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01

第二章スタートです。

 


 つい先日、フェリクス様との結婚式を終えた。

 婚姻届を出したのが急だったし、途中一時的に別居していたから、準備等に時間が掛かって約半年以上経過してからの結婚式だった。

 結婚式では初めてフェリクス様の親戚にお会いしたけれど、なんというか、中々に個性の強い方がちらほらいて、他の方があまり記憶に残らなかった。


 個性の強い親戚と言えば、以前別邸に突撃して来た母娘が来た。

 まさか結婚式当日に新婦控室まで来て喚かれるとは思わなかったけど。


「あなたね、くれぐれも勘違いしないようにと言ったではありませんか」

「縁談除けの仮の嫁が本当に結婚式を挙げるなんて、厚顔にもほどがありますよ!今からでも遅くないから辞退なさい!」

「……仮ではありません」

「まあ!口答えをするなんて!」

「フェリクス様にはちゃんと一族の話し合いで決まった相手がいるのですよ!このナディアが一族の話し合いでフェリクス様の嫁に相応しいと決まったのです。ナディアは魔力量も申し分なく、あなたでは比べ――――」


 母親が自分の娘が嫁に決まったと言うと、一緒に来ていたナディアという名前らしい娘の方が胸を張り顎をくいっとあげて、勝ち誇ったようにふふんと笑った。


(話し合いで決まった相手?フェリクス様から何も聞いていないし、お義父さまも何も仰っていなかった。むしろ、結婚式が楽しみだと会うたびに言われてたくらいなんだけど……どういう事なんだろう―――)

 

 今は確実にフェリクス様に愛されている自信があるし、信じているから前みたいにすぐに鵜呑みにはしないけれど、親戚の言葉を虚言と一蹴することもできない。


 それに、フェリクス様に以前『一族の中からお嫁さんを選ぶ予定だったのですか?』と聞いたときに一瞬目を逸らされたことがあった。

 あの後色々あって結局ちゃんと確認できていないままだった。

 まさか今更とは思わないけど、意味が分からない。


 母親の方がずっと何か喋っていたけど、私が思考の渦に飲み込まれかけた時、柔和なお義父様の声が控室に響いた。


「なんだい?騒がしいね」

「ベルトラン様!ベルトラン様からも仰ってください。この厚かましい娘は、婚約者に決まったナディアを差し置いて、フェリクス様の嫁として結婚式まで強行しようとしているのですよ。この厚かましい娘は、フェリクス様にとっては仮の、縁談除けでしかありませんでしょう?」

「知らない話だなぁ。どうしてフェリクスとナディアが結婚することになるんだい?もしかして、本家を抜きにして話し合いでもしていたのかな?我々に黙って、勝手に?」

「そ、それは……」


 お義父様は笑顔だけど、声や雰囲気に凄く迫力を感じる。

 お義父様の迫力に押されたのか、先程までの威勢はどこへやら。

 母娘は急に表情をひきつらせ始めた。


「本家を抜きに本家のことを決めようとしていたとはねぇ。問題だねぇ、これは」

「ち、違うのです」

「ん?ナディアが婚約者に決まったって言ったよね。ちゃんと聞いたよ。でも、私もフェリクスもそんな話し合いには参加していないし、もちろんそんな話に了承していない。セレナちゃん以外をフェリクスの嫁として承諾するわけがない」

「……何故ですか。何故!こんな、魔力もほとんどない平凡な娘なんかを本家の嫁に!?ナディアの方が魔力があります!一族で年の頃の合う女の中では一番。それにナディアは美しい娘でしょう?幻術も得意で才能もあります。フェリクス様をハーディング家を支えられるのは私の娘ですわ!」


 急に母親の方が顔を赤くして、大きな声を張り上げてお義父様に訴えかけ始めた。

 すると、それまで表面上は笑顔で対応していたお義父様からついに笑顔が消えた。


「君たちは何かって言うと二言目には魔力量。昔から何も成長していないのか。魔力量が物を言った大昔ならいざ知らず、便利な魔道具も術の研究も進んでいる今の時代、魔力量自体は問題じゃない。そんなことも分からず、いまだに魔力量に固執しているんだったら……そうだな。いらないなぁうちの一族には」


 最後の一言が効いたのだろうか。母娘の顔色が悪くなり始めた。

 お義父さまの顔に再び笑顔が浮かぶ。


「昔から気に入らなかったんだ、君たちみたいな考えの人間。丁度いい機会だよね。隠居した身とはいえ、最後の仕事として一族の中を整理することにしよう。まずは、君たちヴァイル家からだよ。楽しみにしていて」

「そっそんなこと。いくら前当主と言えど、そんな横暴な事できるはずがありませんわ。―――失礼!」


 母娘が新婦の控室を出て行こうとすると「あ、今日の結婚式には出ないでね。フェリクスが愛しているのも、フェリクスと結婚するのも、ハーディング家の嫁もセレナちゃん以外にあり得ないんだし。それに、ヴァイル家はもう部外者なんだから」と追い打ちをかけていた。


 バタバタと足音が遠ざかっていき、控室が静寂に包まれる。


 なんだかすごい事になってしまったのではなかろうか?


「ふぅ……。ごめんねぇ、セレナちゃん。結婚式前に嫌な思いさせちゃって」


 先程までの迫力がすっかり霧散していて、眉を下げて本当に申し訳なさそうに言われる。

 逆にこちらが恐縮してしまいそうな雰囲気だ。


「私は大丈夫です。でも、良かったのでしょうか」

「ん?あぁ、大丈夫。セレナちゃんは、フェリクスが昔は魔力が少なかったのは聞いた?」

「一応。でも、少ないと言っても人並み以上だったのではないのですか?」


 はっきり聞いた訳ではないけど、ハーディング一族なのだから私なんかとは比べ物にならない位にあったのではないかと想像できる。


「そうなんだけど、うちの一族の中では少ない方だったんだ。だから、フェリクスは小さい頃に親戚から裏では蔑まれていた」

「え……!」

「まぁ、次期宰相候補と言われ始めた頃からかなぁ、多くの親戚の態度も一変したんだけどね。でも、やっぱり本質は変わらないんだねぇ。フェリクスが子供の頃は私もまだ若くて、好き勝手言う親戚を押さえることができなかったけど、当時から許せなくてねぇ。可愛い息子を悪く言われて、腸が煮えくり返る思いだったんだ。いいきっかけを貰えたよ」


 にっこり笑うお義父様に、「そうだったんですか」としか返せなかった。 間違いなくお義父様は怒らせてはいけない類の人だ。


 お義父さまの口ぶりだと、本当に一族の中を整理しようとしている気がしてならない。

 一族を整理って、どういうことをするのだろう?と思ったけど、怖くて聞けなかった。


 歴史のある高位貴族は領地が広く、その時代その時代で褒賞として賜った土地が点々として、領地が飛び地になっている場合もある。その点在している領地を下位にあたる一族に分担して管理を任せている事も多い。


 整理をするというのは、管理を任せていた領地を別の分家や本家が管理するようになるということなのだろうか。

 確かにそれなら当主の一言でいくらでも覆るだろう。


 領地を譲渡なり売却なりをする時は大量の書類の手続きがあるが、領地の管理人の変更は比較的簡単にできると聞いたことがある。


 お義父様はもう当主ではないけど、今のやり取りを聞いたらきっとフェリクス様も反対しない気がする。

 もしそうなると、管理していた土地がなくなった分家は、私の実家のように領地なしの貴族となる。

 実際うちも昔はとある一族の一員として領地の管理をしていたらしい。領地なしは上手いこと生きて行かないと、うちのように没落していくだけだ。


 さっきの母娘は歴史あるハーディング家の一族であることを誇りに思っていそうだし、私の予想通りなら、一族を整理するなんて簡単な事ではない。

 当主の一存で決められることだとしても、絶対に反発も生まれる。


「そういえば、セレナちゃんにお礼を言いたいと思っていたんだ」

「お礼、ですか?」

「うん。セレナちゃんは幼い頃にフェリクスを助けてくれた事があるんだ。聞いた?」

「一応聞きました。でも、覚えていなくて」

「フェリクスが確か10歳位だったと思うから、セレナちゃんは8歳位かな?多分。覚えていなくても不思議じゃないよ。でも、今のフェリクスがあるのは間違いなくセレナちゃんのお陰だ。フェリクスを救ってくれて、ありがとう。そして、これからも愚息をよろしくお願いします」

「こちらこそ。私はハーディング侯爵家の嫁として何から何まで不足している未熟者ですが、よろしくお願いいたします」


 結婚式前には一波乱あったけど、結婚式自体は恙なく終えることができた。


 新郎の衣装を着たフェリクス様は、ただでさえ美麗な容貌が一層輝いて見えて、隣に立つのが嫌になるくらいだった。

 きっと凄く格好良くて素敵なのだろうと思っていたけど、花嫁より目立つ新郎って。


 トニアやメイドさん達がせっせと朝から準備してくれて、自分でも今日の私は綺麗に見えるんじゃない?って自惚れかけたけど、明らかにフェリクス様の方が美人で、高くなりかけた鼻はすぐに折られた。


 それでもフェリクス様の私を見る目はずーっと甘くて、私の心は満たされていた。

 ことあるごとに「綺麗だよ」「可愛い」「なんて美しいんだ」「愛してる」「幸せだ」「どうにかなってしまいそうだ」「幸せすぎて怖い」「もう絶対に離さない」「俺だけを見ていて」等々、甘い言葉の数々を耳元で囁かれ続け、ある種の洗脳の様だった。

「愛してる」に至っては100回は聞いたのではないだろうか。


 その後、本邸の大広間と庭を開放して披露宴が行われた。


「はじめまして。僕はドゥシャン・ビエダ。フェリクスとははとこだ。よろしくセレナさん」

「よろしくお願い致します」

「僕は王城で魔術師として働いているのだけど、セレナさんが仕事を辞める直前の2人の仲睦まじい姿は城で見かけていたよ。僕もフェリクスの変わり様には驚いたけど、ヘラルドは笑っちゃうくらいに本当に驚いていたよね」

「お恥ずかしいところを……」

「恥じらうなんて初々しい。花嫁はこうでなくちゃね。フェリクスも少しは恥じらったらどうだい?」

「セレナを愛でるのに何故恥じらう必要がある」

「はぁ。フェリクスは相変わらずだな。まぁいいや。僕から2人へのお祝いだ!」

「わぁ!凄い!綺麗!」


 ドゥシャン様がお祝いと称して魔法でキラキラした光を天井から降らせてくれた。

 降り注ぐ光に目を輝かせて喜ぶ私を見て、嫉妬したフェリクス様が私を庭へ連れて行き、魔法で空に大きな虹を掛けてくれた。 しかも二重の虹。


 凄い!凄い!と喜ぶ私に気を良くしたフェリクス様が、今度は披露宴会場内に魔法で作り出した蝶や小鳥を飛ばしだした。


「凄いです!フェリクス様!幻想的で素敵です!フェリクス様は何でもできるのですね!」


 私の言葉に笑みを深めたフェリクス様は、蝶結びに結ばれたリボンを浮かべ、それがほどけさせては形を変えてみせたり、最終的にはユニコーンが駆け回る幻まで見せてくれて、お義父様にやりすぎだと怒られていた。


 パメラやアルマ、イヴァン様もお祝いに駆けつけてくれたし、良い結婚式だった。

 パメラは「こんな豪華な食事なんて久しぶりだから、たくさん食べて帰るわ!」と言っていた。私もフェリクス様と結婚していなくてこんな豪華な結婚式に呼ばれたら、同じ事を思っただろう。


 親戚のみなさんが挨拶してくれた時、私に対して少しでも嘲りを浮かべようものならフェリクス様が威嚇したり、好意的な雰囲気だったのに「これはこれは、可愛らしい魔力量のお嬢さんだ」と言う親戚に、お義父さまの笑顔が黒く染まったりしていたけど、無事に一日を終えられてほっとした。


 


 


 

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