第59話 【ロリスの覚悟】
すみません! 嘘ですけど、プライベートでいろいろあって更新が遅れました!
「そろそろ時間だな」
礼二郎が時計を確認して言った。
「今日はレベルが上がらなかったわ」
こず枝がうつむき、悔しそうに言った。
「こず枝様、ユニークモンスターがいないと、こんなものです。気を落とす必要はありませんよ」
ロリの言葉に、こず枝が顔を上げた。
「レイは今、レベルいくつ?」
「4だな。こず枝、言っておくことが……」
「わたしは【受容体異常】でしょ?」
「ど、どうしてそれを?」
「イライアさんが教えてくれたの。それに、レイのスキルなら適正なレベルに上げられることも知ってるわ」
「そうか。師匠から聞いたのか」
「覚悟はできてるわ。さあ、そのスキルとやらを使ってちょうだい!」
「あのぉ、こず枝様。れいじろう様のスキルを受けるには、その、裸にならないと……」
「はえ? は、裸ぁッ?」
「か、勘違いしないでくれ! スキルの発動条件がそうなってるんだ! 下心はないぞ! それに裸になるのは上半身だけでいいんだ!」
「そう、上だけでいいのね……。って脱ぐかぁ!」
「すごいです、こず枝様! それは〝ノリ突っ込み〟ですね! テレビで観ました!」
「そ、そうかしら? ってちがーう! そう言うことじゃなくて、レイ、あ、あなた、今までスキルを使うたびに、みんなの裸を見てきたわけ?」
「み、見てにゃいです!!」
「れいじろう様は、極力目を閉じて下さいます。なんどか薄目で見ていたのは、男の人なら仕方の無いことです。でも実際にやってみると、裸になることなんて、どうでも良くなりますよ」
「……すみません。なんどかコッソリ見ました」
「やっぱり見てるんじゃない! それにどうでも良くなるって、どういうことなの、ロリちゃん?」
「説明できないんです。こればっかりは経験しないと……」
「服の上からじゃダメなの? 水着とか……」
「いつバレたんだ……。まさかみんな僕が薄目で見ているのに気付いていたのか……」
ブツブツと呟く礼二郎がこず枝の冷たい視線に気付いた。
「ハッ! こ、コホン、いろいろ試したが、身体の間に布1枚、ひも一本あるだけでも、このスキルは発動しないんだ」
「いいい、いろいろ試したですって!」
「そんな変態を見るような目は止めてくれ! みんなの裸を見ないように試行錯誤しただけだ!」
「こず枝様、れいじろう様は変態ではありません。もっと堂々と見ても良いのにってみんなが言ってるのに、見ない振りをしてくれたんですよ」
「へ? やっぱりみんな僕が見てたのを気付いてたのか? セレスも!? ぐわぁぁぁぁっ!」
礼二郎が顔を両手で覆い、叫んだ。
「ででで、でも、こここ、こんな場所で上半身裸になれだなんて……」
真っ赤な顔のこず枝がモジモジしている
「うぅ……。心配しなくても今日はやらないぞ」
なんとかメンタルを持ち直した礼二郎が言った。
「へ? どういうこと?」
「リキャストタイムについては説明したな?」
「ええ、〝ファイアボールは10秒に一回しか撃てない〟ってやつでしょ?」
「そうだ。僕のユニークスキル【神の采配】のリキャストタイムは同じ人物に対し、一週間なんだ」
「つまり、新しいスキルを覚えるタイミングで、こず枝様のレベルを調整する予定なのです。次はレベル5の【ファイア・バレット】ですよね、れいじろう様」
「うむ、【ファイア・バレット】は【ファイアボール】より威力は落ちるし、持続ダメージはない。だがリキャストタイムが短く、連射できるんだ。これを覚えたら階層主に挑戦してもいいだろうな」
「うそ! 連射できるの!? むむ、し、仕方ないわね。や、やるときは目を閉じててよ! もし見たらレイに【ファイア・バレット】を試し撃ちするからね!」
「りょ、了解した」
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イライアの部屋にできた転移ゲート。
そこからひとりの人物が現れた。
「おかえりにゃん。ん? こず枝ひとりかにゃ? ロリロリとご主人はどうしたにゃん?」
転移ゲートから出てきたこず枝を、猫娘シャリーが出迎えた。
「ただいま、シャリーちゃん。ロリちゃんとレイは少し話があるからって少し遅れるらしいわ」
「ロリロリがご主人様に……」
このとき、いつも陽気なシャリーが不安そうな顔をした。
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「どうした、ロリ? 話なら家に帰ってからでも……」
こず枝が去ったダンジョンで、礼二郎が話しかけた。
ロリは礼二郎に背を向けている。
「れいじろう様。話があるのはロリじゃないんです」
ロリがそう言って、背を向けたままブレスレットを外した。
第二の人格【ロリス】を封じるためのイライア謹製ブレスレットだ。
ロリの全身に青く光る紋様が浮かび上がる。
(はえ? ま、まずい! 今ロリスの《魅了》を使われたら抵抗できんぞ!)
現在レベル4の礼二郎は、対精神魔法耐性が低く、魔法障壁も使えない。
チェリーの貞操、最大の危機である。
(レベルが戻るのはあと5分ほどか)
素早く後退し、ロリスと距離を取る。
走って逃げ続れば、なんとか……。
「久しぶりね、レイジロウ」
ロリスが振り返った。
ロリと同じ顔なのに、まったくの別人と一目でわかる。
目、唇、その声――己の持つすべてが、男を魅了するための道具。
ロリスはロリの身体を瞬時に、そう変貌させた。
「話とはなんだ」
チェリーは最大限に警戒しつつ言った。
いつでも逃げられる距離を保っている。
《魅了》の魔法は発動していないはずである。
にもかかわらず、目の前の少女は全身からとんでもない色香を発していた。
人工生命体のベータとのセッションがなければ、チェリーの不本意なアイデンティティは危なかったかもしれない。
「そんなに警戒しないでもらえるかしら? 別に取って喰いやしないわよ。お前が望むなら話は別だけれど」
「へ? そうなの? いやいやいや、信じられるか! とにかく近寄らないでくれ」
「はあ……。悲しいほどに信用されてないわね。まあ会うたびに《魅了》をかけ続けたワタシのせいか」
「いいから早く用件を言って、ロリに戻ってくれ」
「じゃあ本題に入るわ。レイジロウ、お前、昨日の夜セレスとなにかあったわね?」
「はえ? ななな、なにかってなんのことだ? 知らん! 弁護士を呼べ!」
「ベンゴシってなによ。そんな言い訳はどうでもいいから聞きなさい。お前がセレスに惹かれてるのはとっくにわかってるのよ」
「…………」
「それをわかった上で言うわ。レイジロウ、この子を、ロリを選んでもらえないかしら?」
「選ぶ、だって?」
「そうよ。あなたが伴侶をひとりを選ぶにせよ、複数を選ぶにせよ、ロリをそこに入れて欲しいの。って言うよりロリを選びなさい。これは命令よ」
「はぁ!? どうして僕がお前に命令されなきゃいかんのだ!」
「お前がロリを捨てたら、ワタシが大暴れするからよ。お前の通っている学校とやらを大乱交パーティ会場にしてやるわ」
「ら、乱交パーティ会場!? それなんてエロゲだ!? コホン、そんなことしたらイライア師匠から……」
そこまで言って礼二郎は気付いた。
ロリスの瞳には、いつもの余裕がまったくないことに。
「消されるでしょうね。でもやるわ。ねえレイジロウ、どうしてワタシが存在しているかわかる?」
その瞳の奥にあるのは命を賭すほどの〝覚悟〟であった。
「ロリを守るため、か」
「そうよ。ロリはお前から離れては生きていけない。お前から捨てられるということは、ロリの死を意味するのよ。つまりワタシも死ぬってわけ。そんな状況で消されるのを怖がると思うの?」
「ロリを捨てるだなんて……」
「でも、お前は捨てようとした」
「…………」
「あのとき改めて感じたわ。ロリのお前への依存、いえ、執着をね」
「…………」
「ロリのこと、嫌い?」
「嫌いなわけない」
「そう、よかったわ。お前には感謝してるのよ? 世界から拒絶され続けたロリが、ようやく自分の居場所を見つけたの」
そこまで言うとロリスはニコリと微笑んだ。
「レイジロウ、お前のおかげね。でも……」
「……でも?」
「ロリは知ってしまったのよ。自分を受け入れてくれる世界を……」
「…………」
「それを知った今、以前の様な暮らしに戻れると思う? 魔法で無理矢理居場所を作って、魔法が効かなくなれば町を移動する暮らしなんて、地獄もいいところよ。いいえ……地獄だと気付いてしまったの」
「ロリス、僕は……」
「レイジロウ」
ロリスが低く、呻くような声で礼二郎の言葉を遮った。そして――
「お前の……貴様のせいだ」
――礼二郎を燃えるような目で睨み付けた。




