第54話 【ロリ地獄】
(こ、このままだと、死ぬ。死んでしまう……)
早朝、ベッドの中で礼二郎は思った。
どうにも眠れそうにないので、携帯の目覚まし機能をオフにして起きあがる。
布団がめくれると、そこには褐色の美少女が、スヤスヤと眠っていた。
かなりきわどい格好で、である。
昨夜のセレスとの逢瀬で、チェリーのリビドーは限界を突破していた。
キスの最中は、邪な気持ちなど微塵も感じなかったはずなのにだ。
しかし不思議なもので、いざひとりになってあのときのことを思い出すと、たまらなくエロチックな気持ちになってしまった。
そしてチェリーは後悔した。
(どうして僕は、セレスのおっぱいを触らなかったんだ……)
――いや、わかっている。
あのときは、そんな空気ではなかった。
もしあの場面でおっぱいを触ろうものなら、神聖な気持ちが穢される気がしたのだ。
そして今更ながら、おっぱい欲に支配されたチェリーの眼前には、未発達なおっぱいが存在している。
しかも、その持ち主は熟睡しているときた。
ムラムラムラムラ……。
チェリーのリビドーが精神を支配しつつあった。
この兆候は、セレスとの一件が終わり、家に帰ってから始まっていたのだ。
これはいかん! と危険を察知したチェリーは――★【 IT’S賢者TIME!】★――しようとチャンスをうかがっていた。
しかし謎の嗅覚でそれを察知したロリが、どこへ行っても現れた。
(トイレに現れたときには、さすがに閉口したな……)
そして結局、その機会がないまま寝床につき、この状況にいたっている。
(性欲を持て余して死ぬなんて、訊いたことがないが……)
隣で眠るとんがり耳の褐色超絶美少女を見つめた。
「あ……れいじろうさま……そこは……ん」
ロリがなまめかしい寝言を漏らしながら、身体をくねらせた。
「グハッ!」
チェリーが断末魔のような声を上げた。
しかし耐えた。チェリーは耐えきった。
今この瞬間、一瞬でも気を抜くと襲いかかってそうな自分を、必死に押さえつけたのだ。
魔女イライアとの修行や、地獄のダンジョン攻略で鍛え上げた鋼の意思は、ここでこそ役立った。
(とはいえ、そうは持たんぞ。いつ襲いかかるかわかったものではない……)
妖艶な少女を起こさないように、そっとベッドから降りて、しみじみ思った。
(な、なんという甘美な地獄……)
リビドーがある程度まで自然沈着した後、一階へ降りる。
リビングへのドアを開けると、ふたりのメイドがせかせかと働いていた。
右側に目を向けると、ソファーに腰を下ろす愚妹の加代が、どこぞの令嬢よろしく、優雅にティーカップを傾けている。
「あら、お兄様? そんな疲れたお顔で、どうしたのかしら?」
礼二郎に気付いた貧乏娘が、うやうやしく言った。
「ああ、おはよう。そのしゃべり方は頼むから止めてくれ。痛々しくて聞いてられん」
礼二郎は言った。
「少し眠れなくてな……。まあ心配することはない」
「あれ、やっぱ似合わないかな? ハハハ、おはよう、礼兄ぃ」
そのとき礼二郎の背後でドアが開いた。
「おはようにゃん! にゃにゃ!? ご主人様、すごいクマができてるにゃ!」
「お、おはよう。きょきょきょ、今日はいい天気だな!」
猫娘シャリーと女騎士セレスだ。
シャリーには加代の、セレスには亡き母の寝間着を貸している。
当然のようにふたりともノーブラである。
「お、おはよう! そそそ、そうだな、いいい、いい天気だな!」
礼二郎はセレスの顔を見られなかった。
と言うのも、昨夜のチェリーは、今思い返すと恥ずかしくなるセリフを連発していた。
どこのイケメンだってくらい恥ずかしいセリフを、だ。
つまりどの面を下げて顔を合わせればいいのか、わからなかった。
それに加え、おのれの内で暴れ狂う邪なリビドーを悟られたくなかった、ってのもある。
「おはよう、シャリーちゃん、セレスさん。ちなみに今日は曇りだよ?」
空気を読まない妹の、悪意のない突っ込みが入った。
「はぅ! そ、そうか、曇りだったか! なんとなくいい天気な気がしたのだがな!」
「そ、そうか、曇りか! 僕もなんとなくいい天気だと思い込んでいたな!」
セレスとチェリーの動揺がシンクロナイズドした。
「……昨日の夜からにゃんだが、ふたりともぎこちないにゃ。なにかあったのかにゃ?」
猫娘が、そんなふたりをジトッと見つめた。
「な、なにもない! なにもないぞ! なぁ、主殿!」
「う、うむ! なにかなど、あるはずがない!」
「にゃんだかあやしいにゃ……。ところでご主人様。またロリロリが布団に忍び込んだにゃ?」
「ああ、皆がこの世界に来てから毎日だな……」
「んな! あ、主殿! ロリと毎日、どどどど、同衾してると言うのか!?」
「それについて少し相談があるんだ。ふたりとも師匠の部屋に一緒に来てくれ」




