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04

 


「それで今はフェリクス様が侯爵家当主ということは、セレナさんはハーディング侯爵家で暮らしているのよね?」

「いえ、私達は別邸で暮らしています」

「え?そうなの?」

「はい。フェリクス様が私が住み良いようにと。本邸では家族もいて気を使うだろうからと」

「そう。それじゃあ今はおふたりで住んでいるのね」

「そうなんです」

「そうなの……」

 

 ブランカ様は何故か少しがっかりしたような期待外れのような表情をされた。


「どうかされましたか?」

「ううん。じゃあセレナさんは師団長とは一緒に暮らしていないのね」

「師団長?あ、はい。ヘラルド様とはそうですね」

「家での師団長ってどんな感じなのかしら?って少し気になって……」

「んー、お忙しいみたいで本邸に行ってもヘラルド様とは殆どお会いする事がないので」

「そうなの……」

 

 ブランカ様は王宮魔術師だから、上司のプライベートが気になったのだろうか。と思ったけど、私が知らないと言うとまた少し残念そうにした。


「あの、もしかして……ブランカ様はヘラルド様の事を?」

「……えぇ。私が王宮魔術師団に所属して間もなくからずっとお慕いしているの。あ、内緒にしてね?」

「はい、もちろんです」


 だからさっきがっかりしたような顔をしたのか。

 好きな人の家での様子が知りたかったのに期待した答えを私が持っていないのだものね。

 もしかしたらヘラルド様の私的な時間の様子を知りたくて私に話しかけてきたのかもしれない。それなのに何の情報も持っていないとはがっかりだろう。……なんだか申し訳ない。

 

 そういえば、ヘラルド様には婚約者はいないのだろうか?

 由緒正しい侯爵家なのに、フェリクス様に婚約者がいなかったのも不思議だけど、ヘラルド様も婚約者がいるとは聞いたことがない。

 私が知らないだけなのだろうか?

 でも、私達の結婚式の時「俺も兄上のように唯一の女性を見つけたいです」ってフェリクス様に言っているのを聞いた。

 ヘラルド様の性格は把握しきれていないけど、婚約者がいるのにそんな事を言う人ではない気がする。

 

「さりげなくアピールしているつもりだけど、全く気付いても貰えないのよ」

「そうなんですか」

「えぇ。1年ほど前から師団長の補佐官になれたの。だから以前より一緒にいる時間が長くなるしチャンスだと思ったのだけど……全然だめね」

「ヘラルド様は鈍感なのでしょうか?」

「きっとそうだと思うわ。すごくモテるのに、告白されるまで気が付かないみたいなの。お兄様のモテ方が尋常じゃないからそれに比べてって思っているのかも。あっごめんなさい」

「いえ。ブランカ様は告白は……?」

「そんな勇気ないわよ!」


 ですよね。

 貴族の間でも自由恋愛や恋愛結婚が認められ始めているけど、女性から告白するなんて相当な自信家か両想いである確信が得られないと難しい。私なら無理だ。


「―――アルマさんは相変わらずなのね!あぁ、可笑しい。すっかり話しすぎてしまったわね。そろそろ戻らないと。ヘラルド様の事で何かあれば教えてね?」

「もちろん。何か情報があったら手紙を書くわ」

「何もなくても手紙を書いてちょうだい。私も書くわ」


 ブランカさんとは王立学校の時はたまに話す位だったけど、こうして話してみると思ったより気があって話が盛り上がった。

 始めは久しぶりだったしお互い遠慮があったけど、話しているうちに敬語もやめようとなるくらいだった。

 ブランカさんは伯爵令嬢で私の実家は子爵家で格下だったから、学生時代から私は敬語だったけど、今の私は侯爵夫人で立場が逆転している。

 ややこしいしお友達なら敬語はなしで、お互いにさん付けで呼び合ってもいいだろうとなったのだ。

 

 すっかり話し込んでしまったので、フェリクス様がやきもきしてそろそろ迎えに来かねない。急いで下のフロアへ戻ることになったけど、階段に差し掛かったときに気付いた。


(はっ!この位置取りだと、階段では私が前になってしまうわ)


 かなり打ち解けたとはいえ、あの無様な姿はあまり見られたくない。こういう時は先に言ってしまうのが良いだろう。


「実は私ドレスに慣れていなくて、階段を優雅に上り下りできないの……」

「分かるわ。夜会用のドレスで階段を優雅に上り下りするのって難しいのよね」

 

(先に行って欲しかったけど、これだけじゃ伝わらなかった……)

 


 諦めて階段を下りる。

 ドレスのスカートをしっかり掴み、不恰好だけどしっかり下を向いて足に力を入れて。

 

「きゃあ!?」

(っ!?)

 

 少し階段を下り始めたところで、ブランカさんの叫び声と共に、背中にドスンと衝撃が来て押し倒され、階段を転がり落ちた。

 


 ◇

 

 

(痛…………くない?あれ?)


「セレナさん!大丈夫!?」

「あ、うん、大丈夫…………?」

「あぁ良かった!」


 階段の上の方から下までブランカさんとふたりで転がり落ちたのに、どこも痛くなかった。

 突然の出来事だったし、絶対痛いはずなのに不思議とどこも痛くない。

 今何が起こっているのかと咄嗟に反応できなくて、倒れて頭だけ上げた姿勢のまま静止していたら、ブランカさんの声で意識が引き戻された。


「セレナ!?どうした!?階段から落ちたのか!?」

「フェリクス様」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、すぐにフェリクス様が駆けつけて守るように肩を抱き起こされた。

 

「大丈夫?怪我は?痛いところはない?」

「大丈夫です。不思議とどこも痛くありません」

「そうか。念のため医者に診てもらおう」

「あ、ブランカ様は?ブランカ様は大丈夫でしたか?」

「私も無事です」

「2人で階段を落ちたのか?転んだの?」

「いえ……」

 

 ブランカ様が階段で躓くなり踏み外すなりしたのだろうか?


 でも、背中に衝撃が来た時、咄嗟に振り返ると階段を上っていたときに見たドレスと同じ色のドレスの裾が微かに見えた気がした。

 

「コルクト嬢が転んだのか?セレナが転んだ?何があった?」

「はい。階段を下りている時に私が何者かに背中を押されました。前にいたセレナさんを巻き込んでしまい、ふたりで階段を落ちることになってしまいました。奥様を巻き込んでしまい、申し訳ございません。ただ、咄嗟に保護魔法をかけたので無事かと思います」


 フェリクス様の冷たい視線がブランカさんに向けられたので私は少し慌てたが、ブランカさんは冷静に上司に報告するように説明する。 その説明で私も漸く自分の身に何が起こったのか理解した。


 なるほど。

 だから結構な高さから階段を転がり落ちたのにどこも痛くないのか。

 あの咄嗟の出来事に瞬間的に保護魔法を展開できるなんて、魔術師団長の補佐官をしているだけの事はある。

 

「そうか。だからセレナは無事なんだな。感謝する。しかし、何者かに押されたというのは?」

「セレナさんに続いて階段を下り始めてすぐに背中を押されました。突然のことだったので犯人は見ていません。階段を落ちきってからすぐに階段の上を見ましたが、誰もいませんでした」


「そうか……セレナ、念のために医者に診てもらおう。コルクト嬢も来てくれ」



 そしていきなりフェリクス様に抱き上げられた。

 騒ぎを聞きつけて人がたくさん集まり始めているのに恥ずかしすぎる。

 それに夜会用のドレスは布をたくさん使っていて凄く重いので、いつも以上に私を抱き上げるのは大変なはず。

 ただでさえ私は決して深窓の御令嬢のように薄い体をしている訳ではないのだし…。

 このまま休憩室へでも行くのだろうけど、1番近い部屋でもそれなりに距離がある。ソファからベッドへ連れられるのとは距離が違うのだ。

 

「あっあの、歩けます!自分で歩けますから降ろして下さい」

「だめ。今は気付いていなくてもどこか怪我しているかもしれない。大人しくしてて」

「大丈夫ですからっ」

「だめ」

 

 近くの騎士に何かを伝えた後、私の懇願を無視してフェリクス様はスタスタ歩き出した。

 ブランカ様も大人しく後をついて来ている。


 私は恥ずかしすぎてフェリクス様の胸におでこを寄せて人から顔を見られないようにするのが精一杯だった。


 

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