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第45話 【モテ期終了!】

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 教室へ戻る途中、礼二郎はうんうんと頷いた。


 (さすが、こず枝だな)


 こず枝は異世界組のことを相談してきたのだった。

 いわば恋敵だというのに、こず枝は自分から歩み寄ろうとしてくれているのだろう。


(異世界組それぞれの好き嫌いを教えて、か……。たしかに、昨日の食事は大変だったな)


 勝手がわからないくせに、なぜか異常に張り切る女性陣。

 わらわらと台所へ詰めかけた結果発生した、大量の生ゴミ。

 まともに食べられるものは、山ほど炊いたお米と、こず枝の作ったビーフシチューのみ。

 そして、食材を無駄にした異世界女性陣は、妹の加代からこっぴどく怒られたのだった。

 

 あの最恐魔女イライアが『す、すまぬ、妹御よ。そ、そんなに怒るでない』と謝ったのには驚いた。

 大萩家は裕福ではないゆえ、食べ物を粗末にすれば誰であろうと、妹の厳しい罰が下るのだ。

 

 肝心の食事はと言えば……。

 異世界組のお米に対する反応は、予想を遙かに超えていた。

 

「すごいですッ。かければかけるほど、おいしくなりますぅッ」

 

 狂ったようにふりかけをふりかける、褐色少女ロリ。

 

「この木くず、最高にゃッ」

 

 狂ったように鰹節をかける、猫娘シャリー。

 

「手がとまらんッ。おかわりをお願いするッ」

 

 狂ったようにおかわりをする、女騎士セレス。

 

「ふむ、発見したぞ。米にシチューではなく、シチューに米を入れた方がうまいのじゃ」

 

 そして、シチューにご飯をぶち込む、こじらせ魔女イライア。

 

 その全員が、米に感動し、絶賛したのであった。

 妹はポカンと口を開けて、その様子を見ていた。

 兄の源太はと言うと――ずっとチラチラと、セレスを盗み見していた。


(兄ちゃんはセレスに……。でも、それは仕方ないのかもな)


 いくら認識阻害の護符があるとは言え、セレスの鎧姿はインパクトが強すぎた。

 なので、セレスには家にあった、亡き母の服を着てもらっていた。

 そして、帰宅した兄源太の目は、母の服を着たセレスに釘付けとなったのだ。

 その様子を見た礼二郎は、なぜか胸がムカムカした。


(あのとき、どうしてあんなに腹が立ったのだろうな……)


 ちなみに兄、源太への異世界組ホームステイ説得は――


「すまない源太殿。我らをしばらくこの家に置いてもらえないだろうか……?」


 ――セレスのこの一言で片がついた。

 

 認識阻害の護符以上に効果を発揮したのが、母の服を着たセレスだったのだ。


(とりあえず異世界組の宿は決まったし一安心だな。……ん?)


 そのとき礼二郎の前方から懐かしい気配を感じた。

 向こうの世界では頻繁に感じていた気配。

 ――それは“殺気”だった。

 発生元へ視線を向けると、右手にギプスをはめた顔見知りの男子生徒がふたり。

 顔を歪めて礼二郎をにらんでいる。


(む? どうして僕が殺されるほど恨まれなきゃいかんのだ? 被害者はこっちだぞ?)


 もしかして、こっそり拳を砕いたのがバレたのだろうか。

 礼二郎が腕を組み、首を傾げると、「チッッ」「……行こうぜ」 骨折ヤンキーふたり組は去って行った。


(まぁ、あいつらレベルなら気にとめる必要もあるまい)


 絡んできたら、またどこかの骨を折ってやろう。

 などと物騒なことを考えているうちに、教室に到着した。

 さぁヒーローのご帰還だ、キャーキャー騒ぐがいい、と言わんばかりに1年2組のドアを開けると――


 シーンッ。


 ――そこは、まるで映画の上映前のような静けさだった。


(なんだ、この空気はッ?)


 異様なムードである。

 ドゥテーッ。ドゥテーッ。

 脳内チェリー警報が、失礼な音色で鳴り響いた。


 教室を、ゆっくりと窓際へ移動する中、「最っ低なやつ……」「マジありえないんだけど……」「大萩最悪……」 ボソボソと囁く女子の声。


(よ、呼び捨てぇ? さっきまで『大萩様』だったのにッ? こ、この短時間でなにがあったんだッ)


〝昨日までの女子視線温度を0℃〟とすると、〝今朝から先ほどまでは100℃〟を越える熱視線だった。

 しかし、今現在チェリーに突き刺さる視線は、〝マイナス50度〟を下回っている。

 バナナが鈍器になるほど、キンキンに冷え切っているのだ。


 なぜだどうして、とチェリーハートを凍傷でボロボロにしながらも、なんとか窓際定位置にたどり着く。

 世界最強の男は青い顔で腰を下ろした。

 それを見た小太りメガネが、目を閉じウンウンと頷いた。


「礼二郎男爵。男の人生には三回のモテ期が来るらしい」


 そしてガリガリメガネが、ウンウンと頷き、チェリーの肩に手を置いた。


「そ、そしてお前の第一回モテ期は、今朝始まって、今終わったんだ。おかえり、礼二郎男爵ッ」


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