第30話 【黒歴史】
『誰も見破ることのできない偽装』
礼二郎の持つ、一つ目のユニークスキル説明欄には、そう記されていた。
神をも欺けると証明されたわけだ。
そう考えると、魔王討伐後のパーティーで、礼二郎の偽装を一発で見抜いた口臭剣帝エバンスの凄さが、改めてわかる。
もっともエバンスは、偽装を見破ったのではない。
礼二郎の目の動きや、筋肉の緊張から正解を導いたのである。
神経質で、繊細で、面倒くさい性格のエバンスならではな方法である。
これほど鋭い観察眼を持っていながら、なぜ自分の口臭に気付かないのか。
礼二郎は窓の側へ移動した。
(ふむ、見られているな)
鈴木……かどうかはわからないが、今現在も監視は続いているようだ。
24時間体制で監視するつもりなのだろうか?
ご苦労なことである。
差し入れでも持って行くかと少し考えた。
だが、それは相手の顔を潰すことになるかもしれない。
なので空気の読める礼二郎は、気づかない体を通すことにした。
KYな妹とは違うのだよ。
(まぁ、そこまで厳密な監視ではないな……)
たとえば、科学の粋をふんだんに使用した透視カメラだ。
そんなもので監視されていては、【思春期な日課】もままならない。
気配からすると、どうやらその心配はなさそうである。
礼二郎は何気ない仕草で、カーテンを閉めた。
「《次元収納ッ》」
部屋の中央に立ち小さく叫ぶと、礼二郎の眼前にぽっかりと黒い穴が開いた。
同時に、立ち上がったステータスウィンドウの【リスト】表示をタッチする。
ブーン。
新しいウィンドウが立ち上がる。
礼二郎は、そこに書かれた文字をひとつひとつ確認していった。
「今【装備設定】している【神速の鎧】は、使えないな。かといって【炎帝シリーズ】も、【氷魔シリーズ】も、【風の精霊シリーズ】も。どれもこれも、効果が激しすぎる。くっ、神器とは、なんとやっかいな代物なんだ……ん?」
そのとき、ひとつの項目が、礼二郎の目に止まった。
「これか。たしかに、こいつなら。いや、しかし……」
礼二郎は、腕を組んで眉根を寄せた。
最後にコレを装備したのは27歳――今から4年前だった。
それまでことあるごとに、ノリノリで装備していた。
礼二郎、一番のお気に入り装備だった。
だが、27才のある日突然、急に、唐突に、そして猛烈に、装備している自分が恥ずかしくなったのだ。
「27才――セレスに出会う前か。見られなくてよかった。子供受けは、よかったのだが」
礼二郎が黒歴史装備名をタッチした。
小さなウィンドウが立ち上がる。
【≪次元装着装備≫に設定しますか? YES・NO】
ピッ……。【YES】部分をタッチする。
するとメインウィンドウ、人型各部位の名前が更新された。
そこに記された文字は――
【OH・バトルスーツ】
なんとも中二病心をくすぐる名前であった。
「……《次元装着》」
少し恥ずかしそうな礼二郎の声。
空中の黒い穴から光が飛び出し、礼二郎の全身を覆う。
3秒ほどで光は収まり、そこに現れたのは……。
礼二郎はおっかなびっくり、鏡の前に移動して、全身を眺める。
「あれ?」
礼二郎は意外そうな声を上げた。
「なんだ? 僕が若返ったからなのか?」
いろいろな角度から、鏡に映った自分を見る。
グッ。戦闘ポーズをとってみた。
「い、いかんッ。かっこいいぞ」
まんざらでもない声を上げた礼二郎は――まるで日曜日の朝に放送されるヒーローのような姿をしていた。
【OH・バトルスーツ】
礼二郎が死ぬ思いで採取した【オリハリコン・インゴット】と【ミスリル鉱】をふんだんに使い、イライアの古い友人である、伝説のドワーフ鍛冶職人タルガルマが、半年の歳月を費やしノリノリで作り上げた、多機能かつ高性能な礼二郎オリジナル防具である。
デザインは、ほぼ礼二郎の要望通りだ。
なので、鍛冶職人タルガルマに文句を言うことはできない。
『……なんじゃ、それは?』
初めて装備した礼二郎を見た、魔女イライアの第一声である。
男受けは最高なのだが、今のところ、この装備に賞賛してくれた女性は『その鎧を見てると、ウズウズして追いかけたくなるにゃッ』と、お尻をフリフリした猫耳娘シャリーのみ。
褐色少女ロリは、この姿の礼二郎を見て、『なんだか虫みたいで。す、すみませんッ。失礼なことをッ』 あからさまに引いていた。
本当は頭部に触角らしき物をつけたかったのだが、意味が無いし、面倒くさいというドワーフの二声で中止となった。
中止して正解である。
もしつけていたら、ロリの好感度は、さらに下がっていたことだろう。
グッ。「いいなッ」
グッ。「この角度もなかなか」
グッ。「切れてるッ。切れてるッ」
まるでボディービルダーのように、鏡の前でポーズを決めていく礼二郎の耳に、突然――
コンコン。「レイ、入っていい?」
――ノックの音と、菊水こず枝の声が聞こえたッ
(ま、まずいッ。夢中になりすぎて警戒を怠っていたかッ)
そして、チェリーヒーローはヘルメットの中から焦り声で――
「ダメだッ。今、入っちゃいかんッ」
――思春期あるあるなセリフを叫んだのだった。




