第45話 【モテ期終了!】
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教室へ戻る途中、礼二郎はうんうんと頷いた。
(さすが、こず枝だな)
こず枝は異世界組のことを相談してきたのだった。
いわば恋敵だというのに、こず枝は自分から歩み寄ろうとしてくれているのだろう。
(異世界組それぞれの好き嫌いを教えて、か……。たしかに、昨日の食事は大変だったな)
勝手がわからないくせに、なぜか異常に張り切る女性陣。
わらわらと台所へ詰めかけた結果発生した、大量の生ゴミ。
まともに食べられるものは、山ほど炊いたお米と、こず枝の作ったビーフシチューのみ。
そして、食材を無駄にした異世界女性陣は、妹の加代からこっぴどく怒られたのだった。
あの最恐魔女イライアが『す、すまぬ、妹御よ。そ、そんなに怒るでない』と謝ったのには驚いた。
大萩家は裕福ではないゆえ、食べ物を粗末にすれば誰であろうと、妹の厳しい罰が下るのだ。
肝心の食事はと言えば……。
異世界組のお米に対する反応は、予想を遙かに超えていた。
「すごいですッ。かければかけるほど、おいしくなりますぅッ」
狂ったようにふりかけをふりかける、褐色少女ロリ。
「この木くず、最高にゃッ」
狂ったように鰹節をかける、猫娘シャリー。
「手がとまらんッ。おかわりをお願いするッ」
狂ったようにおかわりをする、女騎士セレス。
「ふむ、発見したぞ。米にシチューではなく、シチューに米を入れた方がうまいのじゃ」
そして、シチューにご飯をぶち込む、こじらせ魔女イライア。
その全員が、米に感動し、絶賛したのであった。
妹はポカンと口を開けて、その様子を見ていた。
兄の源太はと言うと――ずっとチラチラと、セレスを盗み見していた。
(兄ちゃんはセレスに……。でも、それは仕方ないのかもな)
いくら認識阻害の護符があるとは言え、セレスの鎧姿はインパクトが強すぎた。
なので、セレスには家にあった、亡き母の服を着てもらっていた。
そして、帰宅した兄源太の目は、母の服を着たセレスに釘付けとなったのだ。
その様子を見た礼二郎は、なぜか胸がムカムカした。
(あのとき、どうしてあんなに腹が立ったのだろうな……)
ちなみに兄、源太への異世界組ホームステイ説得は――
「すまない源太殿。我らをしばらくこの家に置いてもらえないだろうか……?」
――セレスのこの一言で片がついた。
認識阻害の護符以上に効果を発揮したのが、母の服を着たセレスだったのだ。
(とりあえず異世界組の宿は決まったし一安心だな。……ん?)
そのとき礼二郎の前方から懐かしい気配を感じた。
向こうの世界では頻繁に感じていた気配。
――それは“殺気”だった。
発生元へ視線を向けると、右手にギプスをはめた顔見知りの男子生徒がふたり。
顔を歪めて礼二郎をにらんでいる。
(む? どうして僕が殺されるほど恨まれなきゃいかんのだ? 被害者はこっちだぞ?)
もしかして、こっそり拳を砕いたのがバレたのだろうか。
礼二郎が腕を組み、首を傾げると、「チッッ」「……行こうぜ」 骨折ヤンキーふたり組は去って行った。
(まぁ、あいつらレベルなら気にとめる必要もあるまい)
絡んできたら、またどこかの骨を折ってやろう。
などと物騒なことを考えているうちに、教室に到着した。
さぁヒーローのご帰還だ、キャーキャー騒ぐがいい、と言わんばかりに1年2組のドアを開けると――
シーンッ。
――そこは、まるで映画の上映前のような静けさだった。
(なんだ、この空気はッ?)
異様なムードである。
ドゥテーッ。ドゥテーッ。
脳内チェリー警報が、失礼な音色で鳴り響いた。
教室を、ゆっくりと窓際へ移動する中、「最っ低なやつ……」「マジありえないんだけど……」「大萩最悪……」 ボソボソと囁く女子の声。
(よ、呼び捨てぇ? さっきまで『大萩様』だったのにッ? こ、この短時間でなにがあったんだッ)
〝昨日までの女子視線温度を0℃〟とすると、〝今朝から先ほどまでは100℃〟を越える熱視線だった。
しかし、今現在チェリーに突き刺さる視線は、〝マイナス50度〟を下回っている。
バナナが鈍器になるほど、キンキンに冷え切っているのだ。
なぜだどうして、とチェリーハートを凍傷でボロボロにしながらも、なんとか窓際定位置にたどり着く。
世界最強の男は青い顔で腰を下ろした。
それを見た小太りメガネが、目を閉じウンウンと頷いた。
「礼二郎男爵。男の人生には三回のモテ期が来るらしい」
そしてガリガリメガネが、ウンウンと頷き、チェリーの肩に手を置いた。
「そ、そしてお前の第一回モテ期は、今朝始まって、今終わったんだ。おかえり、礼二郎男爵ッ」




