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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第七章

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01

 

 お義父様が反逆罪の容疑で拘束されたと聞いて、落ち着かない日々を過ごしていたある日のこと。


 フェリクス様のために、私にできることはないかと考えていた。

 疲れを癒すための香油を買ってきたりしたけど、まだ実際に使えていない。


(もっと手軽で体にいいこと……疲れた体を癒す…………)


「あっ!」

「どうされましたか!?」


 少し大きな声が出てしまって、トニアが驚いた顔をする。


「フェリクス様に私ができることを思いついたの。特製ブレンドの薬草茶!どう思う?」


 貴族――特に、高位貴族が好んで飲むお茶の種類は、主に紅茶。他には、就寝前にハーブティーを飲む人もいる。

 貧乏子爵家にとって常飲するには紅茶は少し高かった。ハーブティーも。

 だから、庭で育てた薬草を使った薬草茶を飲むのが常だった。


 薬草は薬として使う他、お茶として飲むことで健康維持に繋がると言われ、特に平民に浸透している。

 ハーブティーにもそのような効果があるとされているけど、この国の貴族の人たちは紅茶と同じく香りを楽しむために飲んでいる人が多い。


 一方、薬草茶は薬に近いものと考えられている。

 そのため、平民は日常的に薬草茶を飲むことで、治療費が高額な治癒士のお世話にならないように努めている。

 多くの貴族も庭師が薬草を育てているけど、軽い傷用の薬や虫除けなどの目的であり、それも使用人用というのがほとんど。

 すぐに治癒士に頼ればいいと考えている裕福な貴族は、薬草茶を好まない。

 それどころか、平民の飲み物だという偏見を持っている人もいる。


 ただ、薬草茶の効果は馬鹿にできないことを、私は知っている。

 実家では、健康維持のためにお母様が家族の体調をみてブレンドしてくれていた。大人になってからは、体調や気分によって自分でブレンドを変えて楽しんできた。

 この別邸で出されるお茶といえば紅茶だったし、ゆったりした生活で疲れることもないからすっかり忘れていたけど。


 フェリクス様にも、今の体調にあったブレンドの薬草茶を飲んでもらいたい。

 香油はわざわざマッサージの時間を作らないといけないけど、薬草茶なら朝食時に飲んでもらうことができるはず。


「奥様特製ならば、一層お喜びになられますね。飲み過ぎないように注意が必要になりそうです」


 にっこりと笑顔でトニアが賛成してくれた。

 良い案だと背中を押された気持ちになる。


「それじゃ早速、庭師に――」


 別邸の薬草を分けて貰えるか確認してほしいと言いかけたところで、私室のドアがノックされた。

 トニアが応答すると、珍しく慌てた様子の執事が私の所へ来る。そして、反逆罪で拘束されていたお義父様が解放されたと知らされた。


 ◇


 昨日はお義父様解放の知らせを受けて、薬草を摘むどころではなくなってしまった。

 けれど、フェリクス様はそれで終わりではなく、まだ忙しさが続く様子。

 昨夜は久しぶりに早めに眠りにつけたけど、今朝も早めに出勤した。


(やっぱり薬草茶を用意しよう)


 別邸の庭で薬草を摘んだものの、思いついたブレンドには足りない種類があった。


「できるだけ早く飲んでもらいたいから、この後実家まで取りに行きたいのだけど」

「まだ日が高いので大丈夫でしょう。お支度いたしますね」


 料理からお茶、薬、虫除けと、何かと薬草に頼っていた実家には、多くの種類が植えられている。

 今回思いついたブレンドに必要な薬草も、実家にはある。


 薬草を取りに行くためトニアと廊下を歩いていると、見知らぬ馬車が門をくぐってきたのが見えた。

 飾り気のない小さめな馬車だけど、しっかりと磨かれた艶がある。

 質素に見せかけているけど、高位貴族が所有していると思われる馬車だった。


(珍しい。先触れはなかったから、緊急?)


 フェリクス様から、執事に呼ばれない限り来客対応をしなくていいと言われている。

 私が対応する必要があれば、執事が呼びに来るだろう――と思いつつ、玄関はもう目と鼻の先だった。

 わざわざ引き返すのも面倒に思った私は、そのまま足を進めた。


 私が玄関先に立つのと同時に、馬車のドアが開く。

 馬車の扉が開き、薄暗い車内から降りてくる人のプラチナブロンドの髪が日に当たって輝き、風に揺れた。

 馬車から降りてきたのはフェリクス様だった。


「ただいま、セレナ。出迎えに来てくれて嬉しいよ」

「おかえりなさい。えっと、何かあったんですか?」


 私が馬車をちらりと見ながら聞くと、フェリクス様は華麗な手さばきで私をくるりと反転させた。

 私の腰に手を回すと歩き出す。


「働き詰めだったからね。父上のことも片付いたし。さぁ、中に入ろう」


 やっと余裕が出たのだと思うと、ほっとした。

 とはいえ、定時よりも随分と早い帰宅。


 いつもはだいたい定時に合わせて迎えの馬車が向かっているけど、早退だったので別邸の馬車を待たずに帰ってきたのだろう。お城の馬車寄せには、急に馬車が必要になった人向けに有料の馬車が待機しているから。


(薬草を取りに行くのはまた明日にして……あっ、そうだ。先日買った香油。トニアに用意してもらおう)


 ゆっくり過ごせると思い、この後二人でどう過ごそうかと思案する。

 様々な問題が解決しフェリクス様とゆっくりできそうで、無意識に心が弾んでいた。

 

 しかし、フェリクス様は『ごめん。少し片付けたい仕事があるんだ』と言って、すぐに執事やマルセロと執務室に篭ってしまった。



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