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「お誕生日、おめでとうございます」

「は?」


 セレナがこの家を出て行ってから1カ月位経ったある日、一人の女性と対面していた。

 セレナの友人だという、女性だ。

 影からの報告書にも時々名前が上がっていたからアルマという名前には覚えがある。


 1週間ほど前から、女性が毎日俺を訪ねて来ていると報告を受けていた。

 実家にいた時にも、令嬢が俺を訪ねて来る事はたまにあった。 知らない女性をいちいち取り合ったりしないのだが、執事が会った方が良いと進言してきた。


 ハーディング家に長く勤めている家令補佐を、新居の執事として取り立てた。

 主をたてるのも上手いし気の利く仕事ぶりを評価していた。

 その執事が、自分の進退をかけても構わないので、このご令嬢に会ってみて欲しいとまで言ってきた。

 使用人の進言に進退をかけるなんて、そこまで器の小さな主人ではないと思うのだが。


 そして、会ってみると名前に覚えがあり、セレナの友人だと分かった。


 ただ、いきなりの誕生日おめでとうだ。

 意味が分からない。 誕生日はもう過ぎた。

 ひとり寂しく過ごした事を思い出して、眉間にしわが寄る。


「こちら、セレナから依頼されていた品物です。どうぞ、開けて見て下さい」


(セレナの?どういうことだ?)


 ひたりと目の前の女性と目を合わせて、真意の程を伺い知ろうとする。

 しかし、目の前の女性も強い意志をその瞳に浮かべて、じっとこちらを睨みつけている。


「ふぅ―――わかった。開ければ良いんだろう」


 包みを開けて見ると、中には見慣れない物が入っていた。


「それは万年筆といって、私の父が経営する商会が最近輸入を始めた、ペンです。セレナがフェリクス様の誕生日が近いからと、注文を受けていたものです。柄の部分にペリドットを入れる加工をしています」


 手に取って、言われた柄の部分を見ると、セレナの瞳の色と同じ石が埋め込まれていた。 彼女を思い出させる色に胸がざわめく。


「加工に数日かかりますので、注文を受けた翌週に私がこちらへ届けに来る予定でした。友人ですので、ついでにゆっくりおしゃべりさせてもらう予定で。ただ、私は体調不良で来られなくなりました。セレナは、お店に直接取りに来てくれたようですが、加工に思ったより時間が掛かってしまって、その日は渡せず。翌日、弟がこちらまで届けに来ました」


(まさか…………)


「セレナに品物を渡す前に、弟は気付けば敷地の外にいて、もう一度訪問しようとしても何故か阻まれて訪問することもできなかったそうです。それで、私の体調が落ち着いてから漸くセレナに話を聞けたのですが――誤解だったと、理解いただけましたでしょうか」

「そんな……。それでも、君の弟と良い仲の可能性もあるのではないか……」

「あり得ませんね。私の弟は大人っぽく見られますが、あれでもまだ16歳になったばかりなんです。もっと子供の頃から知っているのでセレナにとっても弟みたいな存在です。店では文官であられるフェリクス様に喜んでもらいたいと言って、セレナは真剣に選んでいました」

「……セレナが、俺のために?」

「はい。それに、石を入れられると言うと、すぐにアクアマリンを入れたいと言ったんです。フェリクス様の瞳の色だからと。自分の色を持っていて欲しいと思うよりも先に、あなたの色を思い浮かべる子なんです。ペリドットにした方が良いというのは私が提案したんですが、照れていました。他に良い人がいたらあんな表情しません」

「……店は、どこに構えているんだ?」

「父の店ですか?3番街です」


『実は、わたくしここへ来る前に見てしまったのです!3番街で!奥様が男性と親し気に話しているところを。見つめ合って笑っていましたし、あれは只ならぬ関係に違いありませんわ!』


(そう言う事だったのか……)

 

「俺の誤解だという事は理解した。……しかし、今更どの面下げて」

「普通に。普通に迎えに行けば良いのです。それで、誤解してたごめんって言えば良いだけです」

「酷い事を言ったんだぞ?許してもらえるはずがない……。家を出ているんだ。俺なんかを許せないからだろう?」

「はぁ。フェリクス様って、噂と違って情けない」

「情けない?」

「誤解だったと分かったのに。うじうじネガティブ思考がさく裂してますよ?過ちは誰にだってあります。私はセレナって結構寛容な人間だと思いますよ。それに、この家をすぐに出て行かなかったのは、待っていたからだと思いますけど」


(待っていてくれたのか?あんな酷い事をしたのに。俺を?)


「一度出て行った手前、家格にも差がありますし、セレナが自分から戻ってくるのは難しいと思います。実家にいますので、迎えに行っていただけないでしょうか。お願いします」


 目の前で頭を下げる彼女に強く背中を押された気がした。

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