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第40話 【こず枝と龍神様】

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

 


 靴を履いた礼二郎は、息を吐いた。


 

「……いいか、こず枝。絶対に、間違っても、龍神様を怒らせるんじゃないぞ?」



 こず枝は、上気した顔で、ソワソワしている。



「わかってるわよッ。早く行きましょうッ。早く早くッ」


 

 いそいそと靴を履き終えたこず枝を、こじらせ魔女は呆れ顔で見つめている。



「こず枝や、本当にわかっておるのか? 相手は、この世界を破壊できるほどの存在じゃぞ?」

 

「うそッ。そんなにすごいんだッ。めっちゃ上がるんですけどッ」


「…………」「…………」



 礼二郎とイライアが、同じように不安な表情を浮かべた。

 それもそのはず。

 今から、このハイテンション女子高生が、龍神の元へ行くことになったからだ。


 少し前、こず枝とチェリーは、ふたりきりで部屋にいた。

 そのとき、イライアが訪れ、今から龍神の元へ向かうと言った。

 すると、こず枝は必死に頼み込んだ。

「お願いしますッ。わたしも連れて行ってくださいッ」

 礼二郎のことが心配だから……と言うのもあるだろう。

 だが、この女子高生は、ただ単純に巨大生物が見たいのである。

 


(そう言えば、こず枝は、昔から特撮ヒーローものや、怪獣ものが好きだったな)

 


 礼二郎の特殊装備【OH(オリハリコン)、バトルスーツ】。

 特撮ヒーローの様相を呈しているその装備は、今思うと、こず枝の影響を受けているのかもしれない。


 結局、こず枝の熱意に押されて、同行を許可したのであった。

 イライアが同行を許したことに、チェリーは少なからず驚いた。

 てっきり、にべもなく断るものと思っていたか。

 もしかしたら、昼間の件(※こじらせ魔女暴走事件)で、こず枝に対し、負い目を感じていたのかも知れない。

 



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 


「う、うむ。まぁ、龍神様は、ああ見えて心の広いお方だ。多少の失言は笑って許してくれるだろう。とくに禁句もないしな」


「う……。それについては、反省しておる……。あまり、ワシをいじめるでない。ほれ、こず枝や、これを渡しておこう」


「え? これって……500万円の――()()()()ですか?」


「与えるわけではないぞ? 今日一日貸すだけじゃ」


「ありがとう、イライアさんッ。イライアさんって、とっつきにくい人かと思ってましたッ」


「師匠は失言さえしなければ、優しいお人だぞ? あの……師匠。僕の方は、さっき話したとおり……」


「わかっておる。では、そろそろ行くぞ《ゴル、プルテ、サイラ、イモーネ……》」


「わわわッ。これがワープ装置? めっちゃ上がるんですけどッ」


「…………」「…………」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 




【亜空間ゲート】から出た礼二郎達の目の前には、広い広い空間が広がっていた。

 壁には『ダンジョンヒカリゴケ』がびっしりと生えており、地中にもかからず、まるで日中屋外のように明るい。

 

【次元迷宮】最深部――『龍神の間』である。

 

 ここに自力でたどり着いただけでも、龍神から莫大な財宝が与えられるのだ。

 もっとも、それを成し遂げたのは、この数百年で礼二郎ただひとりである。

 さらに龍神と戦い勝利すると、とんでもない力が手に入ると言われている。


 伝説の龍【龍神サンダルパス=アルシエラ】は、礼二郎達の現れた場所から20メートルほど先、広間中央で体を丸め眠っていた。

 


「我が友アルシェよッ。約束通り、我が弟子を連れて……」

 

「きゃぁぁぁぁぁッ!」

 


 魔女イライアの言葉をさえぎり、こず枝が絶叫した。

 ジロリッ。

 龍神が首をもたげ、三人を睨む。

 


(まずいッ。やはり、こず枝には刺激が強すぎたんだッ。龍神様が怒る前にこず枝を連れ帰っ……)



 礼二郎がこず枝を強制退場させるべく、動き始めたとき、こず枝が叫んだ。

 


「かっこいいぃぃッ」


「へ?」「な、なんじゃ?」



 礼二郎とイライアが、こず枝を捕まえようとする手を止めた。

 その二人に向き直り、こず枝が爛々とした目で、尋ねた。

 


「イライアさんッ。あの龍って噛みつきますッ?」


「な、なんじゃその質問は? い、いや、噛みはしないのじゃが……これ、こず枝ッ。待たぬかッ」

 


 噛みはしないとイライアから聞いた瞬間、こず枝が走った。

 たしかに、龍神は相手を噛んだりはしない。

 ただし、火を噴いて消し炭にはするのだ。

 足で踏み潰したりするのだ。

 尻尾で吹っ飛ばしたりもするのだ。

 礼二郎は慌てて、こず枝を止めようとした。

 


「待つんだ、こず枝ッ」

 


 が、()()()1()の礼二郎では、一歩間に合わなかった。

 こず枝の速さたるや、さすが学年で5本の指に入るスポーツ万能少女だった。

 噂では同じクラスの、陸上部の(自称)エースに、短距離走で勝ったらしい。

 礼二郎が捕まえる前に、こず枝が龍神の爪に飛びついた。

 


「すごいすごいすごいすごいッ。おっきいぃぃっッ。きゃぁぁぁぁぁっッ」

 


 幾万もの敵を引き裂いてきた爪である。

 成人男性よりも大きな、その爪に〝許可なく〟抱きつき、こず枝は大興奮している。

  


(マズいッ、マズいぞッ。龍神様がお怒りに……んんッ?)

 


 恐る恐ると、龍神の顔を見た礼二郎が、こず枝に伸ばした手を止めた。

 巨大ドラゴンの表情は、礼二郎が初めて見る種類のものだった。

 金色の瞳に、困惑の色が混じっているように感じた。

 その龍の爪に抱きついたまま、、顔を真上に向け、こず枝が叫んだ。

 


「アルシェさーんッ。写メ撮っていいですかぁぁぁッ?」

 


 あ、あ、あるしぇさん、と礼二郎は、顔面蒼白となった。

 


「こ、こず枝ッ。龍神様だッ。龍神様と――」


『かまわん』


「――お呼びしないかッ……へ? 〝かまわん〟?」


 途中で聞こえた龍神の言葉を、礼二郎は聞き間違えだと思った。

 だが、きゃあきゃあと飛び跳ねる女子高生を見る限り、どうも聞き間違いではなさそうだ。

 どういうことだ、と軽く混乱する礼二郎へ、こず枝が携帯を手渡した。

 


「レイッ。撮って撮ってッ」


「あ、あぁ」

 


 チェリーは、戸惑いながらも、こず枝からスマホを受け取った。

 ちらりと、龍神に目を向けると、少し身体を動かし、ポーズを取っているように見えた。

 礼二郎は、少し離れてシャッターを数回押した。

 そこへ、女子高生がダッシュで駆け寄る。

 


「見せて見せてッ。……ダメダメじゃないッ。これじゃアルシェさんって、わかんないわッ」

 


 こず枝の言うとおり、礼二郎の写した写真はダメダメだった。

 巨大な建築物に寄り添っているようにしか見えない。

 そのとき、ピコンひらめいた、と、こず枝が目を輝かせた。

 


「すみませーんッ。アルシェさーんッ。頭を下げてくれませんかーッ」

 


 こず枝が、恐怖の龍神へ向かって『頭が高いッ』と叫んだのだった。

 礼二郎は、こず枝の死亡を予感した。

 なんとかそれだけは阻止せねばと、こず枝に叫んだ。

 


「い、いかんッ。こず枝、それはいかんッ。早く謝るんだッ。いくら龍神様が、お優しくても……」

 


 ズーンッ。

 礼二郎の言葉を遮り、巨大ドラゴンが頭を地面へ降ろした。

 女子高生は、絶叫しながら、巨大な龍の頭に抱きつく。

 


「きゃぁぁぁッ。アルシェさん、ありがとーッ」



 フンスフンスッと鼻息を荒くした龍神と、決めポーズの女子高生。

 礼二郎は、状況を理解できないまま、何枚も何枚も写真を撮った。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 

 魔女がティーカップを口へ傾けた。

 自らが土魔法で作ったテーブルセットである。

 イライアは、そこへ腰掛け、優雅にお茶を楽しんでいる。

 カチャ、とカップを皿へ置くと、イライアは、真面目な顔で礼二郎を見つめた。

 


「……我が弟子よ。お主に事情があるのはわかった。じゃが、ワシ等にも選択する権利はあると思わぬか?」

 


 イライアの正面に座る礼二郎は、俯き、胸を押さえた。

 


「でも、僕のせいで父さんが……母さんが……ハァ……。だから加代が……くっ……ハァハァ」


「無理に話さずともよい。妹御が巣立つまで、ワシ等の相手ができぬと申すならば、それも受け入れよう。じゃが、お主の側にいたいというワシ等の願いを奪うでない。お主に、そんな権利はないはずじゃ。お主がワシ等と離れたいと望んでおるなら、話は別じゃがな」


「ハァハァ……僕は……みんなと一緒にいたいです……。離れたく……ありませんッ。でも、僕の都合でみんなを……」


「”でも”は、なしじゃ。今は、お主の気持ちがわかっただけで十分じゃよ。お主も少し落ち着いて考えてみるがよい。じゃがな、ロリの、シャリーの、そしてワシの想いを見くびるでないぞ? まぁセレスのやつは……言うまでもなかろう」


「師匠……」

 

「この話は終わりじゃ。――それより、我が弟子よ」


「……はい、なんでしょうか?」


「あの娘は、昔からあんなに豪胆じゃったのか?」


「た、たしかに、こず枝が怯えた姿を見たのは、今日の昼間が初めてかもしれません」


「うっ。それは、ワシとのことか……。その言葉は地味に傷つくのう」


「す、すみませんッ。そんなつもりでは……」


「わかっておる。それにしても」

 

 

 イライアが天を見上げた。

 


「えぇ、それにしても」

 

 

 礼二郎も上空へ視線を向けた。

 すごいのう、とイライアが言った。すごいですよね、と礼二郎も同意した。

 ふたりは、それからしばらくの間、無言で上方を眺めた続けた。


 

「きゃぁぁぁッ。気持ちいーッ」

 


 二人の視線が向かう先では――その大きな手に、ノリノリ絶叫女子高生を乗せた、巨大ご機嫌ドラゴンが、広大な空間を、縦横無尽に飛び回っていた。

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