第35話 【『美魔女と褐色ロリ少女の場合』】★(←以降キスマークとする)
※注意:春風のように爽やかな性描写あり
(龍神様ぁ!? そ、そんなバカな!)
礼二郎はスマホの画面を見て固まった。
その視線の先――スマホ画面の中では、間違いなく顔見知りの最強龍が、飛び回っている。
「あり得ん……」
礼二郎は我知らず、呟いた。
そう……龍神がこの世界に現れるなど、あり得ないはずだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【次元迷宮】――龍神サンダルパス=アルシエラが管理する超高難易度のダンジョンである。
そのダンジョンは主である龍神の望んだ場所へ出現する、移動式の迷宮だ。
『この迷宮は、本当にすごいですね! 一度で、どれくらい移動できるんですか?』
29歳の礼二郎が、師匠である炎眼の魔女イライア=ラモーテの課した卒業試験で、【次元迷宮】を踏破した際、ダンジョン最深部で龍神サンダルパス=アルシエラに質問を投げかけると――
『どれくらい、だと!? 我が迷宮を愚弄するか! 距離なぞあって無いようなものだ! 座標さえわかれば、この世の果てでも移動してみせようぞ! そんなことより、早う! 早う、戦おうぞ!』
――今にも襲いかからんとウズウズした龍神は、そう答えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(龍神様の言葉は、本当だったわけだな……)
礼二郎は、その言葉を信じて、再び仲間達と会うための策を練ったのである。
しかし、もし龍神が時空を越えることができるとしても……それでも、龍神がここに現れたことは、礼二郎の理解を超えていた。
なぜなら、礼二郎が時空を越えた瞬間に、イライアとのリンクが切れるからである。
リンクが切れれば、当然、礼二郎の場所――この世界の座標はわからないはずだ。
(いったい、どうして……ん!?)
「きゃっ!」「うぉっ!」
礼二郎達を取り囲む女子達の後ろから、悲鳴に似た声が上がった。
「すまない! 通してくれ!」
礼二郎が群がる女子を「ちょっ! どこ触ってるのよ!」「いやん! 大萩君のエッチ!」かき分け、かき分け、声の発生場所へ移動した。
シュババババババッ!
なにもない中空に、火花が上がっていた。
「きゃぁぁっ!」「な、なんだこれ!」
周囲から悲鳴があがる中、その火花が二次元的に広がり、ちょうどドアを縁取るような形で固定されると、バチバチと音を立て続ける火花のアーチ内面に、漆黒の平面が現れた。
(これは……【亜空間ゲート】!?)
これは高レベルの移動用次元魔法で、使い手は礼二郎を含め、数名しか存在しないはず。
しかも、この魔法で移動できる先は約2000キオス以内かつ、目視できる場所、あらかじめ現地に行って出口を設定している場所、そして、設定した人物のいる場所の三点のみ……すなわち――。
そのときゲートから、ひとりの人物が現れた。
「だ、だれだ!」「ま、魔女ぉぉっ!?」「きれい……」
クラスメイトがその人物を見て、それぞれの感想を述べた。
胸元の大きく開いた真っ黒いドレスに、とんがり帽子。手には世界樹の枝でできた最高級の杖。
「イライア師匠……」
――現れたのは【炎眼の魔女イライア=ラモーテ】その人であった。
イライアは、他のクラスメイトには目もくれず、まっすぐ礼二郎を見つめたまま、無言でツカツカと歩み寄った。
その背後で【亜空間ゲート】は、その役目の完結を主張することなく静かに閉じた。
「師匠! いったいどうやっ……むぐっ!」
礼二郎の言葉は、さえぎられた。
「きゃ!」「うぉぉぉぉっ!」「いいなー……」
叫声を上げるクラスメイトの視線の中心では――チェリー最強賢者が、美しい魔女に唇を奪われていた。
カランカランカラン……。
売れば国が買える金額になる最強の杖が、公立、大久保第一高校1年2組の床で乾いた音を立てた。
礼二郎の二つ目のユニークスキルがイライアの唇から情報を読み込もうとするが、脳内に流れ込んでくるのは暗号のように意味不明な言葉の羅列であった。
さすがは最強の魔女。
そうやすやすと、おのれのステータスを他人に教えるわけはなかった。
しかし、礼二郎は感じていた。
溢れるほど大量の、そして、やけどするほど熱い想いが、柔らかな唇から礼二郎の心に流れ込んでくる。
キス、口づけ、接吻……そう呼ばれる行為について、チェリーは31年間ずっと想像してきた。
レモン味だの、たいしたことないだの、人によってバラバラな話も聞いていた。
異世界バージョンの礼二郎は、そこそこモテていた。なので女神の忌ま忌ましい呪いのせいでアレ自体はできなかったものの、キスをする機会はごまんとあった。
しかしチェリーは守った。
数多の誘惑を押しのけ、唇の貞操を守り抜いたのだ。
(初めては、最高のシチュエーションじゃなきゃイヤだ!)
まるで乙女のようなことを抜かしてきた最強賢者であったが、今日、その貞操を奪われたのだ。
しかして、その感想は……。
(最高だ。これほどか……こんなにも……)
チェリーは、これまで唇の貞操を守り抜いた自分を褒めてやりたかった。
憧れの女性と感動の再会。そして無言のキス……。
暖炉のある部屋ではないものの、それを越える最高のシチュエーションであった。
チェリーの脳は、快感でトロットロにとろけていた。
このまま死んだとしても、「僕の生涯に一片の悔いもない!」まっすぐ昇天していたことだろう。
数秒――いや、実際にはもっと長かったのかも知れない――が過ぎて、イライアはようやく唇を離した。
「はぁ……し、師匠! いったいどうやっ……むぶぁ!」
唇を名残惜しむ礼二郎の言葉は再び、さえぎられた。
「うぉぉぉぉっ!」「いいなー……」
今度は男子のみの声が上がる先では――生涯初キッス直後のチェリー最強賢者が、美しい魔女の豊満で、ほぼむき出しの胸に、顔を押しつけられていた。
「心配かけおって。勝手に姿をくらますでない。このバカ弟子が……」
(やはり間違いなく師匠だ。いったいなぜ? それに、別れてたった三日しか経っていないのに、どうしてこんなにも……。むっ! い、いかん!)
チェリーは、混乱ゆえ、そして初キッスのロマンチックな空気ゆえ鳴りを潜めていたリビドーが、主に下半身で、これでもかと暴れ狂い始めるのを感じた。
「し、師匠! ま、まずいです! 離れてください! あ……」
ポヨン――(むむっ!)――ムニムニムニムニ――「あん……」
顔を引き離そうとした礼二郎の両手がイライアの胸にポヨンと当たると、チェリーは衝動的に、無意識に、そして自動的に、むむっ! と、その胸をムニムニムニムニ揉んだのだった。
師匠である最恐魔女、イライアの胸を、である。
最後の声は、礼二郎がこの10年で初めて聞く、イライアのなまめかしい口から出た、なんとも色っぽい喘ぎであった。
「ほぅ、えらく若返っておるな、我が弟子よ。しかし、久しぶりに会ってそうそう、公衆の面前で師匠の乳を揉むとは……ん、なにごとじゃ……。まぁ、悪い気はせぬがな、ククク。……あ」
(久しぶり、だって? いったい、どういうことだ!? くっ、しかし、これはたまらん!)
ムニムニムニムニムニムニ……。
「れ、礼二郎男爵! う、うらやましい! うらやましすぎるぅぅっ!」
再会と同時に師匠の胸を揉みしだくという最低な弟子の耳に、ガリガリな友の声が聞こえた。
「す、すみません! すぐに手をのけ……あ、あれれ!」
不思議なことに、礼二郎の両手は、おのれの意思に反して――いや、礼二郎のもっとも大きな心の声に忠実かつ、あっぱれに従い――つまりは忖度した結果、ムニムニムニムニと、揉みしだくのを止めようとなかった。
(ま、まずい! 早く手を止めないと! くっ! しかし、なんて柔らかさだ!)
ムニムニムニムニムニムニ……。
「ん……まぁ揉みたいなら、好きなだけ揉むがよい。じゃが、ワシばかりにかまっておっては、他のものから恨まれるぞ? 《ゴル、プルテ、サイラ、イモーネ……》ん……。こ、これ、揉むなら、もうちょっと、やさしく揉まぬか!」
胸を揉まれたままの最強魔女が呪文を唱えると、再び、シュババババババッ! 【亜空間ゲート】が開いた。
開ききったゲートから「れいじろう様ぁぁっ!」10歳ほどの白髪褐色肌のとんがり耳美少女が飛び出し、ジャンプすると「ろ……むぶぁ!」ついにイライアの胸から手を離すことに、泣く泣く成功した礼二郎の口を、ムチューッ! その小さな唇で塞いだのだった。
「礼二郎男爵! う、うらやましい! うらやましすぎるぞぉぉぉっ!」
しっかと抱きつく褐色少女を両手で支え、生涯2度目のキスである、柔らかな薄い唇の感触を感じるチェリー賢者の耳に、小太りな友の慟哭がハッキリと届いた。
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【後書き】
『え? ノクターン?』 『ジャッジ3対2でセーフ判定!』




