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追撃者

暫くして、


「それで、そなたはあんなところで何をしていたのだ?」


「えっ?あ、ああ」


しまった……何も考えてなかった。


一応この子達は俺を助けてくれたのだろう。


とりあえずはそれに話を合わせるとして、後は何と言えば……。


考えようとすると、正面にいるカーラが


「じーーーっ……」


さっきからずっとこの調子で俺を怪しんでいる。


ああどうしよう……。


"私に話を合わせて下さいませ"


突然頭の中に響く声、月読命だ。


"村を焼き払われ両親を殺された後、山賊に攫われたが何とか逃げ出し、あの湖に落ちて溺れかけていた所を、あなた方に救って頂きました、と"


ありがとう月読命!


俺は今しがた月読命のくれたアドバイス通り、経緯をミネルバ達に説明してみせた。


「くっ……何と惨い事を……」


「えっ?ええっ?」


「あ~あ始まった……」


カーラがあからさまに悪態をついた。


「え、え~と、み、ミネルバ……様?でいいですか?あの、何で泣いてるんですか?」


突然、俺の話を聞いたミネルバは、両目の端に一杯の涙をため始めたのだ。


「み、ミネルバで良い!両親を殺されあまつさえ人攫いに合うとは……くっ、もはやその所業、断じて許せん!パークっ!馬を止めよ!直ちに引き返し山賊討伐だ!!」


そう言ってミネルバは腰の短剣を鞘から引き抜き天井に向け突き構えた。


「えっ、ええっ!?ミ、ミネルバ様正気ですか!?」


外で馬の手綱を引くパークと呼ばれた男が慌てた返事を返す。


というか何なんだこの少女の豹変っぷりは。


「ミネルバ様はね、そう言うお涙頂戴のお話に弱いのよ……普段は冷静沈着でクールなお方なんだけど……あ~あ」


カーラは言ってから、ため息を大きく一つ。


「あ、いやいやいや、や、やっと逃げれたのですから、ここは先を急ぎましょう、ミネルバ様のお気持ちだけは受け取りましたので、は、はは」


「ミネルバで良いと申すのに……そう言えばお主の名前、まだ聞いておらなんだな。名は何と申すのだ?」


「名、名前?」


「じーーっ」


「うっ……」


カーラの怪しむ視線が突き刺さる。


「え、ええと、名前は……」


"お菊、等どうでしょうか"


却下。


"あっ……"


俺は頭の中で月読命を遮断し、自分の名前を考えた。


てかお菊ってなんだよ、時代背景おかしいだろ。


「ふ~ん、名前も明かせないの……?」


眉をひそめたカーラが俺の顔を覗き込む。


ぐっ……。


「よ、ヨルシカ、ヨルシカと申します」


「おお、ヨルシカ、良い名だ。改めてよろしくなヨルシカ」


差し出されたミネルバの手を取り、俺は頭を描きながら軽く頭を下げた。


「え、ええ、よろしくお願いします、ミネルバ様……はは」


"秋斗様……"


「えっ?」


「ん?どうしたヨルシカ?」


「あ、いや、何でもありません、おほほほほ」


「怪しい……」


カーラの視線が痛い。


"返事はせずそのままお聞きください。後方、約600メートル先にて、武装した集団を確認しました。装備、レベルはC級クラス、馬の脚並みから推測して、傭兵崩れではなく、訓練された兵士の部隊のようです"


「まじかっ!?」


思わず窓を開け後方を眺める。


が、丁度馬車は林道に入ったため姿は確認できない。


「な、なになに?急にどうしたのよ?」


カーラが慌てて聞いてきたが、俺はそれを無視して後方をじっと見つめる。


"索敵スキルを展開しますか?了承して頂ければ強制展開致します。なお、強制展開された後は、何時でも好きな時にスキルを発動できるように自動セットされます"


「さ、索敵?よく分かんないけど頼む!」


"了承確認、索敵スキル、強制展開"


月読命の言葉が響いた時だった、


突然、頭の中に数十、いや、100人程の騎士達が、馬に乗って駆けているビジョンが浮かび上がった。


身につけた武器、鎧、顔までが繊細に頭の中に映り込む。


部隊中央に、一人だけ武装が違う騎士がいる。


この集団の隊長か?


「ちょっとさっきから何なのよ!」


「へっ?うわぁ!」


突然肩を掴まれたかと思うと、そのまま体を席に引っ張られた。


カーラだ。

無視するなと言わんばかりに俺を睨んでいる。


「どうしたのだヨルシカ?何か変だぞ?」


ミネルバも、俺の顔を心配そうに見ている。


「え、ええとこれはつまり……」


"秋斗様、どうやらかの者らは間違いなくこの荷馬車を狙っているようです"


「なっ!?」


「だから何なのよ!?」


カーラが腰に手を当てた格好で詰め寄ってくる。


"遠隔音声スキルを強制展開します。私の声に意識を集中して頂ければ、声に出さずとも会話が可能になります"


「そんな便利なものがあるなら始めからやってくれ!」


「はぁ?あんた何言ってんの?」


しまった、思いっきり口に出してしまった。


「本当にどうしたのだヨルシカ?」


「す、すまない、だけどちょっと黙っててくれ!」


「なっ!?」


「ヨルシカ……」


押し黙る二人。


"よろしいですか?"


"ああ、頼む月読命。"


"恐らく、彼等はロンバルディア帝国の部隊です。鎧に刻まれた紋章から見て間違いないかと"


"ロンバルディア帝国?それとこの荷馬車、いや、ミネルバ達と何が関係あるんだ?"


"それはまだハッキリとした事は申し上げられませ。ただ、これに関して一つだけハッキリと言える事があります"


"な、なんだ?"


"秋斗様、貴方の御力は、我が主、ヨルシカ様と同等、この世界では神に等しい力です。ですが使い方を間違えれば、それはヨルシカ様が創造したこの世界にとって、厄災ともなりかねません"


"な、何だよ急に改まって……"


"この世界でどう生きるか、それは秋斗様次第でしょう。平和を望むか、破滅を望むかも……"


"お、俺が破滅を?そんな馬鹿な"


"お聞きください"


"えっ?あ、ああ……"


今まで機械的なナビだけだった月読命の声に、僅かに感情が感じ取れた。それだけ大事な事を話そうとしているという事か。


"この世界はまだ脆く、そして生まれたばかり。力ある者の選択によって、どんな世界になるのかは誰にも分かりません。それは創造の女神でもあるヨルシカ様でさえも。つまり、秋斗様には慎重な行動が求められるのです"


"俺の行動に?"


"もし秋斗様の力を振るえば、事は収まるでしょう。ですがそれは同時に、秋斗様の御力を世に知らしめ、否が応でも、この世界の運命の渦に巻き込まれる事になります。人智を超えた力は、この世界では異端なのです。だからこそ、それを欲する人間がいるという事を知っておいて下さいませ"


"あの武装集団がそうだっていうのか?"


"……いえ、今、荷馬車の中にいる者らも含めてです"


"なっ!そんな訳!"


"言いきれますでしょうか?その力が、利用されないと"


"うっ……"


思わず押し黙ってしまった。


月読命の言う通りだった。


女神の力……俺はその切れ端程度しかまだ知らないけど、考えてみればとてつもない力を持っている事になる……。


漫画やアニメ、小説の中のように好き勝手力を使って暴れればそれでいい訳じゃないんだ……。


そこまで理解し、俺はようやく事の重大さに気が付いた。


「ミ、ミネルバ様!後方に砂塵、もしかして奴らが……!」


突然、荷馬車の外にいるパークが叫ぶように言った。


どうやら後方から迫る連中に気がついたらしい。


いや待てよ、奴らがって……もしかしてあの武装集団について知ってるのか?


さっきまで俺を不審に見ていたミネルバとカーラが、パークの言葉を聞いて、突如押し黙ったまま互いの顔を見合っていた。


明らかに不安そうな顔だ。


するとミネルバは、先程の短剣を再び鞘から抜き取り俺の方を向いた。


「すまん……ヨルシカ、お前とは何だか友達になれそうな予感がしたのだが……許せ」


「えっ?ミネルバ様、何を?」


その瞬間だった。突然カーラが荷馬車の扉を開いた。


そして有無も言わさずミネルバが俺を外へと押しやったのだ。


「生きよ、ヨルシカ……!」


全くの無防備だった俺はそのまま荷馬車の外へ。


哀しみに満ちたミネルバの瞳が遠ざかって行く。


「えっ?ええぇっ!?」


宙を舞い地面に叩きつけられるかと思った矢先、


──ドボン!!


「ぶっぷはぁ!!」


荷馬車から押し出された先は、丁度橋に差し掛かった手前の川だった。


遥か前方の橋を、荷馬車が走り去って行く。


すると、


──ドドドドドドドッ!!


100はくだらない数の騎士を載せた馬が、怒涛の如く橋を渡って荷馬車の後を追っていく。


「な、何で……もしかして、俺だけ逃がすために……!?」


立ち上がり追いかけようとした時だった。


"良いのですか?これで要らぬ争いの火種は潰えたかと思われますが……?"


月読命の無情な声が頭に響く。


けど……。


だけど……。


迷いの最中、ミネルバの顔が不意に浮かんだ。


『民が困っているかもしれないのだ!』


『もはやその所業断じて許せん!』


『大丈夫か、ヨルシカ?』


『ミネルバで良い』


『生きよ!ヨルシカ……!』


「ミネルバ……」


ボソリと、ミネルバの名前を口にする。


昔、誰かの力になりたいと、願った事がある。


けど、俺なんかにそんな力はなかった。


ゴミみたいな扱いを受けていた俺に、誰も助けなんか求めない。


本当に最低の人生だった。


でも、最後のあの時、俺は、俺は二人の命を救ったんだ。


助けなんか求められていないのに。


けれど俺は、二人を助けた。


そうだ、助けるのに、力を貸すのに、何の理由がいる?


いや、要らない。


誰にだってあるんだ。


助けたいもの、守りたいものが。


それに理由なんて……要らない!


握った拳に爪が食い込む。


肩がわなわなと震えた。


同時に、水面がざわつく。


いや、大地そのものが振動しているように感じた。


"この力は……ヨルシカ様の力を……まさか……"


「おい、月読命!」


"は、はい……?"


俺は片手を上げ、人差し指をこめかめに引っつけて口を開いた。


「一つだけ教えてやる、運命ってのはここで考えるんじゃない」


今度は片手を下げ、自分の胸を親指で指し示す。


「ここで決めるもんだ!」


"なるほど……了承しました。スキル、女神の翼を強制展開します"


「えっ?つ、翼って何?うおわっ!?」


月読命に聞いた瞬間、突然背中に熱いものを感じた。


慌てて背中を見るとそこには……。


「ひ、光の……翼?」


そう、読んで字のごとく、煌々と、光る粒子の束が、俺の背中に生えるようにして、翼を形度っていたのだ。


「こ、これ、飛べるのか?」


"秋斗様が望むのなら、地の果てまで……"


「へへ、良いねえ、じゃっ、いっちょドライブと行きますか!」


"了承……女神の翼、起動します!"


月読命の言葉と同時に、突如俺の周りに巨大な魔法陣が空中に浮かんだ。


すると、翼がそれに呼応するようにして6枚羽根に開き、強い光を放ちながら、俺の体は空へと舞った。


「待ってろミネルバ!」

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