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「特産物……」
「えぇ。うちの領はあまり土壌が良くないのか、普通の農作物は育てるのが難しくて。染料用の花や綿花を中心に育てているんです。鉱山もないし、街道からも逸れているし……」
「花から抽出した染料が特産なのでは?それに、特産物というのかわかりませんが、ここにはニミウコ染めの技法がありますよね?一昨年くらいから王都でも流行っていて、今やニミウコ染めの生地を使って夜会のドレスを作るのは、ステータスのようになっています。誇るべきことではないでしょうか」
「えっ、本当ですか?」
「はい。王妃様がドレスに取り入れられて、それから」
「そうなんだ。王妃様が……。それは嬉しいな。王都の洗練された方々に、うちの伝統技法が求められていたなんて」
陰り始めた表情がまた明るさを取り戻したことにほっとする。
王女様が領地のことを誇りに思い、大切にしていることが伝わってきた。
「あ。薬草茶はどうでしょうか」
「薬草は各家庭の庭や畑で育てていますが、それ自体は珍しいことではないですよね?それに、薬草茶は貴族から敬遠されがちですよね?幼なじみも元婚約者も薬草茶は飲みませんでした」
王女様を元気付けようとしたのに思慮が足りず、自分が嫌になる。
「あ!でも!昨日出していただいた薬草茶ですが、あんなに綺麗な色の薬草茶は見たことありません。染料の素材にお花があることは知られていますが、あんなに可愛くて綺麗な色のお茶があるとは知られていないと思うのです。充分、特産品として売り出せるはずです」
「でも、薬草茶は薬草茶。ハーブティーというならまだしも……」
「実は私、実家が貧しかったので、たまに自分で商売をするなら……と考えることがあるのですが、こちらで飲んだあの薬草茶は王都のカフェで出しても流行るのでは?と考えていたのです。あの色の可愛さは、一度でも知ってもらえたら噂になると思うのです」
「色って、昨日も仰っていましたが、そんなに珍しいでしょうか?」
「はい。自家製の物も市販品も、薬草茶って大体薄い緑や茶色が基本です。あんな可愛らしい色は初めてでした。花畑の多いこの土地ならではだと思います。薬草茶に限らず、ハーブティーでもあそこまで可愛らしい色のお茶はありませんし。オレンジピールを入れてあったのも、薬草茶特有のにおいを消していてとても飲みやすかったです。昨日いただいたような薬草茶なら、王都の女性に受けると思うのです。貴族のご婦人方って、噂好きな人が多いので、話題になれば少しずつ広がるんじゃないかと思います」
「王都で噂になれば、うちの領地で採れる花が染料以外にも広まるかもしれない……。だけど、特産品というなら貴族の方に認識してもらわなければならないけど、薬草茶ってだけで飲んでもらえず、嫌な顔をされて終わりじゃないですか?」
「貴族は紅茶で平民は薬草茶というのは偏見だと思っています。薬草茶は健康的な飲み物なのに。女性はいろいろと体の悩みを抱えている方も多いから、平民の間ではむしろ積極的に飲まれているそうですよ。治癒士に診てもらうほどではないからとか、相談するのが恥ずかしいからとか。そういうちょっとした悩みを抱えている人は貴族にも多いと思うのです。そういう方には薬草茶はとても良いと思いますし、貴族でも偏見のない方はいると思います。王都は人が多くて様々な人がいるので、偏見がなくて影響力のある人もいるはずです。そういう方が発信してくれたら、きっと、いや絶対に特産物として――ぁっ。す、すみません。つい熱弁してしまって」
話している間に熱くなってしてしまい、気づけば王女様が圧倒されたような表情になっていた。
「いいえ!侯爵家のご夫人が自分のことのように考えてくださるなんて、とても嬉しいです。感激しました!」
王女様から両手を包まれ、きらきらとした瞳で見つめられる。
すっかり話がずれてしまったけど、王女様の表情が明るくなって良かった。
ほっとしていると、壁をノックする音が耳に届く。
振り返ると、フェリクス様が立っていた。
お手洗いに行ったきり戻ってこないので、心配して迎えに来てくれたらしい。
その後、染色工場や品種改良に取り組んでいる野菜、新品種のりんごなど、ヤンセン男爵領で力を入れている物を見学した。
王都で勉強したときは、『これといった特産品がない』と習ったけど、実際に足を運んでみると、まだ知名度がないだけで充分他の地にない物があった。
そのことを王女様に伝えると、嬉しそうに喜んでくださった。
「きっとお父様の宣伝が下手なのね。もっと上手くできたら、可能性は広がりそう。教えてくださりありがとうございます!」
一通り案内してもらって夕方に男爵邸に戻る。
私たちはすぐに自分たちの馬車に乗り換えてそのまま宿へ戻ろうとしていたけど、王女様に引き止められた。
「昨日のお話の返事をしたいと思います」
そう言った王女様の瞳は力強かった。




