第92話 【加代の幸せ】
「セレス。料理中にすまない。何か叶えたい願いがあったら教えてくれないか。大丈夫大丈夫、悪用はしないから」
「主殿、現れるなり、その怪しい言動はなんだ。――叶えたい願い? うーん、そう言われても、すぐには思い浮かばないな。も、もちろん主殿と、その、ゴニョゴニョ」
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「シャリー。つまみ食いの邪魔をして悪い。シャリーに実現したい夢や希望があるだろうか?」
「にゃッ。つまみ食いにゃんてしてないにゃッ。でもセレスには言わないで欲しいにゃ。――夢や希望にゃ? 当然あるにゃ。人を夢も希望もないノーフューチャーみたいに言うのも止めて欲しいにゃ。でも今は思いつかないにゃ。ないわけじゃないにゃ。すぐには思いつかないだけにゃ」
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「ロリ。ひとりファッションショーを邪魔して申し訳ない。もし奇蹟を起こせるとしたら、ロリは何を願う?」
「ひゃーッ。れいじろう様、びっくりしましたッ。――奇蹟、ですか? あの、ロリは、その、大人の身体になりたいです。それで、れいじろう様から、優しく全身にキスを……きゃーッ」
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「こず枝。ファイアボールを撃って恍惚としているところゴメン。こず枝は、ひとつ願い事が叶うとしたら何を願う?」
「こ、恍惚となんかしてないしッ。そりゃちょっと気持ち良かったけど。――願い事? うーん。最近はお金も不自由してないし、毎日みんなと楽しいし、特に思い浮かばないわ。強いて言うなら、早く転移魔法を覚えてアルシェさんに会いたいかな」
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「加代。風呂上がりに申し訳ない。加代は、何か奇蹟を起こせるとしたら何をしたい?」
「うわぉッ。礼兄ぃ、なんでそこにいるのよッ。まさかロリちゃん達の裸を覗きに来たんじゃないでしょうね? ――奇蹟? そりゃ決まってるじゃない。このインスタント焼きソバみたいなもじゃもじゃ頭を、茹でる前のソーメンみたいにストンとまっすぐにしてやるわッ」
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「サナダ虫。貴様はどう思う?」
『虫って言うなし。〝貴様〟も止めなさい。あと、質問が荒い』
「悪いか?」
『別にいいけど』
「いいんかい」
『ねぇ、君もしかして、みんなの願いを訊いてあげるつもり?』
「可能ならばな。師匠の願いだけってわけにはいかんだろ」
『……ものは言いよう(※音量1』
「なんか言ったか?」
『なんにも? 〝奇蹟〟を使うような願いは、ロリちゃんだけね』
「だよなぁ」
『ちなみにあたしの願いは〝新しい名前〟よ』
「訊いてないし、訊いて損したし、訊かなかったことにする」
『そういう君はどうなのよ?』
「お前のいないプライベートな時間が、1時間でいいから欲しいな。ハハハ」
『君は5分あれば余裕でしょ? プークスクス』
「――えっと、電子レンジはっと」
『ダメよ、〝神器〟をチンしちゃ。あと、真面目な話をしてんのに茶化すのもね』
「茶化してるのはお前だが」
『君が真剣に考えないからよ。君の願いは〝妹ちゃんの幸せ〟でしょ』
「それはそうだが、願いとしちゃ漠然過ぎるだろ」
『いいから願ってみなさい。真面目に言ってるんだからね。ふざけちゃダメよ』
「わかったよ。えっと〝加代が幸せになりますように〟っと。こんな感じでいいのか? お、本当に出たぞ。なになに……」
『なにもったいつけてんの。早く教えなさいよ。そうやって無駄に引きを作るから、いつまでもチェリーなのよ。だいたい駆け引きっていうのは……』
「やかましいわ。読むぞ。〝大萩加代の幸せ――必要KP20000(条件あり)〟に、にまんKPッ? 2万ってことは師匠の四倍だぞ。どんな大それた願いだ。それに〝条件〟って」
『それは〝特殊ケース〟ね』
「特殊ケース?」
『そう。その願いが、他の願いと切っても切り離せない場合に多いケースよ』
「よくわからんな。つまり、あの〝脳みそお花畑〟の〝いつも脳天気な妹〟を幸せにするのは一筋縄じゃいかんってことか?」
『そうね。それに〝妹ちゃんひとりじゃ達成できない願い〟よ。しかも〝2万KPも必要なほど困難な〟ね。いいから条件を読みなさい。気になって仕方ないわ』
「じゃあ読むぞ。〝条件:以下の4人が一堂に会した状態で奇蹟を発動すること、『1、大萩加代』、『2、大萩礼二郎』、『3、大萩源太』、『4……』〟」
『だ~か~ら~変な引きを作るなって言ってるでしょッ。最後の1人は誰よ』
「……4、セレスティーヌ=セルヴォー=ギャバン」
『セレスティーヌ? そんな人いたっけ?』
「セレスティーヌは……セレスの本名だ」
★後書き★
ようやく主人公の具体的な目標が決まりました。




