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 閑話2 【刑事、田中と鈴木】

★閑話です。刑事さんの話。読まなくても本編に影響なし

【2019年1月24日(木)午後9:20 某警察署内】


「田中さん」


 体格のいい20代の男が部屋に入ってきた。


「なんだ鈴木、帰ったんじゃなかったのか」

 10ほどあるデスク――そのひとつに腰掛けた40代男性が顔を上げた。

 部屋にいるのは、この男ひとりだけだ。


「報告書を出し忘れてまして……。――あれ? またその映像観てるんですか?」


 鈴木と呼ばれた20代の男が、田中のパソコン画面を覗き込んで、言った。

 画面には先日話題となった怪獣が映っている。


「ああ、どうも気になってな」

 田中が書類を受け取り、机に置いた。


「気になる……ですか? でもこれはいたずら番組でしょ?」


「嘘をついているやつは、顔を見ればだいたいわかる。このレポーターが嘘をついてるとはとても思えんな」


「まさか、怪獣が本当にいると?」


「わからん。だが、この怪物の言葉がどうにも気になる」


「言葉……ですか?」


「ああ、聞いてみろ」


 田中がパソコンを操作し、映像を再生した。


『レイ△ロー、♀□%△¥〒▽●▲! 〒▽●%△¥〒▽▼¥!』

 

 怪物の叫びが、最大ボリュームで広い室内に響き渡る。


「どうだ? 怪物の最初の言葉、『れいじろう』って聞こえないか?」


「へ? そう言われると聞こえなくも……。れいじろうってもしかして、今監視してる『大萩礼二郎』君と関係していると?」


「ただの偶然かもしれんがな。鈴木、お前は火曜日に彼を監視したんだったな。お前の目から見てどう思った? ん? なんだその顔は? おまえ、まさか……」


「ななな、なんですか?」


「おまえ……対象と接触したな?」


「ま、まさか! いくらなんでも素人じゃあるまいし、対象と接触するなんて! いやだなー、ハハハ」


「正直に言え」


「……はい、接触しました。……すみません」


「どういうことだ? 詳しく話せ」


 観念した鈴木は、火曜日夕方、礼二郎とのできごとを包み隠さず田中へ話した。

 それを聞いた田中は――


「バカ野郎ッ!」


 ――フロア中に響き渡る大声で叫んだ。


「対象が絡まれたからって、助けに出るやつがあるか! そんなのは町のお巡りさんに任せとけばいいんだ! お前の仕事はなんだ!」


「こ、国家の安全を守ることです!」


「そうだ! 俺たちの仕事は個人を守ることじゃない! 小さなことに躓いて大局を見落とすなと何度言えばわかるんだ!」


「す、すみませんでした!」

 鈴木が青い顔で頭を下げた。


「と、まぁ上司としての説教はここまでだ。お前のそう言ったまっすぐなところは嫌いじゃない。だが調子に乗るなよ。次に同じ失敗をすればタダじゃすまさん。道場で血反吐を吐くまで稽古してやる」


「は、はい! 二度と同じ失敗はしません!」


「ところで、鈴木。礼二郎君はその不良ふたりから、一方的にやられたんだな?」


「はい、彼は一度も手を出しませんでした」


「その不良ふたりは、お前の目から見てどうだった?」


「多少格闘技の心得がありそうでしたが、たいしたことのない連中です」


「……礼二郎君の体力測定結果からすると、おかしいと思わんか?」


「はい、わたしもそう思い調べると、不良のひとりに妹がいまして、その子が礼二郎君の妹と同級生だったんです。なので、妹がらみで弱みを握られてるのかと……」


「なるほど……妹のために無抵抗で殴られた、か。お前にしちゃいい推理だ」


「はい、ありがとうございます!」


「だが、それでも納得いかん。礼二郎君はラーメン屋で少し怒ってたんだろ?」


「あれだけ殴られれば当然かと……」


「そしてラーメン大盛りにチャーハンに餃子を頼んだわけか。そこがおかしいんだ」


「へ?」


「どうして仮にも恩人であるお前にそんな仕打ちをする? 心理テストの結果からすると、彼は礼儀を重んじるタイプだろ?」


「あ……そ、そう言われると……」


「つまり、彼は不良達じゃなく、お前に腹を立ててたんだよ」


「ど、どうしてわたしに?」


「お前がいたせいで手が出せず、不良に殴られたから……だろうな。つまりお前の監視は最初から気付かれてたんだ」


「気付かれて……。まさか、そんな……」


「お前の尾行が下手だからじゃない。お前の尾行術は署内でも随一だ。まったく、なに者なんだ、あの子は……」


「あの……田中さん」


「ん?」


「一応ラーメン屋の領収を取ってるんですが、その……経費で落ちたりは……」


 そして二度目の怒声が室内に響き渡った。

【おまけ話】

 


「それでは失礼します……」


 しこたま怒られた鈴木が背を向けた。


「……待て、その領収を見せてみろ」


 田中が仕方ないと言った口調で言った。


「は、はい!」


 振り返った鈴木が弾んだ声で返事をして、領収書を田中へ渡した。


「ふむ」


 ビリビリビリ。

 一目見た田中が領収書を破った。


「アーッ!」


「騒ぐんじゃない。ほれ、礼二郎君の分は半分俺が払ってやる。自腹だぞ。感謝しろ」


 田中がそう言って、サイフから1000円札を取り出した。


「田中さぁん……」


 鈴木は泣きそうになった。

 と言うのも、この千円札は田中のサイフにあった唯一のお札だったからだ。


 ~終わり~


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