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02

「じゃぁ行こうか」

「はい」


 一昨日結婚式を終えた私たちは、今日から新婚旅行に出かけることになった。

 旅行先は隣の隣の国レドライク。一年中暖かくて海がきれいな場所らしい。

 隣の隣の国なんて凄く遠そうだけど、間に海があり「C」の字の湾になっている。

 その1番狭くなっている部分を船で渡っていくので、国ひとつ挟んでいても思ったよりは時間が掛からないし、同じ民族を祖先にもつ国なので言語も共通で言葉も通じるからこの国からの新婚旅行先としても人気の国だ。

 私たちの目的地は港からもそれほど遠くないので、寄り道せずに進めば片道5日くらいの道程らしい。


 今回は馬車2台と馬2頭での旅行になる。

 1台目にはフェリクス様と私、私の専属侍女のトニア。

 私の隣にはフェリクス様が座り、当然のように腰を抱かれている。私の前にトニアが座った。御者の隣にはマルセロも乗っている。

 2台目にはメイドとフェリクス様の専属侍従、そして旅行中の荷物も積んでいる。今回の旅行は行程が長いので荷物も多く、人は2人しか乗っていないのにかなり窮屈そうだった。

 さらに2頭の馬には騎乗して護衛が並走することになっている。


 貧乏低位貴族だった私にとって、3人もの護衛がいるなんて重々しいと思うけれど、これは仕方がないことだ。

 特別治安が悪いところを通るから護衛が必要なわけではない。

 

 この新婚旅行にはもう一つ、実は国王陛下からレドライクへの書簡をフェリクス様が届ける役目もあるのだ。

 今回は元々護衛の役目としてマルセロが私達の馬車の御者台に乗る予定でいたけど、書簡を届ける役目ができたため王城から2人の騎士が馬で付いてくることになった。

 フェリクス様が結婚休暇として1カ月間の長期休暇を申請したら、新婚旅行先を聞いた宰相様が「それならついでにかの国の王城に寄って書簡を届けてきて」と言われてしまったのだ。

 

 新婚旅行のついでなんて、そんな重大な仕事は引き受けられないと一度は断ったそうだけど、宰相様に「ただでそんなに長く休めると思ってるのか?こんなに忙しいのに?新婚旅行のついでが嫌なら、業務として行ってもらって構わないよ。その場合は仕事だから家族は連れて行けないがな」と言われてしまったそうだ。

 流石のフェリクス様でも宰相様には逆らえないらしい。


 そんな訳で重大なお役目を授けられたから、予定よりも大所帯になった。

 少し予定を変更せざるを得なかったけど、私としてはこんなに長期間に及ぶ旅行も外国に行くのも初めてで、とても楽しみにしていた。


「せっかくの新婚旅行なのに、仕事を持ち込んでしまってごめん……」


 初めてこのお役目について聞いたとき、フェリクス様があまりにも沈痛な面持ちで言うので、もしかして書簡を届ける席に私も同席しなければいけないのかと緊張してしまった。

 大変な事になったのではないかと思ったけど、ちゃんと話を聞いてみるとフェリクス様がお役目を全うする間、私は別行動で好きに過ごしていて良いと言われてホッとした。


 ひとまずレドライクまでまっすぐ行ったらさっさと書簡を渡して、役目を終えてから目的地でゆっくりと過ごす。

 そして帰路にのんびりと観光しながら戻る予定になった。

 

 当初の予定では目的地まで観光しながらゆっくり行く予定だったけど、行きと帰りの予定が逆になっただけなので、私は何も気にしていない。


 それに今回、侯爵家からの護衛にマルセロを連れて行ってはどうかと提案したのは私である。


 マルセロとトニアが夫婦だと知った私は、あの誘拐事件の後、落ち着いてからトニアに色々話を聞いた。

 仕事を辞めて暇だったのもあるけど、二人の馴れ初めからどうやって暮らしているのかまで根掘り葉掘り。

 色々話を聞いていたら、二人もまだ新婚と言って良いくらいだというのに結婚式も新婚旅行もなにもしていないというのだ。

 トニアは「私たちは平民ですから……」と言っていたけど、最近は平民でも近場で新婚旅行を楽しむと聞いた。してはいけないことなんてないだろう。

 トニアは私の専属侍女だから今回の新婚旅行についてくるのは決まっていたし、どうせならマルセロも一緒に来て少しは新婚旅行気分を味わってもらったらどうだろうと思ったのだ。

 現地で完全に別行動というわけにはいかないけれど、道中で時々ふたりに自由時間をあげられたらふたりも新婚旅行気分を味わえるのではないかと。


 それをフェリクス様に相談したら、「良いと思うよ。でも、それならセレナの侍女としてもう一人連れて行こう」と言われたのだ。


 私は身の回りの事は大体自分でできる。


 侯爵夫人になってからは背中にボタンが付いているドレスや背中側で締めるコルセットを身につける様になってしまったから、朝晩の着替えだけ少し手伝ってもらえると助かるけど、前ボタンのドレスを用意してくれたら、丸一日侍女がいなくても全く構わない。


 しかし、フェリクス様は侍女としてもう一人連れて行くことに決めてしまって、メイドのカルラの参加が決まった。

 本来は侍女ではないカルラに旅行に付き合わせるのが申し訳ないと思ったけど、カルラもこの旅行を楽しみにしているみたいだったから、良かった。


「楽しそうだね、セレナ」

「はい。知らない景色は見ているだけで楽しいです」

「うん。良かった。でも、俺の事も見てね?」

「えっと、一緒に景色を楽しみましょう?あ、あれは何をしているんでしょう?」

「ん?あぁ。あれは 河川の工事だね。あそこは水位が上がると氾濫しやすい場所だったんだ。だから、先月から工事を始めていたんだけど、順調みたいだね」

「そうなんですか」

「うん。完成すると川沿いに公園もできるようだから、デートに行ってみようね」

「はい。楽しみです」


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