第76話 【ホルモンと胸肉】
★祝★20万文字達成! うひょー! やったね鷲空!
なのに作中では一週間しか経過していないとさ。チャンチャン
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「セレスは今頃なにをしてるでしょう」
デリカシーのない男がものすごい失言をした。
30分ほど前に暴漢を片づけたふたりは、それからずっと歩いている。
「はぁ……〝でーと〟中に他の女を気にするのみならず、あまつさえ、それを口にするとはのう」
「はぅわッ! すみません!」
「……まあよい。セレスの奴は、昼過ぎから、こず枝とふたりで菓子を作ると言っておったが」
「セレスがこず枝と? よかった。仲良くやれてるんですね」
「仲良くじゃと? はぁ、お主は相当なアレじゃな」
「へ? アレって?」
「こりゃ! いつまで他の女の話をするつもりじゃ。もっと、その、わ、ワシを見んか!」
「ヒッ! す、すみません!」
「まったく、お主ときたら……」
そう言いつつもイライアは怒ってはいなかった。
焦る礼二郎の横顔を、柔らかい表情見つめ、そして愛おしそうに呟いた。
「今は、ワシだけを見んか、馬鹿者……」
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「ロリが、お主の褥に忍びこむ件じゃが」
礼二郎の腕にしっかと抱きついた美魔女が言った。
「ベタさんから聞きました。お手数をおかけします……」
腕をバレない程度に動かし、オッパイの弾力性を確かめる実験に余念が無い男が言った。
周囲から羨望と怨嗟の眼差し受けつつ、礼二郎は美人なんちゃってOLと歩いている。
「ベータから? ああ、献身介護のときじゃな。昨日ようやく完成したのじゃ」
「け、献身介護……コホン、創ってくださったのは、新しい魔術の呪文でしょうか?」
「今回は丸薬じゃ。ワシの魔術と幾多の薬草を練り込んでおる」
「魔術と薬草を。それで、どんな効能が?」
「それは飲んでからのお楽しみじゃ。でーとが終われば渡すゆえ、楽しみにしておれ」
「あれ? 持って来てるんですか?」
「うむ。じゃが今は渡せん。でーと中に飲まれてはたまらぬからな、ククク」
意味深に笑うイライアの顔を見て、礼二郎は少しイヤな予感がした。
ちなみに代金は、いつものごとく請求されなかった。
今回作ったという丸薬も、一月分金貨100枚、つまり1000万円はくだらないだろう。
ありがたやありがたや。
イライアの作り出すものは、市場に出ると目玉が飛び出るほどの値がつく。
ちょっとした護符でも金貨10枚以上だ。
高値でも買い手がつくのは、イライアの名に信用があるからだ。
そして、信用は実績の上に成り立つ。
つまり、イライア印の商品は、ものすごく高価だが、ものすごい効果があるってことだ。
効能については、まあ実際に飲んでみればいい。
イライアの魔術に間違いはないのだから。
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辺りが暗くなった頃、ふたりの会話がだんだんと途切れがちになった。
ついには、ほとんど無言になる。
ふたりはぴたりと寄り添ったまま歩いていた。
言葉はなくとも気持ちは通じている。
ふたりは共に、ある場所を捜していたのだ。
やがて、公園を見つけた。
街から近いわりには、大きな公園だった。
礼二郎は迷わずその公園に入った。
礼二郎を掴むイライアの手にほんの少し力が入り、そこからイライアの緊張が伝わった。
そして薄暗い場所にあるベンチを見つけた。
ここがふたりの探していた場所だった。
「師匠……」「ん……」
ふたりはぴたりと寄り添ったまま腰を下ろした。
薄暗く、人気が少ない、ふたりっきりになれる場所。
「……」「……」
ときおり聞こえる車の音以外は、なにも聞こえない時間が続いた。
不快な静寂ではない。
逆だ。
最高にエロチックで、最高に贅沢な沈黙だった。
永遠にこのままでも構わないと思えるほどに。
礼二郎は、ずっとチラチラとイライアの横顔を見ていた。
シミひとつ無い白い肌に、高い鼻。
大きな目に、長いまつげ。
そして、少し厚みのある柔らかそうな唇。
イライアは同じ姿勢のまま下を向いている。
礼二郎が見つめていることには、当然気付いているだろう。
イライアは待っていた。
イライアがなにを待っているのか。
礼二郎はそれを知っている。
この公園に入る前からずっとわかっていた。
イライアが待っているものを礼二郎は与えることができる。
だが、それを行動に移せば、セレスを裏切ることになるのではないか。
セレスを想う自分の気持ちに、偽りの烙印を押すことになるのではないか。
いや、ここに来た時点で、すでに礼二郎はイライアの……。
「師匠、なにか飲み物を……」
葛藤に決着をつけることが叶わず、適当な理由を口に立ち上がった。
「よい、喉は渇いておらぬ。それより……」
その礼二郎の服を、イライアがそっとつまんだ。
「なんでしょ……ウワォッ!」
振り返った瞬間、礼二郎はリアクション芸人がごとく叫んだ。
俯瞰から見る魅惑の谷間は、思わず声を上げてしまうほど大迫力だったのだ。
イライアの身長が高いせいもあって、今までは、ほぼ正面もしくは、真横からのからしか鑑賞できなかった。
少しアングルが違うだけで、こんなにエロさが増すものなのか。
さらに、その下にある絶対領域と、編み編みガーターストッキングとの絶妙なハーモニー。
美とエロスの共演。
これぞ芸術、これこそが芸術だ。
まるで呪いのように視線を吸い寄せる。
だが露骨にジロジロ見るとバレてしまう。
ああ神よ、なんという試練を我にお与えか。
あ、女神様、あなたには言ってません。
(くっ! こんなにエロ……コホン、美しいものをじっくり見られないなんて! )
「ウワォとはなんじゃ。まあよい。実は話したいことが、いや、話したくないことがあるのじゃ」
イライアが真面目な声のトーンで言った。
なぜか、泣きそうな目をしている。
そしてイライアが、礼二郎の目から少し視線をずらした。
「話したくないならことなら無理に話さなくても……」
視線がズレたのをこれ幸いに、礼二郎は少し大胆にイライアの胸をのぞきこんだ。
眼下に広がる雄大な谷間。
壮観である。
その絶景たるや、さながらグランドキャニオンのごとし。
グランドキャニオンを見たことないが、その風景は、さながらこの胸の谷間がごとく感動するに違いない。
いつか行ってみたいものだ。
「それで済むならそうしよう。じゃがお主と、その、こ、この先に進むならば、話さなければならぬのじゃ。聞いてくれるか?」
イライアは礼二郎の服から手を離し、絶対領域の上に載せた。
(なにぃッ!)
礼二郎は危うくまた声を出すところであった。
なんと、イライアが視線を礼二郎から完全に外したのだ。
今はジッと地面を見つめている。つまり……
(うひょー! 今なら思う存分ガン見できるぞ!)
というわけで、歓喜に打ち震える礼二郎は、立ったまま(意味深)血走った(意味深)目で話を聞くことにした。
「……はい」
しかし、どうやらこの先の話はさらに深刻なようだ。
真面目に聞かなければ礼を失する。
そう思いつつも、胸の谷間を食い入るように見つめる礼二郎であった。
思春期だから! だって思春期だから!
※後書き
ホルモン=礼二郎の男性ホルモン
胸肉=おっぱい
★主人公へのフォロー★
礼二郎君は我慢しすぎて、少しおかしくなってきています。
でも仕方の無いことなのです。
今の状況は例えるなら、ずっと食事を摂っておらず、飢えに飢えていて、その目の前に信じられないごちそうが並んでいる状態です。
しかも、そのごちそうは、礼二郎が妄想していた理想的な料理そのものです。
さらに、そのごちそうは(兄以外からは)食べてもいいと言われています。
しかし礼二郎君は食べません。
まだ食べてはいけないと思っているからです。
(兄からの〝待て!〟を守っている)
ですが、匂いだけ嗅いで、食べたときのことを想像してしまっています。
どんな味だろうか? どんな食感だろうか? と、よだれを垂らしている。
それが今の礼二郎君です。
鋼の精神力で己を律しているのです。
セレスさんを大事に想っていますが、イライア様もまた大事なのです。
むげに拒絶はできません。
以上、フォロー終わり! 解散ッ!
※次回更新は六時間後、8月3日(土)午後3時過ぎです。
予告)礼二郎君、またまたキスをする!? いえ、するのは78話です!
『第77話 【魔女の告白(1割)、賢者の煩悩(9割)】』の巻
お楽しみに! ジャンケン、ポン! ウフフ! ンガフッフ!




