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本日2話目です。
久しぶりに別邸でフェリクス様と食事を取り、湯あみをして後は寝るだけの状態になった。
フェリクス様に助けてもらって以来、気になっている事がある。
以前は、じっと見つめられてるのは日常茶飯事で、手を重ねたり腰を抱いたりと接触が多かったのに、今日は指一本触れて来ない。
フェリクス様のことだし攫われた後だからと配慮している可能性も考えられるけど、そうではないような気がしている。
だって、視線もあまり合わないのだ。
助けに来てくれた後から目が合ったと思っても、フイと逸らされ続けていた。
逸らされる直前に怯えが浮かんでいるような気がするのは気のせいだろうか?
湯あみを終えて居室にやって来たフェリクス様は、いつもなら近すぎる位に距離を詰めて横に座るのに、向かいのソファに座った。
明らかに距離を置かれていることがショックだ。
私が良いと言ってくれたけど、やっぱりまだなにか怒っているのだろうか?
それとも、もう触りたくない位に気持ちが冷めてしまわれたのだろうか。
結婚しなおすのが面倒だし離婚は醜聞だから仕方がなくこのまま継続するだけの可能性も考えられる。
「どうして……」
「ん?」
「どうして向かいに座るんですか。今までは横だったのに……やっぱりまだ怒っているのですか?」
「違う!そうじゃない。それに、それは俺の誤解だった。本当にごめん。申し訳なかった」
「じゃあ、どうして横に座らないのですか?」
「怒りに任せて……怖い思いをさせてしまったから。俺の事はもう嫌になったかもしれないと思ったし、俺が近寄ったら怖いかと思って……」
「嫌になんてなっていません。怖くもありません。今までと違う方が嫌です」
「しかし……」
ここまで言ってもまだ何か言い募ろうとして向かいの席から動こうとしないフェリクス様をじっと見る。
またフイと目を逸らされた。
「―――行っても良いのか?」
「来てください。早く」
フェリクス様は向かいの席からテーブルを回り込んで遠慮がちに隣の席に座った。
しかし、フェリクス様が座ったのは今までの距離感より少しだけ遠かった。
その距離の分だけフェリクス様の心の葛藤を表していると分かる。
でもそれが寂しく感じた私は思い切ってフェリクス様に抱き着く。
「っ!セレナ……許してくれるのか?こんな俺を」
「はい。距離を取られる方が悲しいし寂しいです」
フェリクス様も腕を回してぎゅっと抱きしめてくれた。
耳元で、「ごめん。ほんとうにごめん。もうセレナを疑ったりしない」と言われて、コクコクと頷くと、抱きしめる腕の力が強まった。
◇
ふたりで仲直りの甘い時間を過ごした後、今日トニアが言っていた事が気になって聞いてみた。
「アルマがこちらに来たのですか?」
ちょっと待っててと言って、一度居室へ行ったフェリクス様が万年筆を手にベッドへ戻って来た。
「これを、アルマ嬢が届けに来てくれたんだ。その時に誤解してると怒られてね……」
「アルマが、フェリクス様に怒ったんですか?」
「うん。誤解だから迎えに行けってね。セレナは良い友達を持ったね」
「そうでしたか。アルマは学生の時の友人で、今でも仲が良いんです。あ、たまにお茶をしに行ったり招いたりして良いでしょうか?」
「もちろんだよ。これ、ありがとう。大切にするから。セレナの色が入っているし、肌身離さず持ち歩くよ」
万年筆に唇を寄せるフェリクス様は、今の気だるげな雰囲気と相まってとても色っぽかった。
フェリクス様の唇が寄せられた先が、ペリドットが埋められた場所だったので、妙に恥ずかしく感じる。
アルマの言う通り、アクアマリンではなくペリドットにして良かった。
「そういえば」
「ん?」
「犯人は魔術師団の副団長だったんですよね?ピアスが魔石だって気が付かなかったのでしょうか?ネックレスは外れてしまったみたいですけど」
「セレナを攫ったのは使用人だったから気が付かなかったのかもしれない。魔石だと思っても、何の作用があるのかはぱっと見では分からないし。魔石だと気付けば術の内容が分からなくても外すと思うけど、犯人が間抜けで助かったよ。それに、追跡の術は、ハーディング家に伝わる術だから使用人は知らなかった可能性もあるな」
「家によって伝わっている術があるのですか」
「うん。代々魔術師を輩出している歴史のある家には、何かしらあるね。家の先祖は戦闘よりも諜報を得意としていたらしいから、諜報に役立ちそうな術が伝わっているよ」
ネックレスが外れていることに気が付いたときはショックだった。
失くしてしまったかと思ったけど、ネックレスはフェリクス様がすでに修理に出してくれているらしい。 失くした訳ではなかったみたいで安堵した。