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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第七章

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 急にどうしたのかと振り返りたかったけど、いつになくしっかりと肩を抱かれているので、振り向くことができない。


「どうしたんですか?」

「本当に、ごめん。急に俺の仕事に巻き込んで。改めて謝る。……嫌いになってない?」

「正直、いきなりで戸惑いましたし、少し不安もあります」

「セレナは本当に何もしなくていいと思ってる。邪険にしてるとか、そういうことではなくてね。これは俺の仕事だし、セレナに一緒に来てもらう以上の負担は強いられないから。……と言っても、王女から指示があれば、セレナにお願いせざるを得ないこともあるだろうけど。できる限り、俺やイヴァンが対応するから」


 私が嫌になっていないと否定しなかったからか、フェリクス様の腕の力が一層強まったのを感じる。


「大丈夫です。やっとフェリクス様のお役に立てると思うと嬉しいって、昼も言ったじゃないですか。あれは嘘ではないんですから。それに、こんなことでは嫌いになりません」


 フェリクス様は腕の力を緩め、顔を覗き込んできた。


「無理してない?」

「していません。以前から、フェリクス様を助けるためにできることは何かないかと考えていました。与えられたり庇われたりするばかりではなく、私も同じだけお返ししたいんです」


 フェリクス様は私をとても甘やかしてくれる。

 その最たるものが、妻としての役割だと思う。

 名門ハーディング侯爵家の当主の妻なのに、私に当主の妻らしいことは一切求めてこない。

 結婚当初こそ、いきなり『侯爵夫人であること』を求められず、ほっとしていた。初めのころはそれが気楽だった。

 だけど、守られ続けていると、頼りにされていないような気がしてきてしまう。

 それに、このままではフェリクス様がいなければ、私は何もできないつまらない人になってしまいそうで怖い。

 今は、そばにいてくれるだけで良いと言ってくれる。実際、何もしないほうがフェリクス様はむしろ満足そう。

 私はそれに甘えている。

 だけど、いつか気づいてしまうかもしれない。自分がいなければ何もできない女は、ただの負担でしかないと。

 そうなったら、捨てられる可能性もゼロではない。

 だから、いざというときには支えることができる女性になりたい。

 お義父様が拘束されたときのように、しばらく経ってから打ち明けられるのではなく、すぐに相談してもらえるくらい頼もしく思ってもらいたい。

 信頼してほしい。どんなときも互いに支え合える夫婦になりたい。

 これはきっと、その第一歩となるチャンス。


「そんなふうに思っていたんだ。いつも言ってるけど、セレナはいてくれるだけで充分俺の支えになってるよ」

「私が、もっと実感したいんです」

「俺の愛、まだ伝え足りてない?」


 フェリクス様はわざとらしく雰囲気を変えて、意地悪な笑顔を浮かべた。だけど、頭を撫でる手つきが優しくて、想いが伝わってくる。


「それはもう充分伝わってますっ」


 私もわざとらしく言うと、フェリクス様は「ははっ。良かった」と目を細めた。


「私を任務に連れてきてくれてありがとうございます。頑張りますね」


 私が真面目に言うとフェリクス様も雰囲気を変えた。

 真剣な眼差しのフェリクス様と目が合い、気が引き締まる。

 本気度が伝わるようにしっかり目を見合っていると、なぜか観念したようにフェリクス様が眉を下げた。

 抱きついてきて、秘密を打ち明けるかのように耳元でぼそっと言う。


「……本当は嬉しかったんだ。一緒に来られて。三週間。下手したらもっと。そんな期間、セレナと離れるなんて気が狂う。だから、一緒に来られて良かったよ」

「そう、なんですか」


 気が狂う――久しぶりの大袈裟な表現に、少し言葉に詰まってしまった。


「出張中はいつも離れ離れになってしまうけど、今回はずっと一緒にいられるからね。一人の出張は疲れるだけだけど、今回は一緒だから疲れない」

「それは気のせい……あっ!そうだ!フェリクス様、ちょっと離してください」


 腕をぽんぽんと軽く叩いて離してくれるように言うと、フェリクス様はすぐに「いやだ」と言って一層腕の力を強めた。

 そして、そのまま私の首筋に唇を落とす。


「待って。待ってください。今、いいことをしてあげますから。少し離してください」

「えっ。いいこと?」

「はい!」


 私を解放したフェリクス様から期待の眼差しを向けられたので、自信を持って頷いた。

 旅の間なら夜は時間に余裕があるだろうと思って、トニアにマッサージ用の香油を荷物に入れておいてほしいと頼んでおいたのだ。

 鞄から香油を取り出して見せると、なぜかがっかりしている様子のフェリクス様。

 ベッドにうつ伏せになってもらい、肩や背中のマッサージを開始する。

 すぐにフェリクス様はそのまま寝てしまった。

 温かいタオルで体を拭いたり、夜着を着せたりしても起きず、相当疲れが溜まっているのがわかる。

 夜着越しに改めて癒しの力を注ぐ。ほんの僅かでも、疲労回復が早まるようにと集中して。


(ふぅ……。今日はこれくらいかな)


 もっとやりたいけど、これ以上したら私が夜な夜な密かに癒しの力を注いでいることがフェリクス様にばれてしまう。

 私の力では、ストレスで強ばっている体を弛めて眠りを深くし、本来の回復力を最大限引き出す程度の手伝いしかできない。

 やらないよりはマシという程度だし、ただの自己満足だとわかっているけど、私だって心からフェリクス様の力になりたいと思っている。


(私にもっと魔力量があれば……)

 とうの昔に諦めたはずなのに、こういうときはやっぱりないものねだりしてしまう。


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