第91話 【奇蹟報酬】
「ハハハ、覚えてないな」
『ハハハ、じゃないわよッ。必死にサポートして損したわ。あの薬ってなんなの? ヤバい薬じゃないの?』
「師匠曰く、有り余る性欲をなんとかしてくれる薬らしいが」
『つまり昨夜の異様にハッスルでハイテンションな君は、性欲が活動エネルギーに変換されていたってことかしら。すごい薬じゃない。流通すれば世の性犯罪が撲滅するわね』
「ハイテンション? あッ、もしかしてノリノリなホームページの写真も、そのとき撮りやがったのか」
『撮りやがったって失礼な。あたしが「ホームページ用に写真撮りたいんだけどいいかしら?」って頼んだら、君が奇声を上げながらノリノリでポーズを決めだしたのよ。お姉さんドン引きしたわ』
「マジッスか」
『マジッスよ。君、結局○■道まで行ったのよ?』
「はぁ? 日本の端っこじゃないか」
『高速飛行中ずっと爆笑してたわ。時々空に向けて魔法をぶっ放したりもしてたわね。お姉さん狂気を感じちゃったわよ。てっきりアレが君の素なのだと思ったけど』
「違うわッ。性欲を溜めすぎた状態で服用すると、意識が飛ぶほどハッスルしてしまうのか。言われてみると、確かに体調はいいし、気力や体力もみなぎっている。しかも、まるで賢者タイムのように心が凪いでいる。なんともすごい効き目だが、使いどころが難しいな。どうにか使いこなしたいものだが」
『なら、意識が飛ばないようになればいいじゃない』
「どこのマリーアントワネットだ。それができれば苦労せんわ」
『できるわよ。KPを使えばね。試しに〝昨夜飲んだ薬の効果を制御できるようになりたい〟と強く望んでみなさい。あと最初に言った〝魔王討伐の報酬について知りたい〟もね』
「えっと……〝師匠の薬が制御できるようになりたいです〟〝魔王討伐の報酬についても知りたいです〟っと、これでいいのか? まさか、からかったわけじゃないよな? もしそうなら、お前を電子レンジでチンすることになるが」
『電子レンジの説明書には書いてないでしょうけど、神器はチンしちゃダメよ。それに君をからかうなら、もっと面白いネタでやるわ。いいから〝ステータスウィンドウ〟をご覧なさいな』
「ん? なんだこの点滅は……なになに、『イライアの秘薬による欲情エネルギー変換先選択機能の追加――3KP』『大萩礼二郎の魔王討伐報酬についての記憶回復――500KP』 記憶回復? つまり、報酬に関して僕の記憶が消えてるってことか」
『あたしに言われても知らないわよ。ちな必要ポイントの高い願いは、それだけこの世の理を曲げる必要があるってことね』
「記憶を戻すだけで大層なことだな。ん? この世の理? じゃあ師匠の身体も……おい、サナダッ」
『自分の名前ってわかってても、やっぱりムカつくわね。で、なによ』
「〝イライア師匠の身体を子供ができるように〟なんてことも可能なのか?」
『〝奇蹟〟に不可能はないわ。願ってご覧なさい』
「よし、〝師匠が子供を作れる身体になりますように……〟――おッ出てきたぞ。なになに『イライア=ラモーテの解呪――5000KP』 おおッ〝奇蹟〟すごいなッ」
『5千KPも必要って酷い呪いね。で、なによ、君があの魔女に種付けするの?』
「た、種付けって、お前なー。普通そう言うこと聞くか?」
『あの魔女は、自分に子供ができるって知った瞬間、君に襲いかかるんじゃない? それに、この話をするだけで、どんな反応をするか、わかったもんじゃないわ。とんでもない手段で、KPを集め始めるかも』
「それは否定できん。師匠には、まだ話さない方がいいよな」
『そのほうが無難ね。ハーレムメンバーにも教えない方がいいと思うわ。どこからあの魔女にバレるか、わかったもんじゃないからね。特に〝元気に走り回る音声拡張器〟の妹ちゃんには、絶対知られちゃダメよ』
「誤解しているみたいだが、みんなは、僕のハーレム要員なんかじゃない。大切な仲間だ。だが、教えない方がいいって意見には、賛成だな。あと人の妹を、勝手に機械化するな」
『ハァ、まだ、そんなヘタレたこと言ってるの? 君がそんなにヘタレている理由は、妹ちゃんなのよね。〝妹ちゃんの幸せ〟が君の〝ヘタレの源〟って言うなら、君が妹ちゃんを幸せにすればいいじゃない』
「な、何考えてるんだッ。妹はまだ中学生だし、僕達は兄妹なんだぞッ」
『君こそ何考えてるのよ。別にハーレムに入れろとは言ってないでしょ。あーヤダヤダ。チェリーはすぐに下半身でモノを考えるんだから』
「クッ……加代には幸せになってもらう。ただし、あくまでも〝普通の幸せ〟だからな」
『〝普通の幸せ〟ね。その言葉、お姉さんちょっとだけカチンと来ちゃったな。そんなの君の考えを押しつけてるだけじゃない。幸せかどうかは妹ちゃんが決めることでしょ。だいたい〝普通〟ってなによ。十人いれば十の幸せがあるのよ。それを〝普通〟のひと言……』
「やかましゃーッ。この話はもう終わりだッ。これ以上続けるなら家庭科室の電子レンジが火を吹くことになるぞッ」
『はいはい、チェリーチェリー』
「ムッカーッ。二次元のくせに上から目線で話してんじゃねぇよ、この寄生虫携帯がッ」
『だから虫って言うなァッ。あと、ひとつ言っとくけど』
「なんだ、急に真面目な声を出して」
『真面目な話、君が魔王討伐の報酬について記憶が無いってことは、記憶を消す必要があったってことよ』
「報酬について、僕が知ったままだとマズいってことか」
『わからないわ。でも』
そのとき、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「こりゃマズいッ。こず枝のゴージャス弁当を半分しか喰ってないぞ」
礼二郎は駆けだした。
走りながらイヤホンマイクを耳から外し、携帯生物サナダ(♀)ごとポケットにしまう。
『――思い出さない方がいいかもね』
ポケットの中で呟いたサナダの声は、礼二郎に届かなかった。
★後書き★
90話、91話のまとめ
1、礼二郎が女神のためにヒーロー活動(布教活動)を開始?
2、活動をするたびポイントがたまる(KP)
3、KPを使えば〝奇蹟〟を発動できる
4、礼二郎の〝記憶にない魔王討伐報酬〟について知るには500KP必要
5、ただし〝記憶にないのは理由がある〟かもしれない
6、昨夜〝イライアの丸薬〟を飲んだ礼二郎は、意識が無い状態で大暴れ。
7、〝イライアの丸薬〟の効果は〝性欲を活動エネルギーに変換〟
8、イライアの悩み〝子供ができないこと〟は5000KPで解決できる。
9、〝ヒーロー活動〟は誰にも秘密(特にイライアにバレると何をするかわからない)




