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王城中に女嫌いと噂されていたフェリクスの結婚が知れ渡ったが、それと同時に魔術師たちには別の噂も駆け巡った。
「師団長!師団長のお兄様の魔力が爆上がりしているって本当ですか?」
「あー。なんか、そのようだね」
「魔力量が増えるなんてどういう仕組みですか!?」
「俺にもよく分からないんだ。父に聞いてもはぐらかされるし」
「研究、させてもらえないですかね?」
「あの兄だよ?無理でしょ」
「ですよね……」
魔術師にも2つのタイプがある。
身体を動かしたり魔術を繰り出すのが好きな武闘派タイプと、戦いには興味がなくて術の研究や魔道具の研究が好きな研究肌タイプ。
研究肌タイプは、色々な事を研究している。
魔力を増加させる方法を研究している者もいるが、生まれ持った素質に起因するという定説以上の発見は今のところない。
それが、大人になれば魔力量はそれ以上増えないという定説を目の前で覆されたら、研究したいと思うのは仕方がないだろう。
ただ、研究肌タイプの魔術師の多くが気弱なので、あの怜悧で美麗な兄を前に「研究させてほしい」という勇気は、多分ない。勇んで行っても本人を前にしたら何も言わずに逃げ帰ってくるのは目に見えている。
「まぁ。何か分かれば教えるから」
「本当ですか!?」
「あの父が言わないってことは、望みが薄いと思うけど」
「確かに、前師団長が言わない事ならダメそうですね……でも、分かったことがあればその時は是非教えてください!」
力のある魔術師なら、見れば相手の魔力量や性質がなんとなくわかる。
俺よりも圧倒的に少なかった魔力量が、今や俺に匹敵するくらいになった。
結婚するからと実家から出て行った兄は、今やたまに王城で見かける程度だから、本人にゆっくり話を聞くこともできない。
父に聞いても話をはぐらかされるということは、一族の秘密に関係あることなのかもしれない。
もしかして、俺も結婚したら魔力が増えたりするんだろうか?
今は宰相補佐をしている兄だが、俺からすると努力を怠らないすごい人だ。
魔術師になるのを諦めたのかと思ったけど、魔術師としての鍛錬も欠かさず行っていた。
一族の当主としては確かに魔力が少なかったが、センスはあるのだ。
技術力で言えばいまや一族の中でもトップクラスだろう。本人が言わないから知られていないが、兄が生み出した魔道具もある。
魔力量が少ない事で俺を跡継ぎに推す親戚もいたが、魔力量が少なかろうと兄が当主として相応しいと思っている。
魔術師を目指さなかった兄に代わって仕方なく父の後を継いで魔術師団長になったが、そもそも俺は師団長なんて柄ではないんだ。
長として纏めるのに向いていないと自分でも思う。
責任を求められない末っ子として生きてきたから、本来はもっと自由に生きたい位だ。辞めていいなら師団長なんて辞めたい。
それにしても兄が選んだ女性というのはどんな人なのだろう。
弟の俺から見ても女性を毛嫌いしているように見えたけど、実はずっと想っていた女性がいたらしい。
兄が懸想してきた女性。興味がある。
◇
「フェリクスの魔力が増大したというのは本当か?」
「実際に見てみたけど増えていた」
「何故だ?どんなカラクリがあって」
「詳しい事は分からない。聞いたところによると嫁が癒しの力を持っているらしい」
「希少な。魔力量は?」
「嫁も見たが、魔力量は少なかった。ほとんど役に立たない位に」
「なんだ。それじゃあ嫁の線は消えたか」
「癒しの力を持っている女と結婚した途端に魔力が増大したんだ。そこに秘密があるとは思わないか?」
「その嫁の持つ力に秘密があるのか?」
「そうだ。フェリクスよりも嫁の方に何かあると考える方が自然ではないか」
「確かに、名門と呼ばれる一家の嫡男なのに魔力量が少なかった。それが、今やヘラルドに匹敵する魔力量になったと聞いた。もしそんなことができるならとっくの昔にやっているはずだ」
「……その娘、欲しいですね」