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第90話 【奇蹟ポイント】

「つまり、女神様が〝奇跡〟を行うには、〝人々の信仰〟や、〝感謝の気持ち〟が必要なんだな」


 

 昼休みの学校。

 人気の無い階段の踊り場。

 チェリーが携帯のイヤホンマイクに話しかけた。



『そうよ。それが神様の力の源なのよ。神様の魔力みたいなものね。でもって女神様はここ地球じゃマイナーな神様なの。だから、ここでは女神様の力は強くないってわけ』



 イヤホンから、得意げな少女の声が聞こえる。

 液晶には、緑髪の少女。

 なぜか、三角メガネに、スーツ姿で、指示棒を持っている。

 少しだけ小鼻を膨らませ、礼二郎は話しかけた。



「で、女神様の名前を広めるため、〝ヒーロー活動〟をしろと」


『そういうこと』


「力を行使すれば、僕は〝世界から排除〟されるんだぞ?」


『その点は抜かりなしよ。君が例のバトルスーツを着て、神の(しもべ)として力を行使する限り、世界は君を拒絶しないわ』


「〝条件〟と〝首輪〟付きってわけか」


『悪意のある言い方しないの。話を進めるわよ。名前を広めるには、〝ホームページ〟でしょ。閲覧数に比例して、〝女神様の信者〟がガン増しって寸法よ。君はその〝広告等〟ってわけ。どう? 完璧な作戦でしょ?』


「ふむ、お前らの見通しが激甘なのと、おおよその状況は理解した」


『そう、うれしいわ』


「だが、わからないこともある」


『言いたいことはわかるけど、一応訊きましょう。何がわからないの?』


「どうして、僕が働かなきゃならん?」


『予想通りの質問にはこう答えるわ。――君のためになるからよ』


「僕のため、だって?」


『そうよ。君は女神様を騙くらかして、最強の力を、この世界に持ち込んだ』


「まぁ、そうだな」


『それに気付いた女神様には、大きな選択肢が、二つあった。君の力を回収するか、利用するかってね』


「つまり、力を奪われたくなければ、協力しろって、脅しか」


『ステイッ。話は最後まで聞きなさい、チェリーボーイ。慌てるチェリーはチャンスを逃すわよ?』


「クッ……違うっていうのか?」


『ええ、全然違うわ。女神様はフェアな御方よ。君が女神様に力を貸してくれるなら、女神様は〝相応の報酬〟を与えてくださる。それに、もし断っても、力を回収したりしないわ』


「断っても力を回収しない? そいつぁ話がうますぎるな」


『怪しまない怪しまない。ほら、ここに判子を押すだけだから』


「――笑えん冗談だ。報酬についてだが、正直魅力を感じん。なにしろ魔王討伐の報酬を覚えてないんだ。それって無報酬でこき使われたのと同じだろ。どんなブラック企業だよ。サナダ虫は何か知ってるか?」


『虫って言うな。――知らないわ。でも女神様が報酬を誤魔化すなんてあり得ない。間違いなく君は報酬を受け取ってるわ。それも、〝魔王討伐に見合うほどの報酬〟をね』


「魔王討伐に見合う報酬、ね。ダメだ。まるで思い当たらん。今回の報酬もこんなインチキまがいな代物じゃあるまいな?」


『つまり、報酬を受け取ったことが分かればいいのね。なら話は簡単だわ』


「ほう?」


『KPを使えばいいのよ。ついでに言うと、その〝KPを使って起こす奇跡〟が、今回君の受け取る報酬ってわけ。なんと回数制限無し。奇蹟の大盤振る舞いよ。すごいでしょ』


「……よくわからん。KPってなんだ? どうやって使う?」


『KPは〝奇蹟ポイント〟か〝感謝ポイント〟の略じゃないかしら。ともかく、そのKPを集めると神様のように〝奇蹟〟を行使できるの。たとえば「魔王討伐して、報酬として何を受け取ったのか知りたい」って願うことでね。――〝ステータスウィンドウ〟を開いてご覧なさい』


「日本語かよ。お前達が信用できないから協力を渋ってるんだぞ? なのに、信用するために協力しろと言ってるのか? 順番が逆だろ。――《ステータスオープン》――とりあえず開いたぞ」


『いいのよ。どのみち、あたし達を信用することになるんだから。右上にハートマークがあるでしょ?』


「またいつの間に。しかもハートって、お前な……」


『そこにあるのが〝君の活動履歴〟と〝稼いだKP〟の詳細ね。昨夜のヒーロー活動の結果が載ってるはずよ』


「昨夜のヒーロー活動? 何を言ってるかわからんが押すぞ。――なになに、〝ひったくり犯を捕まえて、盗まれたバッグを取り返す――2KP獲得〟〝迷子の男の子を家に送り届ける――1KP獲得〟〝車泥棒を捕まえる――1KP獲得〟……なんじゃこりゃ」


『君が活躍する度にKPが増えていくのよ。って、昨夜のこと覚えてないの?』


「昨夜? なんのことだ」


『もしかして〝イライアの丸薬〟を飲んだせいかしら』


「そう言えば、昨夜お前から春香さんの件を聞いた後、師匠の丸薬を飲んだな」


『都合のいいように記憶を改ざんしてるんじゃないわよ。友好の印に、魔女の盗撮写真を見せたら「お前はなんて役に立つ携帯だッ。は、鼻血がッ。頼むッ、10分だけ僕をひとりにしてくれッ。あ、そうすると師匠の写真が見られないのかッ。クッ、あちらが立てばこちらが立たずとは、このことだなッ」って鼻血を垂らしながら下品なことを叫んだわよね。薬を飲んだのは、その後でしょうが』


「クッ、お前があんなエロ……コホン、映える写真を見せるからだッ。本当にありがとうございますッ。それで薬を飲むと、テンションが上がって、気がつくと、加代とロリが起こしに……あれ? 俺って、いつの間に寝たんだッ?」


『ほんとうに覚えてないのね。――ん? ちょっと待ちなさいよ。今朝あたしの事を「役に立つ」って褒めなたわよね? もしかして……盗撮技術()()を褒めたってわけ?』


「だって無いだろ。他に褒めるところ」


『あるわよッ。昨日の夜、どれだけ君をサポートしたと思ってるのッ』

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