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第4話 【『猫耳娘の場合』】

「お、おかしいかにゃ。ドレスにゃんか、初めてだから」


「すごく似合ってるよ、シャリー」


「似合ってるかにゃッ。にゃんだか照れるにゃッ」


「よかったら、僕と踊ってくれないか?」


「にゃッ? しょ、しょうがないにゃ。ご主人様が踊って欲しいって言うにゃら、踊ってやらんこともないにゃ」


 

 シャリーが、いつものように、おどけた声をだした。

 礼二郎の後ろから、ロリが、もう、と声を荒げる。



「シャリーったら、調子に乗らないのッ!」


  

 ロリが頬を膨らませた。

 礼二郎は真面目な顔で、シャリーを見つめる。



「あぁ、シャリー。僕は君と踊りたいんだ」


 

 礼二郎の言葉で、シャリーが軽く目を見開いた。

 立ち尽くすシャリーの手を、礼二郎は掴む。



「さあ」



 礼二郎の目を見つめたまま、シャリーが遠慮がちに一歩踏み出した。 

 礼二郎が細い腰に手を当てると、シャリーは大きく身体を震わせた。



「にゃはぁんッ」



 シャリーのドレスが、めくり上がった。

 スカートにしまっていた尻尾が、立ちあがったのだ。

 礼二郎は、慌てて、手の位置を変える。



「すまない、シャリー。尻尾の付け根は、苦手だったのか」


「苦手と言うか、その逆と言うか。――そんにゃこと、言わせにゃいで欲しいにゃッ」



 怒った口調とは裏腹に、シャリーの表情は柔らかかった。

 頬はほんのり上気し、目は潤んでいる。

 礼二郎は、こんな表情のシャリーを見たのは、初めてだった。

 目が合うと、いつも照れたようにおどけるシャリー。

 なのに、今は、ジッと真っ直ぐに、礼二郎の視線を受け止めている。

 そのギャップに、礼二郎の心臓が騒ぎ出す。

 礼二郎は笑み、動揺を悟られぬように、言った。



「踊ろう、レディー」


「……ええ」



 うっとりと、猫耳の淑女が、小さく頷いた。

 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 シャリーにとって初めてのダンスだった。

 一曲目、シャリーは、礼二郎のリードで、戸惑いながらも踊った。

 二曲目は、楽しそうに踊った。

 三曲目には、逆に礼二郎をリードするまでになった。


 そして、四曲目は、スローテンポなダンスだった。

 気づくと、シャリーが、不安そうな顔で礼二郎を見上げている。



「……にゃあ、ご主人様」


「にゃんだ、シャリー?」


「ま、真似しないでほしいにゃッ。――本当に、アチシはみんなに付いていっていいのかにゃ?」



 シャリーの言葉で、礼二郎は足を止めた。



「――なぜだ? どうしてそんなことを聞く」 


 

 礼二郎が低い声で呟くように言った。

 狼狽の色を浮かべた瞳で、おずおずとシャリーは口を開いた。



「だ、だって、アチシが一緒だと、獣人お断りの店に……」


 

 震えた声でシャリーが言うと、礼二郎は露骨に顔を(しか)め、そして叫んだ。



「バカ野郎ぉッ!!」



 とんでもなく大きな声だった。

 音楽が止まり、周囲の視線が、二人に集まる。

 周りと礼二郎の顔を見渡し、シャリーは狼狽を強くした。



「ご主人様……」


「獣人お断りの店に入れないから、お前を連れて行かないだとぉッ。僕が、そんなことを考えると思っていたのか、この、大バカ野郎がぁッ!」



 シャリーの肩を掴み、礼二郎がさらに叫んだ。

 シャリーはその言葉の、感情の意味を、即座に理解した。

 困惑と歓喜の入り混じった複雑な表情で、肩にある礼二郎の手を、シャリーは触れた。



「そんなこと思ってないにゃ。思ってにゃいけど――にゃにゃッ?」



 礼二郎が、力強くシャリーを抱き寄せ、言葉を遮られたシャリーが、目を丸くした。

 ご主人様、と呟くシャリーを抱きしめたまま、礼二郎は周りを見渡し、再度叫ぶ。



「お前を拒否する店なぞ、こっちからお断りだッ。お前を馬鹿にする奴がいたら、僕がそいつをぶん殴ってやるッ。お前を差別するやつがいたら、僕がそいつの口に、魔法をぶち込んでやるッ。いいか、わかったかぁッ!」


「わかりましたにゃッ!」



 反射的に答えたシャリーには、礼二郎の言葉が、シャリーに向け発したものではないと分かっていた。

 これは、礼二郎の怒りであった。

 いまだ残る獣人差別への、礼二郎の抗議であった。

 そして、大切な仲間を差別する連中への、宣戦布告だったのだ。

 礼二郎の逞しい胸に、涙を隠すようにシャリーが顔を埋め、強くしがみついた


 パチパチ……。

 会場の一部から、まばらな拍手が起こった。

 思った、次の瞬間――会場が沸いた。



 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!

 ワァーッ。パチパチパチッ。ワァーッ。パチパチパチッ。


 大歓声に会場が震えた。

 礼二郎にしがみついたシャリーが、耳をぺったんこにして、顔を上げた。

 会場の半数以上が、力の限り拍手を送っている。

 中には涙ぐむ人もいた。


 この歓声は、獣人を恋人に持つ者の声だ。

 獣人の友を持つ者の叫びだった。

 獣人と共に生きたいと望むものは、こんなにも大勢いるのだ。


 すごすごと会場を出て行ったのは、獣人差別主義の連中だろう。

 やがて、歓声が落ち着いた頃、シャリーの周りに人が集まった。

 


「猫族のお嬢さん、次はわたしと踊ってくださいませんか?」

「いや、ぜひわたしめとッ」



 大勢の男性が、片膝をつき、シャリーに手を伸ばした。

 シャリーは礼二郎から離れると、呆然と立ち尽くし、少し赤くなった目を、まん丸にしている。



「ご、ご主人様ぁ」



 いろいろな気持ちがごちゃ混ぜになった表情で、シャリーは、礼二郎に助けを請うた。

 礼二郎は無言で頷く。

 それを見て、ハッとし、次いでニヤリと笑ったシャリーは頷くと、腰に手を当て、高らかに宣言した。



「しょうがないにゃッ。アチシと踊りたいにゃら、踊ってやるにゃッ」



 一番最初に声をかけた男性の手を、シャリーが掴んだ。

 選に漏れた人々が、悔しそうにした。


 人間嫌いなシャリーが、礼二郎以外の――しかも男の手を取り踊っている。

 礼二郎の胸に、自分でもよく分からない感情が起こった。

 礼二郎は、楽しそうに踊るシャリーを複雑な表情で見届けると、そっと後ろへ下がった。

 すると、どこからかロリが現れ、礼二郎の手を引っ張った。



「さあ、れいじろう様」



 ロリの誘導のままに礼二郎は進んだ。

 数分歩き、別会場に着いたところで、ロリが足を止めた



「れいじろう様、次は……」



 言って、礼二郎を振り仰ぎ、ロリが手を挙げ礼二郎に示す。

 ロリが促す先には、白いドレスの女性が立っていた。

 金色に輝く髪をたたえ、俯き気味に、礼二郎を見つめている。

 礼二郎は、息を呑んだ。



「セレス……?」


  

 あまりの美しさに、礼二郎が言葉を失う。




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