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第70話 【小悪党】

※)本日3話投稿予定! その1話目です。ヒアウィゴー!

 美形のガキだった。

 どうして今まで気がつかなかったのか。

 そう思うほど整った顔のガキだ。

 改めてみると、芸能界でも通用するほどの美少女だ。


「この子達、殺してもいい?」


 人形のようにキレイなガキは、確かにそう言った。

 連れの女達には聞こえなかったようだ。

 だが飯島真之の耳には、確かにガキの言葉が聞こえた。


(こいつが俺たちを殺すだって?)


 真之が鼻で笑おうとしたとき、少女の視線が自分に移っていることに気付いた。

 それまで少女は、もじゃ子と呼ばれていた女を見ていたはずだった。


(あれ? コイツの目、こんな色だったか?)


 真之をジッと見つめる少女の目は見たことのない青い光を放っていた。

 その光を見た瞬間、真之の全身が硬直した。

 真冬にもかかわらず、全身から汗が噴き出る。


(ど、どうしたんだ! 身体が動かねぇ! クソォッ! ヤバい、ヤバい、ヤバい! こいつはヤバい奴だ!)


 逃げないと! そう思っても身体が動かない。

 視線を外そうにも、呪いのように青い瞳から目が離せなかった。

 やがて少女が大きく目を見開いたまま

 

《リリスティア、プルム、ファディア、ゴゼム、かわいい我が眷属よ。我の命に従い顕現しなさい》

 

 と呪文のような言葉を唱えた。

 すると、真之とは反対方向に伸びていた少女の影がウゾウゾと動きだし、真之の影とつながった。


(ひぃぃぃぃっ!)


 真之は悲鳴を上げようとした。

 だが声すら出せない。


(助けてくれぇっ!)


 声にならない声で助けを求めた。

 すると青い瞳の少女が左手の人差し指を自分の唇に当てた。


「シー……」


 そしてニタリと(わら)った。

 瞬間、真之の視界が暗転した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

 


「……パイ……先輩……真之先輩!」


 女の声で真之はハッと我に返った。


「どうしたんスか? ボーッとして?」


 ポニーテールの女、塩田トメ子だ。


(夢、だったのか?)


 真之はおっかなびっくり白髪のガキを見た。

「ロリちゃん! 殺すなんて冗談でも言っちゃダメ!」

 ガキはもじゃ子から怒られていた。

 その目は青ではなく、普通の黒目だった。

 しかし、なにか普通と違う。

 その、なにかはわからないがこいつはヤバい!


「なあ、美沙。あのガキ、なんかおかしくねぇ?」


 真之は精一杯強がった声で訊いた。

 気を抜けば声が震えてしまいそうだった。


「はい? 別に普通のガキっスけど。先輩、ロリコンなんスか?」


「ざけんな! んなんじゃねぇよ!」


 誰もあの妙な呪文も、影のおかしな動きも気付いていない?

 やはりあれは夢だったのか?

 そう考えたとき、真之の携帯が大きな音を立てた。

 

 ビクッ! 周囲に気付かれるほど大きく身体が跳ねた。

 誤魔化すように「クソッ。誰だよ」と呟きながら携帯を取り出す。

 友人からのメール通知だった。

 どうやら待ち合わせていた友人が到着したらしい。

 

 真之は思わずホッと息を吐いた。

 これでここを離れる口実ができた。


「よしおが着いたってよ。さっさと行くぞ」


 真之はそう言うと、背中を向け歩き出した。


「どうしたんスか? まだ、もじゃ子から金もらってないッスよ!」

「ちょっ! 先輩! なに急いでるんですか!?」


「っせぇな! いいから行くぞ!」


 真之は女達の言葉に耳を貸さず歩き続けた。

 離れたかった。

 あのガキから1秒でも早く、1メートルでも遠くへ行きたかった。


 ブツクサ言う女達を連れて30メートルほど進むと、ようやく緊張の糸が解けた。


(助かったんだ……)


 そう思い後ろを振り返った瞬間 「ひっ!」 固まった。

 足はガクガクと震え、額に大粒の汗が浮かんだ。


「先輩ッ! どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」

 

 トメ子の声は真之に届かなかった。

 真之は石像のように硬直し、目を見開いていた。

 その視線の先では――

 

『シー……』


 白髪の少女が唇に指を当て、ニタリと真之に(わら)いかけていた。 

 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「んだよ、真之ぃ! ノリ悪いぞ!」


 はやりの歌をうたい終えたツンツン頭の少年――良夫が、ニキビ面の少年の肩をバンバンと叩いた。


「っせぇな」


 ニキビ面の少年――真之は不機嫌そうに呟いた。


「ちょっと付き合えよ」


 良夫がそう言ってドアの方へ歩き出した。


「どこいくんスか?」


 ふくよかな少女――美沙が良夫に話しかけた。

 この女は良夫が気に入ったようだ。


「ションベンだよ。お前も行くか?」


 そう言って良夫はドアから出て行った。

 美紗の気持ちに気づいてるかはわからない。

 しかし、どうでもいい女の気持ちなんて、それこそどうでもよかった。

 真之は面倒くさそうに立ち上がり、良夫の後に続いた。

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