはこちらの方というか。私がフェリクス様フェリクス様言ったから、言いにくかったのよね。ごめん」

「ううん……」

「私の場合は完全に観賞用っていうか。遠くから見ているのが良いの。実際に付き合ったり結婚したいなと思っていたわけじゃないの。実際に好きになるタイプはまた違うのよね」

「そうなの?」

「うん。なんて言うの?小説の主人公に憧れる感じ?実際は家格が合わないのって大変そうだし、あそこまで顔の良い男がずっと側にいたら、気が休まらなそうだもの。あ!ごめん!もうセレナの旦那様なのに」


(良かった……本当に気にしていないみたい)


「新婚生活の話、聞かせてね!」

「う、うん。どうかな」

「えー。けちけちしないで!家なんて男爵家の上に貧乏だから本当に縁談なんてこれっぽっちもないのよ!私はこのまま針子として生きて行く決意をしている位だし、人の幸せな話で幸せな気分になるしかないんだから」


 気が付いたら始業時間になっていて、ふたりして遅刻してしまった。

 そのおかげで、予想していた針子部屋の人から朝から質問攻めはとりあえずは逃れられた。


 そして今日も忙しく、遅くなってフェリクス様が迎えに来たので、結局質問攻めにされずに一日が終わった。



 忙しくて針子部屋を出ていなかったセレナは、「あのフェリクス様が女性といた!」「フェリクス様と歩いていた!?」「フェリクス様に恋人ができた!?」「フェリクス様が遂に結婚するらしい!?」という二転三転する噂の末、最終的に「フェリクスは結婚した」という宰相からもたらされた正しい情報により王城中を衝撃が駆け抜けたことも、その話題で王城中が持ち切りになっていることも知らなかった。


 実は、昨日の時点で朝ふたりで出勤したのを見た人たちによって「ハーディング家の馬車から女性が降りて来た!」と一瞬で噂が広がっていた。

 噂が広まっている事をフェリクスは把握していた。

 だから昨日、御者からセレナがまだ帰っていないという言葉を聞いて、心配して魔石の力で居場所を確かめ迎えに行ったのだった。


 その結果、噂の真相を確かめようと宰相に確認した者から広められた情報により、今日は正しくふたりが結婚したことが新たな噂として上書きされた。

 フェリクスはそのことに満足感を覚えるのだった。


(これで、セレナは俺の物で俺はセレナの物だって皆に知れ渡っただろう)



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