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09

 

「うっ……」


 朝、脇腹に衝撃を受けて目が覚めた。

 見ると、ロイの足が私の脇腹に当たっている。

 同じ向きでベッドに寝ていたはずなのに、ロイは上下が逆になり頭側に足が来ていた。


(子供の寝相って凄い……)


 感心していると、寝室のドアが開く。

 顔を出したのは、すでに文官の制服に着替えたフェリクス様だった。


「セレナ。起きた?」

「はい。おはようございます」


 フェリクス様はベッドに腰掛けると、私を抱き寄せ目覚めのキスを求めてくる。

 思わずちらりとロイを確認すると、フェリクス様は「よく眠っているから大丈夫」と言って唇を重ねた。

 それから朝食を二人で食べる。


「念のため改めて言うけど、あの子の父親は俺ではないからね」


 席に着いた途端、フェリクス様は改めて否定してくれた。

 その言葉には安心させられるけど、気になっていたあれを聞くなら今なのでは?と思った。


「あの、その……」

「ん?」

「その、そういう関係の女性がいたことはないのですか?」

「セレナ、もしかして……」


 フェリクス様は驚いたような表情でこちらを見てきた。

 疑われていると思ったのかもしれない。

 自分は父親ではないと否定したばかりで、こんなふうに聞かれたら、信じていないように聞こえてもおかしくない。

 気分が悪いに決まっている。


「もしかして、俺の過去に妬いてくれてるの?」

「……え?」


 フェリクス様の嬉しそうな声が耳に届く。

 疑うような発言をするのではなかったとの申し訳なさから、つい逸らしていた視線をフェリクス様に戻すと、声と同じく嬉しそうな表情をしている。


 そうだった。私が少しでも妬くとフェリクス様は過剰に喜ぶのだった。

 まさか、こんなときでも喜ぶとは思わなかった。

 目が合うと、嬉しそうな表情からさらに瞳を細めて甘く笑むフェリクス様。


「セレナが初めて気にしてくれたことが嬉しい」


 過去を気にしたことがなかったわけではないけど、確かに直接聞くのは初めてかもしれない。

 笑みを収めたフェリクス様は、私に言い聞かせるようにいつもよりゆっくりと話す。


「俺にはずっとセレナだけだから。本当に、俺の心はセレナだけ。それは信じて」


 きっとフェリクス様は、私が不安になっていると思ったのだろう。

 しっかり目を見て話してくれたから、私もちゃんとフェリクス様を信じないといけないと思った。

 ロイが初めて『おとうさま』と言ったときに、あり得ないと感じた自分の直感も信じようと思う。


「城に着いたらすぐに貴族名簿から『ロイ』と名前の付く子供がどこの家の子か調べるよ。騎士団を通さなくても、名簿で判明したら直接送り届けたらいいから」


 ロイの服装を見る限り、少なくとも平民の子供ではないだろうと思われた。

 本邸にいるときにいろいろなことを聞いたが、ロイに家名を聞いてもわからない様子だった。

 家名がない場合は労働者階級になるが、昨夜本邸で夕飯を食べたとき、ロイはすでにテーブルマナーを理解していたし、夜も一人で寝ていたと言うから、やはり貴族の子供で間違いないだろうとなった。

 フェリクス様が調べてくれたら、きっとすぐにどこの家の子供か判明するだろう。


 ただ、こんな小さな子供を本邸の前に置き去りにしたことを考えると、判明したところであまりいい結果は期待できない。

 フェリクス様もそう思っているようで、このことについては口数が少ないように感じる。

 どんなことがわかったとしても、ロイにとってできるだけいい結果になってほしいと思う。


 朝から暗い雰囲気になってしまったが、それも少しの間だけだった。

 ロイが起きてきて一緒に朝食を食べることになったから。


 目覚めたロイは、寝室に誰もいないことで不安になったのだろう。

 私たちが居室で静かに朝食を食べていると、寝室のドアが勢いよく開き、焦った様子のロイが飛び出してきた。

 そして、私たちがいることがわかると安心したのか、目に涙を溜めていく。

 泣かないように我慢しているようだったけど、結局泣き出してしまった。フェリクス様に縋って。


 昨夜のようにわんわん泣くのではなく、堪えようと静かに泣いている様子にフェリクス様は困惑気味だったけど、縋ってきたロイの頭を撫でていた。

 こうして見ると、本物の親子のよう――とは思うけど、やっぱり正直ピンと来ない。

 だからか、二人を落ち着いて見ていられる。


 その後、落ち着きを取り戻したロイのお腹が鳴り、一緒に朝食を食べることになったのだけど、なぜかまたフェリクス様はロイと張り合っていた。


「ロイはちゃんとお野菜食べられてえらいね」

「うん」

「セレナ。野菜なら俺も食べられる」

「はい。そうですね」


 どうしてそんな当たり前のことを言うのだろうかと思ったら、その理由がすぐにわかった。


「俺は褒めてくれないの?」

「……えらいですね」


 求められているようだから褒めたけど、フェリクス様はそれでいいのだろうか?

『野菜を食べられてえらい』なんて。

 子供相手だから褒め言葉になるけど、大人相手なら馬鹿にされているように聞こえそうなのに。

(フェリクス様は満足気だからいいか……)


 その後も、些細なことでも私の注意がロイに向くと、フェリクス様はロイに張り合っていた。

 本当に子供が二人に増えたみたい。

 


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