二度目の夜会1
「わぁ……素敵!」
今夜は王城で夜会が行われる。
フェリクス様と出席する二度目の王城での夜会。
昨年、結婚して初めて出た夜会のときにも、私が身につけるものは全てフェリクス様が用意してくださっていたけど、今年もヘッドドレスから靴、アクセサリーまで全てフェリクス様が用意してくださった。
それらを今日、夜会当日のお昼に初めて見た。
上品で美しい光沢のシルクの生地はシャンパンゴールドで、ウエストから裾へと向かってグラデーションになるようにフェリクス様の瞳を思わせる青糸で繊細な刺繍がびっしりと入っている。
胸元にも同じように青糸で刺繍されている。
細かい手仕事に惚れ惚れしてしまいそうな、とても素敵なドレスだった。
それにしても――――
「完全にフェリクス様色ね」
「はい。合わせるヘッドドレスや靴もドレスと揃いの刺繍が入っていますよ」
「わっ、本当だ。……ねぇ、これは相当高いんじゃない?」
「そうですね――」
『旦那様。こちらの意匠は技術力も必要ですし、制作時間とお値段が相当なものになるかと思われますが……』
『だからそれを見越して早めに発注するんだ』
『あの……先日、大旦那様より被服費が嵩んでいるのが少し気になると仰られていたかと思うのですが』
『あぁ、そうだった……。だけど、これも俺の愛情表現だし。セレナの愛らしさを前にしたらこれくらい手をかけたものでないと。セレナへの愛に値段は付けられないだろ?』
『左様でございますか』
「――奥様は、ただ旦那様から愛されてください」
「え?な、なに?急に。愛されてって……」
「いえ。このドレスも旦那様の愛ということです。旦那様から愛されていると胸を張っていただきたい」
「ん?うん。よくわからないけど、わかったわ」
トニアやカルラに着替えさせてもらい、髪やメイクもしてもらう。
通常時よりも濃いめで華やかなメイクと複雑なヘアスタイルにしてくれた。
「セレナ、準備できた?」
「あ、はい。終わりました」
廊下からフェリクス様の声が聞こえたので返事をすると、すぐにドアが開き盛装姿のフェリクスが現れた。
「…………」
部屋の中に入ってきたフェリクス様を見て、私は口をぽかんと開けてしまった。
フェリクス様のジャケットの生地は、私のドレスより少しだけ濃いめの色だったけど、光沢の具合から私のドレスと同じ生地の色違いだとわかる。
更に、ショールカラー部分には緑の糸で私のドレスの胸元と同じ図柄の刺繍が入ってるし、ジャケットの裾から立ち上るように入っている刺繍は、私のドレスのスカートと同じ図柄だ。
そう。見るからに、お揃いだった。
「驚いた?」
「……はい」
「セレナが夜着をお揃いにしてくれたのが嬉しかったから。盛装で完全にお揃いにするのは難しかったけど、今回できる限り頑張ってみたんだ」
確かに頑張ったのだろう。
誰がどう見ても、これはお揃いに見える。
こんなの見たことがない。
夜会などではエスコート役やパートナーと大体行動を共にするため、パートナーとあまりにもチグハグになり過ぎないように気をつけるが、ここまで揃える人はいないはずだ。
これで二人で夜会に参加したら、確実に何か言われそうだ。
ただでさえフェリクス様と出席する夜会は、何もしていなくても注目を集めるというのに。
ここまでのお揃いの衣装を着て行くことが、社交界に受け入れられるのだろうか。
でも、鏡の前で二人で並び、鏡に映った自分たちを見てフェリクス様はニコニコと嬉しそうな顔をしているから、フェリクス様が幸せならまぁいいかと思えてきた。
◇
フェリクス様と夜会会場に足を踏み入れると、案の定、皆の視線が私たちに集まった。
けれど、皆の視線は明らかに私たちの首より下。
視線が左右に動いて、フェリクス様と私の服装を行ったり来たり。
そして、扇子で口元を隠してヒソヒソ。
このお揃い具合がどう取られるか心配だったけど、ヒソヒソ具合から推察するに、どうやら年配のご婦人方には不評なようだ。
きっと淑女らしさがどうとか言われているのだろうな……。
チラリとフェリクス様を確認してみたけど、フェリクス様はまったく気にしていない様子。
お揃いなのは少し照れくさいけど、それぞれで見たらとても素敵な衣装で、評判になること間違いないのに、不評なのは少し悲しいな。
しかし、この夜会以降、社交界ではパートナーとお揃いの衣装が流行ることとなる。
ヒソヒソと批判されていると思っていたけど、どうやら逆だったらしい。
フェリクス様と結婚するまで、まさか自分が流行を生み出す側になるとは思っていなかった。