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05

 我が家の長男が成人してからずっと、早く爵位を譲ってゆっくりしたいと言っていた私を無視していたのに、その長男が1ヶ月ほど前に急に爵位を継ぐと言い出した。

 その代わり、自分の結婚は自由にさせて欲しいと言う。


 案の定、我が家の影をこっそり使って、定期的に動向を報告させている初恋の子と結婚したいらしい。

 爵位を継ぐことと引き換えにしなくても、想い人との結婚なら、私は反対しないのに。

 まぁ、相手の事を知ればうるさい親戚連中は反対するだろうから、当主を継いで一族の長となってから結婚した方が表立った反対意見は減るだろう。


 継承の手続きや彼女と一緒に住む別邸の購入にリフォーム、別邸で働く使用人の選定など、1カ月ほどで終わらせて、10年以上前から同じ女の子に執着していたちょっとヤバさを感じる長男が、めでたくその初恋の娘と夫婦になったのは昨日。


 次期宰相候補とまで言われる手腕を発揮してまで、初恋の娘との結婚を取り付けたと思ったら、迎えたその日に凄い速さで婚姻届けを受理させた。――と、執事経由で聞いたのも昨日。

 別邸へ招いても婚姻届を出すのはもう少し落ち着いてからかと思っていたのに。家族に紹介もしないまま結婚するとは。


 今朝はそれはもうあま~い朝を迎えて、日がな一日ベッドから出ないのではと予想していたのに、件の長男が一人で本邸へやって来て目の前で焦った顔を晒している。


(リックの焦った顔なんて、久しぶりに見るな。……はっ!?)


「まさか!逃げられたのか!?」

「違います!!!」

「ほんの冗談のつもりじゃないか」

「縁起でもない!二度と口に出さないでください、そんな事」


 一瞬で鬼の形相になって否定された。

 妻に似て綺麗な顔をしているから、怒ると迫力が増して怖いのに。


「じゃあ、どうしたんだ?今朝は蜜月ならぬ蜜朝ではないか」

「なんですかその造語。そうではなく、魔力が増大したのです」

「あぁ。そのようだな」


 屋敷にフェリクスの気配が近づいてくると思ったら、魔力が増大している事には気付いていた。

 ただ、あれ程執着していた娘を結婚翌日に、しかも朝から放ってくるくらいだから、もっと重大な事だと思っていたのだ。


 ハーディング家長男なのに魔力が少ない事を――ハーディング一族の中では少ないだけで、一般的には充分ある方だが――子供の頃は悩んでいたから、魔力が増えたことは息子にとって一大事なのだろう。


「そのようだなって、どうしてそんなに落ち着いているのです?魔力は増えることがあるのですか?」

「普通はないな。だが、リックならばあり得る」

「もったいぶらずに分かるように説明してください」



 ハーディング家は代々魔力量の多い子供が生まれる。直系だけに限らず、一族全てにその傾向が強い。直系、つまり我が家は一族の中でも魔力量が多い上に、当主となる嫡男はその傾向が顕著だった。


 しかし、ハーディング一族本家の嫡男であるはずのフェリクスは、ハーディング家直系の子供とは思えないくらいの魔力量しかなかった。

 後から生まれた弟は本家の子供らしい膨大な魔力をもって生まれたのに。


 生まれてすぐは妻の不貞を疑う声も上がった程だった。顔こそ妻に似ているが、髪も瞳も色は私と同じなのでその疑惑も直ぐに晴れた。当時疑った者を私はまだ許してないけれど。



 子供の頃は親族の大人達が陰でフェリクスを嘲笑したり冷遇するものだから、周りの子供たちからも蔑まれてきた。


 まだ小さな子供なのに悩んで悩んで悩んで、心が壊れてしまうのではないかと思う程だった。

 ただ時を待つしか方法がなく、親としてどうにもしてやれない事がもどかしかった。


 ある日、吹っ切れたような顔をしていて、それからは文官を目指すようになったのだが。それがひとりの少女が息子を変えてくれたと知って、いつか私も会いたいと思っていた。



 ハーディング一族本家の嫡男なのに魔力の少ない子供が生まれることがあるのは、当主にだけ伝えられている事だった。


 膨大な魔力量に見合う体の丈夫さが無いと、勝手に制御されて魔力の少ない状態で生まれてくるらしい。

 成長するにつれ体が丈夫になったが、実際にフェリクスは赤ん坊の時はすぐに熱を出して周りをはらはらさせる弱い子供だった。


 だから、フェリクスの魔力量が少ない事には驚くことはなかった。解決方法も同時に伝えられていたから。


 その方法というのが、真に愛する者と床を共にする事だという。

 身体が丈夫になるにつれて制御された魔力量が増えていけば良いのだが、そういう簡単なものではないらしい。


 解決方法は万全ではないし、努力でどうにかなることでもない。

 そもそも真に愛する者と出会えるかも分からないし、周りがどうこうできるものでもない。

 更に厄介なのが、想いが通じ合っていなくても、当人が深く愛した女性とであれば良いという点だ。

 例え、相手が行為に同意していなくても、婚姻していなくても、完全なる暴行だとしても、その相手が真に愛するものならば制御が開放される事になっているらしい。

 故に、代々当主にしか伝えられない。


 ちなみに、本家の直系は身体が弱い者でなくても真に愛する者と体を繋げると魔力が増えるらしい。

 実際、私も妻と床を共にした後はほんの少しだけ魔力量が増えた。

 私は最初から魔力量が多かったので、増えたのは自分でしか分からない位に微々たるものだったが、フェリクスの場合は変化が激しすぎる。聞いていても驚くほどだ。


「しかし、言い伝えは本当だったのだな……」

「そ、そう、ですね」


 サッと視線を逸らして頬を染める息子を見て、我が息子ながら、男の初夜後の照れる姿を見ても全く可愛くないなと思う。


「それより、どうして言ってくれなかったのです」

「結婚したら教えようと思っていた。別邸に迎えると聞いたが、その日の内に婚姻届けを受理させると思っていなかったし、展開が早すぎだ」


 またサッと視線を逸らして頬を染める息子。


 ま、あれ程望んだ娘と結婚できたのだから、良かった。これまでの苦労も報われるというものだろう。


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