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第50話 【喰らえ、ファイアボール!】

「《ファイアボール》!」


 ゴワッ! 


 こず枝のかざした右手から火の玉が飛び出す。


 ギィィィッ! 

 スライムが炎に包まれた。

 ユニークモンスターではない、普通の青いスライムだ。


「きゃぁぁっ! やったわ! わたし魔法が使えたのね!」


 こず枝がぴょんぴょん跳びはねて叫んだ。

 

「こず枝様! 一撃倒せるなんてすごいです!」


「うむ、異様に威力が高いな。さすが龍神様の加護だ」


「え? これってすごいことなの?」


「ロリが初めてスライムを一撃で倒せたのは、レベル3のときでした」


「僕のときもそうだったな」


「そうなのね! じゃあ、どんどん倒していきましょう!」


「こず枝様……。残念ですけど……」


「今日は試し打ちの一回だけだと、最初に説明しただろう。それに、もう夕食の時間だ」


 礼二郎はイライア特製護符を取り出し「イライア=ラモーテ!」と唱えた。


『皆怪我はないか? ん? こず枝は、なにを叫んでおるのだ?』


 空中に現れたモニターに、こじらせ魔女が映し出された。


「はい、皆無事です。こず枝は……帰りたくないとダダをこねてます」


『帰らぬわけにはいくまい。すぐ迎えにいくゆえ待っておれ』


 



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 



「おつかれさまにゃん!」


 転移ゲートから出るとを、猫娘シャリーが出迎えた。


「これ、こず枝よ。いつまでもむくれるでない」


「にゃにゃ? こず枝はなんでへそを曲げてるにゃ?」


「こず枝様は、もっとダンジョンに居たかったみたいなの」


「だって、やっと魔法が撃てるようになったんだよ……?」


「こず枝様。あせらなくてもダンジョンは逃げませんから!」

 

「ところがどっこい、次元迷宮は、すぐどこかに消えちゃうにゃん」


「まぁしばらくは、あの場所を動くまい。龍神様が直接、僕と約束したしな。こず枝、気持ちはわかるが、いい加減機嫌を直さないか」


「あーあ! もっと魔法撃ちたかったなぁ!」


 こず枝はブツブツ言いながら、装備を外した。


「ところでダンジョンはどうだったにゃ?」


「聞いてよ、シャリー! すごかったのよ! ユニークモンスターが……」

 

 こず枝の隣でロリとシャリーが、接待ダンジョンについて興奮気味に話していた。

 

「こず枝、間違っても家の中で魔法を撃つんじゃないぞ。あとわかってるとは思うが、加代には全部秘密だからな?」


 礼二郎は真剣な面持ちで言った。

 礼二郎にはこず枝の気持ちが痛いほどわかった。

 魔法を使えるようになった当初は、とにかく魔法を撃ちたくなる。

 

 だが、魔法初心者は、徐々に魔法を身体になじませなければならない。

 車で言うところの“慣らし運転”みたいなものだ。

 そうしないと、魔法を使うのに、過剰な魔力を要したり、発動時間が大幅に遅れたりといった状態の癖が定着してしまうのだ。


「なんども念を押さなくてもわかってるわ。でも加代ちゃんに関しては今更じゃない? 加代ちゃん、イライアさんの魔法を目の前で見てるよね?」


「師匠の魔法は、それ自体に認識阻害の効果がついてるんだ。こず枝の魔法なんか見せたら、1発でバレてしまうぞ。もしそうなれば、加代が黙ってるわけがない。すぐにでもネットで大炎上だ」


「うっ、その未来が簡単に想像できるわね。き、気をつけるわ」


「うむ、わかってくれたか。――さて、夕食まで時間があるな。こず枝は皆と風呂で汗を流すといい」


 大萩家の風呂はイライアの魔術で、ちょっとした温泉のように広くなっていた。

 その上なんと、常に清潔なお湯がたっぷりと張った状態で、水道代、ガス代も無料である。


「こず枝様一緒に入りましょう!」「加代も誘って一緒に入るにゃ!」


「加代と入るなら、護符を外すんじゃないぞ?」


「はい、れいじろう様!」「わかってるにゃ! 早くしゃんぷーで遊ぶにゃ!」


 そしてロリとシャリーが、ブツブツと呟くこず枝を引っ張って部屋を出て行った。



「……して、どうじゃった?」


 部屋に残った礼二郎へ、魔女イライアが真面目な顔で言った。

 テーブルに腰掛け、いつの間にか現れたティーカップを、口に傾けた。 


「はい。レベル1のファイアボールで、スライムを一撃でした」

 

 礼二郎が装備を外し終え、テーブルに腰掛けた。

 すると礼二郎の目の前にも、ティーカップが現れた。

 湯気と紅茶の良い香りが、辺りに漂う。


「ふむ、さすがは我が友アルシェの加護。ワシの魔術印といい勝負じゃな」


「ですが、こず枝は『受容体異常者』です」

 

「なに? どの程度じゃ?」


「こず枝のレベルが上がったのは、僕がレベル3に上がった後でした」


「つまり1割以下――セレスと同程度じゃな。それではいくら『ユニークモンスター』を倒そうとレベルは遅々として上がるまい。普通ならば、じゃがの。つまりまた、お主のスキルが役立つわけじゃな」


「……他に方法はないのでしょうか?」


「ないじゃろうな。我が友アルシェに事情を説明すれば、あきらめてくれるかもしれんが……。どうした? こず枝に、お主のスキルを使いたくないと申すのか?」


「はい……。このスキルのせいで、みんなが僕に……」


「この、たわけ者がッ!!」


 ダンッ! 強くテーブルを叩き、イライアが立ち上がった。

 ティーカップは、まるで最初から存在しなかったように消えている。


「し、師匠……」


「ロリやシャリーの気持ちが、セレスの想いが偽りだとぬかすか! お主は今まで、あやつらのなにを見てきたのじゃ!」


「でも、こんな僕なんかに……」


「またそれか……。お主はさんざん()()()の魔法で痛い目に遭ってきたじゃろう。お主が経験したように、魔法による惚れた腫れたは一時的なものに過ぎん」


 イライアが腰を下ろし、再びティーカップを手に持った。


「……」


「お主が()()()の『魅了』にかかり辛くなったことでもわかっておろう。認識をズラす【認識阻害】とは違い、認識をねじ曲げる【精神魔法】はかかるたび、耐性がついていくのじゃ。だからこそ()()()は、町を転々とせざるを得なかったのじゃ」


「……」


「お主のスキルは、相手の心をねじ曲げるものではない。おのれの心をさらけだし、相手の心を受け入れる類いのものじゃ。ロリもシャリーもセレスも、お主のスキルで変わったと申すなら、お主の心に深く触れたからじゃ」


「僕の心……」


「そうじゃ。偽らざるお主の心を知り、自らの意思で心を許したのじゃ」


「……少し考えさせてください」


「このままでは、こず枝とお主とのレベル差が開くばかりじゃぞ? っと、そんなことは言わずともわかっておろうがな。まぁ少し落ち着いて考えてみるがよい。ん? 他にも、なにかあるのか?」


「はい。ダンジョンの入り口にいた人達のことです。やはり……気になります」


「我が盟友アルシェの結界が破られると?」


「……可能性はゼロではないと思います。その場合、この世界にどんな影響が出るのでしょうか?」


「影響、か。ふむ、お主に散々教えてきた魔術の基本をおさらいじゃな。我が弟子や、魔術に一番大事なことはなんじゃ?」


「はい。“信じること”です」


「その通りじゃ。魔法しかり、物質しかり、法則しかり。そのすべてが信じること、そして認識することで具現化するのは、散々実践してきた通りじゃ」


「でもそれは、向こうの世界の話で……」


「同じじゃよ」


「え?」


「こちらの世界も、向こうの世界も組成はほぼ変わらぬよ。違うのは“認識”だけじゃ。その証拠に、こず枝は魔法を習得したではないか。それは、こず枝がワシ等やお主の魔法を見て認識したゆえじゃ」


「じゃ、じゃあ、もしダンジョンの結界が破られたら……」


「この世界の――人々の“認識”と“この世の(ことわり)”が変わるじゃろうな」


「この世の“理”……。そうなると、いったいどんな変化が?」


「この世界が〈ダンジョンや魔法が当たり前に存在している世界〉になるじゃろう」


「へ? もしかして、あっちの世界と同じようになるんですか?」


「それは実際に変化してみんとわからんな。これ、そう心配するでない。我が盟友アルシェの結界が破られるわけないじゃろう」


「そ、そうですよね」


「ワシやお主が手を出さぬ限りはな。あの口の臭い男もおらんことじゃし、安心するがよい」


 その言葉で礼二郎は、安心するどころか、さらに不安になった。

『ガッハッハ』

 れいじろうの耳に豪快な笑い声が、そして鼻にあの強烈な口臭が届いた気がした。


(まさか、な)

 

 かすかな胸騒ぎを抱えたまま席を立った。

 イライアに礼を言って背を向けると――


「それはいいとして、我が弟子よ、お主のスキルの件じゃが」


 ――イライアがその背に言葉を投げかけた。


「夕食の後にでも、セレスのヤツに相談してみるとよい。お主の不安が少しは解消されるやもしれんぞ? それにあやつも、お主に話したいことがあるようじゃしな」 

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