第83話 【神器:毒舌携帯電話】
新ヒロイン登場
「ぐわぁーーーーーッ!」
バフッ! 枕に顔を押し当て、叫んだ。
『馴れ馴れしく呼ぶなァッ! 石になりたいかッ!』
そう叫んだイライアの顔を思い出す。
「ふがァーーーーーッ!」
振り返ったイライアの目には、大粒の涙が浮かんでいたのだ。
「僕って奴はァァァァァァァッ!」
あんなに悲しい表情をしたイライアは見たのは初めてだった。
「師匠ォーーーーッ! ごめんなさいィーーッ!」
それから長い時間、枕に謝罪を続けた。
兄の源太が、なぜ佐々木春香と会ったのかは、確かに気になる。
だが今は、この家にいる女性達――特に最年長(※禁句)のあの御方――に対しての罪悪感で頭がいっぱいだった。
イライア激怒の原因である、佐々木春香とのキス。
それは礼二郎の意思によってではない。
だが、礼二郎は抵抗しなかった。
よけることも、止めることも可能だった。
にもかかわらず、そうしなかった。
つまり礼二郎は、佐々木春香を受け入れたのだ。
言い訳できなかった。
浮気者と言われて否定もできない。
「ハァハァ……」
やがて気持ちが少し落ち着く。
上体を起こし、勉強机に目をやる。
そこには、腹の立つ携帯電話、そして丸薬の入った瓶。
携帯電話はどうでもよい。
デートに行く前から、ずっと電源を落としている。
丸薬の方を、礼二郎はジッと見つめた。
イライアが礼二郎のために調合してくれた丸薬だ。
長いキスが終わったあと、イライアはこれを手渡した。
礼二郎は目を閉じ、そのときのことを思い出す。
『礼二郎や、ロリの件に限らず、男の事情的なアレが限界を迎えたら、これを飲むがよい。ただし、ワシ等とデートする前は飲むでない。これは用法上の注意ではないぞ。エチケットの問題じゃ。ん? ま、まだするのか? もう帰る時間じゃろう――あ……ダメ……ん……』
礼二郎は、丸薬を受け取った後も、イライアを襲ってしまったのだった。
襲うといっても、キスだけだ。
ハイ、嘘ですゥ。オッパイを揉みましたァ。ちょっとだけですけどォッ。
やわらかい唇とオッパイの感触。
ふとした瞬間に見せたイライアの恥ずかしそうな表情と、クラクラするほど甘い匂い。
今ならそのすべてを鮮明に思い出せる。
そう、思い出せるのだ。
思い出せる……思い……カッ! 礼二郎は目を見開いた。
思い出したァッ!
バフッ! 再び枕に顔を突っ込む。
「師匠ぉッ! 可愛い過ぎだろ、ちくしょぉぉぉーッ!」
計三回、枕に告白した。
再び上体を起こし、礼二郎は自分の状態を確認する。
ムラムラムラムラ……。
いや、確認するまでもない。
今やリミットブレイク寸前だ。
ホルモン的な部分で。
今か? 師匠の丸薬を使うのは今なのか?
だが、師匠を傷つけた僕が、師匠の好意に甘えてもいいものか。
それに、今なら師匠とのエロチックな記憶が鮮明である。
なら今のうちに……。
「うむ、致し方なし」
現在女子達は、スウィーツタイムだ。
こず枝とセレスが作ったケーキである。
ちなみに礼二郎は、浮気疑惑のペナルティでお預けとなっている。
ノックなしで飛び込んでくる猫娘と、アポなしで影から現れる褐色美幼女。
礼二郎のアレを邪魔するそのふたりは、今頃ケーキに夢中のはずだ。
やるならば、今を置いて他にない!
礼二郎は、少しウキウキしながら、おもむろにズボンとパンツを脱いだ。
そのとき!
カシャン! シャッター音と、まばゆい光。
「へ?」
丸出し男が、音の方向を見やる。
なんと、携帯電話が宙に浮いていた。
『プークスクス』
携帯が笑った。
「お、お前! 今、撮りやがったな!」
『なんのことかしら。変な言いがかりは止めてもらえる? って言うかサッサとパンツを穿きなさい。なに膨張してるのよ。もしかして、あたしに興奮してるの? いくら君のモノがマイクロサイズとはいえ、あたしのマイクロUSBポートには刺さらないわよ? プークスクス』
携帯の画面に少女の顔が映っている。
緑髪の少女だ。年齢は15才ほど。
主に似て、とんでもなく口が悪い。しかも下品である。
「やかましい平面体! 《次元収納》!」
礼二郎はパンツとズボンを穿いて叫んだ。
目にもとまらぬ動きで、プカプカ浮いている携帯を掴む。
「二次元に帰れ!」
『ちょ、その手で触ら……』
なにか叫ぶ携帯電話を空中にできた黒い穴へ放り込んだ。
「まったく、忌ま忌ましい。さてと」
気を取り直した礼二郎は、ワクワクしながらズボンとパンツを脱いだ。
カシャン! 再びシャッター音と、まばゆい光。
「…………」
礼二郎は無言でパンツとズボンを穿いた。




