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第36話 【『猫娘と、くっ殺女騎士の場合』】★

※注意:春の木漏れ日のようにポカポカとした性描写あり

 礼二郎はロリの薄い唇から、とんでもない熱量の感情が流れ込むのを感じていた。

 それと同時に (な! レベルが上がってるだと!?) ロリのステータス情報も伝わってきた。


 魔女イライアのときとは違った快感が、ロリの唇からチェリーの脳を突き抜ける。

 魔獣や人間の種別関係なく、数多(あまた)の男達をしもべにしてきた実績は、伊達ではなかった。

 一見、子供のような妖婦……そのあどけない見た目からは想像できない色香が、背徳感を刺激して男を惑わす。 

 今の礼二郎では、ロリと初めて会ったときの試練に耐えられなかっただろう。

 かといって、インチキ女神に感謝するかと言ったら、断じてそんなことはなく、それはまた別の話だ。


 やがて満足したのか、顔を離したロリが 「やっと……やっとお会いできました! お若いれいじろう様も素敵です! でも、れ、れいじろう様! その……お尻を……」 赤い顔でそう言った。


(やっと、だって? まだ別れて三日だぞ? それに……)


「お尻だって? ん? あ、あれれ?」


 小太り侯爵が言うところの最高評価であるロリの“お尻”を支える礼二郎の手が、ムニムニムニムニムニムニと、またしても主であるチェリーを忖度して、揉みしだいていた。


「す、すまん! 手が勝手に……。クソッ! と、止まらん!」


 ムニムニムニムニムニムニ……。


「れいじろう様……」


 再びチェリーの名を呼ぶロリの表情が、瞬間、変化した。


「いいんですよ?」


 ニッ……まるで傾国の美女、色香で国を滅ぼす毒婦がごとく、淫靡な笑みを浮かべたのだ。

 途端に、それまで子供らしいと思っていた露出の多い服装が、男を誘惑するために設計されたものだと思い出す。

 肌の露出が多いほど、ロリのユニークスキルは効果を増す。

 つまり、この服はロリの戦闘服なのだ。

 一月の寒空にもかかわらず平然としているのは、魔法の恩恵だろう。


(これは……()()()か? いや、()()()が出たなら、全身に”淫紋”が浮かぶはずだ。ならば、この色香はいったい……)


 ムニムニムニムニムニムニ……。


「うふふふ、れいじろう様……」 


 褐色の美少女が、クラクラするような笑みを浮かべたまま、小さく整った顔をゆっくりと―― 


()()()()()は済んでおりますゆえ……」 


 ――礼二郎の耳に近づけ―― 


「どうぞ、ジューシーなロリを……お召し上がりくださいまし……。ん……」 


 ――耳たぶを、ピチャリ、甘噛みした。


 ゾクゾクゾクゾクッ! チェリー脳に電流がほとばしった!


「ふんわぁっぁっっぁぁっ! い、いかん! 離れなさい!」「あん!」


 礼二郎がロリを、高い高いの格好で持ち上げた。


「もう! また子供扱いですか!」 


 ロリがいつものように、ほっぺたをプクッと膨らませた。


「ろ、ロリや。お、お主は他の追随を許さぬな……。さて、次じゃ《ゴル、プルテ、サイラ、イモーネ……》」


 再び現れた【亜空間(ポータル)ゲート】から 「にゃにゃ! ご主人様ぁぁぁっ! ずっと会いたかったにゃぁ!」 猫娘シャリーが飛び出し、ブチュー! チェリー賢者は生涯3度目のキッスを奪われたのだった。


 その唇からはやはり、礼二郎への熱い想いと”情報”が流れ込んできた。

 

(まただ。シャリーもまるで長い間会えなかったような言動を……。む? シャリーは、ロリのように、レベルは上がっていない……。だがこの"経験値”は……)


 猫娘シャリーのキスは、爽やかな色気に溢れていた。

 これは、甘酸っぱいだの、レモン味だのといった感想のキスなのだろう。

 打算も計算もなにもない、ただ自分の想いをまっすぐに伝える、若者らしいキスだ。

 チェリーの心に、性欲とほんわかとした温かいものが広がっていく。


「にゃにゃにゃ! ご主人様!」 数秒後、唇を離した猫娘が驚いた顔をした。


「ん? はぅ! ま、またかぁっ!」


 サワサワサワサワサワ……。


 礼二郎の両手がまたしても忖度して、猫娘の健康的でむき出しな太ももを撫でまわしていた。


「うれしいにゃ! ご主人がアチシに欲情してるにゃ! しかも、アチシと同じくらいに若返ってるにゃ! あん……太ももの内側は、だめにゃぁん……」


 ゴロゴロゴロゴロと喉を鳴らした猫娘が、しっかと両手を礼二郎の首に巻き付け、決して大きくはないが、つんと突き出た胸を、ムギューッと押しつけた。


(師匠のとは違い、これはこれでたまらん! が、悟られてはいかん!)


「ば、バカを言うな! 欲情などしていない!」


 サワサワサワサワサワ……。


 太ももを撫でながら、まるで娼館でコトが終わった後に説教をかますオヤジがごとく、説得力皆無の弁明をするチェリー賢者であった。


「シャリーの挨拶も終わったようじゃな。さて、これは最後のおまけじゃ《ゴル、プルテ、サイラ、イモーネ……》」


 魔女イライアが呪文を唱えると 「あれ? 天井に?」 礼二郎の言葉通り、天井に【亜空間(ポータル)ゲート】が現れ、そこから 「どわぁぁぁぁぁぁっ! 」 フルプレートアーマーを着込んだ女騎士セレスが、ガシャン! 「ぐえぇぇぇっ!」 ()()()()()


「あ痛たたたたっ……。イライア殿! なぜ、わたしのゲートだけ地面に作ったのか! ん? あ、主殿? 主殿か!? んな! ま、まるで少年ではないか!」


 腰をさすり立ち上がった女騎士が、驚愕の声を上げた。

 そして 「セレス!」 礼二郎が、猫娘の太ももから手を離した、そのとき!


 最強賢者を、ロリが両足に抱きつき、シャリーが後ろに回り羽交い締めにした。


「な、何をするだァーッ!」


「すみません、れいじろう様! こうでもしないと……」

「むっつりセレスが、むっつりをこじらせて挨拶できないにゃ! さぁ、今のうちにゃ! ブチューッとやるにゃ!」


「主殿、すまない! ()()()主殿に再び会えたら、その場でキスをすると、みんなで決めていたことなんだ! も、もちろん、イヤイヤじゃないぞ!」


(セレスまで! たった三日だというのに、一体どういうことだ!?)


 女騎士がゆっくりと礼二郎に近づき、ガントレットを装着した両手で、チェリーほっぺをやさしく挟むと 「やっと……ようやく会えたのだ……。わたしのあるじ……どの……」 目を閉じ、その潤った唇を……。



「なにやってるのよ!」 


 そのとき、言葉もなく呆けている人垣をかき分けて現れた人物に 「こず枝! これは違うんだ!」 美少女ふたりに固定され、今まさに美女とキスをしようとしていた最強賢者は、なにが違うのかよくわからないまま、ベッタベタで条件反射の弁明をした。


「なんじゃ、あの女子(おなご)は?」 魔女イライアが礼二郎に尋ねた。

「彼女は僕の幼馴染みで……」 ガントレットに顔を挟まれたまま答え――。

 

「わたしはレイの彼女よ! なにしてるの! さっさと離れなさい!」


 ――ようとした礼二郎の説明を、こず枝が荒げた声で遮断、補強した。


「なんと! またしても、女をこしらえておったか! まぁ()()()も離れておれば、さもありなん。じゃが、ワシ等が来たからには、()()は必要ないぞ。これ、こず枝と言ったな? 今までご苦労じゃった。もう、お主は用無しじゃ」


「へ? 7ヶ月? 師匠、7ヶ月って……」


「よ、用無しぃっ! それに、だ、代役ですって! わたしは、れっきとしたレイの彼女よ! 失礼なこと言わないで!」


「む? もしや、すでに(どう)(きん)したと申すか?」


「ど、(どう)(きん)って! その……ま、まだよ……」


「ん? お主等は交際して、どれくらい経つ?」


「い、一日……よ」


「口づけは交わしたのか?」


「……ま、まだよ」


「……もうよい。さっさと()ね。シッシッ。さぁ、むっつりセレスや。なにを呆けておる。早くそやつの唇を奪ってしまえ」


「む、むっつり言わないでほしい! コホン、では改めて……あるじど……ぶふぇぇっ!」


「あ……」「にゃにゃ!」「なんじゃと!」


 セレスが顔を押しのけられた。そして――、


「こず……むぐ!」 ブチューッ!


 ――チェリーと、かりそめの恋人が唇を合わせていた。

 礼二郎、生涯4度目のキッスの相手は幼馴染みとなった。

 

 転移前の礼二郎が、夢にまで見て、朝っぱらからこっそりと下着を洗う羽目になったほどのキスである。

 愛しい仲間達の眼前で交わされる背徳のキス――礼二郎はその背徳感、そしてクラスの男子から感じる羨望の眼差しに、とんでもない優越感と快感を味わっていた。

 

「プファーッ! どう! これでも代役かしら! だいたい、あなたみたいな()()()()がレイの彼女だなんて、そっちの方がおかしいじゃない!」


「あ……」「にゃ!」「ま、まずいぞ!」


 こず枝の発言に、ロリ、シャリー、セレスが顔を青くした。


()(わつぱ)……今……なんと申した……」


「ヒッ!」


 こず枝が短く悲鳴を上げて、硬直した。

 こず枝を射貫く魔女イライアの双眸(そうぼう)が、真っ赤に燃え上がり、メラメラと炎を上げた。

 長い黒髪がうねうねと動いたかと思うと、それは幾千の蛇の群れへと変化した。

 真っ赤な唇は頬の中央まで裂け、その奥では牙が、そして先の分かれた細く長い舌が、チロチロと顔をのぞかせている。


【炎眼の魔女イライア=ラモーテ】――姿を見たものは石になると言われる伝説の魔法使い――その、もうひとつの姿であった。


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