表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/142

第23話 【最強賢者、爪隠せず!?】

 顔面に刑事の拳が迫っている。

 

 振り返る前から、わかりきっていた。

 こんなむき出しの敵意を放つ攻撃なんて、気付いてくれと言っているようなものだ。

 それにしても。


(どうして僕が殴られなきゃいかんのだ。刑事さんの気に障ることを言ってしまったのか? まさか、顔がむかつくなんて理由じゃあるまいな? 昨日、兄に殴られた傷がまだ残ってるのに、さらに殴られるのか。別に構わんが、口の傷が増えて、せっかくの食事を楽しめなくなるのは困りものだ。だがうかつに治療して、魔法がバレるのもマズい。かといってこのタイミングで避けるのは。 普通の高校生ならどうする? 刑事に殴られそうになったらどう対処するのだ? まぁ刑事に殴られる時点で普通ではないのだがな。む、敵意が消えたぞ。拳の速度も落ちているな。なんだこれは脅しなのか。そりゃそうか。なにせ僕はなにも悪いことをしてないんだ。ただの脅しなら、別に避けなくても。いやいや、ダメだろッ。『フッ、止まるのがわかっている拳を避ける必要はあるまい』ってどんな達人だッ。ん? そうか、刑事さんはそれを試しているのだ。つまり僕は体力測定で、アホな数値をたたき出してしまったのだろう。はぁ。せめて明日になっていたら()()()()調()()()()()()()のに、ついてないな。これ以上、非常識な力をお披露目するわけにはいかん。つまり、この状況で僕が取るべき行動は……)


「ひぃぃッ」 礼二郎は悲鳴を上げ、尻餅をついた。


(フッ、完璧)


 予想通り、刑事の拳は礼二郎の顔があった場所の直前で止まった。

 年配の刑事田中弘志は、拳を突き出したまま目を見開いて、礼二郎を見下ろしている。


(ぬ? なんだ、あの驚いた目は? もしや、またミスを? くっッ。尻餅はさすがにやり過ぎだったか。いや、まだだ。まだリカバリー可能だ)


「な、なんですかッ。どうして殴るんですかッ」

 礼二郎は怯えたオカマちゃんのような声を上げた。

 自己採点は、100点の演技だ。


「田中さんッ」 若い刑事の鈴木和夫が声を上げた。


「っと、すまんすまん。大萩くんの体力測定結果がよかったから、てっきり武道経験者かと思ってな。わたしも武道をたしなむので血が騒いだんだ。ハハハ、いやぁ、まったくもって面目ないッ」

 年配刑事の田中は、()()()礼二郎の手を取り引き起こした。


「なんだ、びっくりしましたッ。体力測定の結果よかったですかッ。うれしいなッ。筋トレをがんばった甲斐がありましたよッ。ナハハッ」

 

 礼二郎は100点の演技を続行した。

 もちろん自己採点である。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「送っていただいて感謝します。では失礼」

 大萩礼二郎という少年は車を降りると、足早に去って行った。

 


「田中さん、なぜあの少年を殴ろうと?」

 運転席に座る20代の刑事・鈴木和夫が、少年の後ろ姿を見ながら言った。


「あの子の体力測定結果だ。見てみろ」

 助手席の年配刑事・田中弘志が、手提げバッグから書類を取り出した。


 鈴木はそれを受け取り、鋭い目つきで読んだ。

「――とくに変わった点はないかと。まぁ高校生にしては体力があると思いますが」


「はぁ、お前もまだまだだな。そろそろ子供が生まれるんだろ。早く一人前にならんと、子供に示しが付かんぞ。体力測定の一周目と三周目の結果を比べてみろ」


「予定日は来月です。今から楽しみで楽しみで――ハッ、すみません。引き続きご指導お願いします」若い刑事が頭を下げ、改めて書類に目を通す。「――何度見ても、やはり少し体力のある高校生としか。なにが問題なんですか?」


「結果がほぼ同じなんだよ」


「へ? それはどういう」


「まだ、わからんのか。普通あれだけの検査をすれば、回を重ねるごとに結果は落ちていくんだ。なのにあの子は、ほぼ同じ結果を出し続けてるんだ。中には数値が上がった項目まである」


「あ、本当だッ。つまり、あの少年は意図してこの結果を?」


「そうだ。理由はわからんが、本気を出してないのは明白だな。それにあの身体だ。実践で鍛え上げたような、無駄のない理想的な筋肉。まるで野生のチーターだな。筋トレでついたとはとても思えん。なのに手には拳タコひとつ無いときた。まったく、意味がわからんよ」


「田中さんが殴りかかったときは、むしろ気弱な高校生といった反応でしたが」


「俺の声で振り返ったあの子は、拳をジッと見つめてたんだ。俺が途中で殺気を止めた瞬間――あの子は、それを確認した上で尻餅をついたように感じたな。俺は恐ろしいよ。柔道六段の俺が、不意打ちでも勝てる気がせん」


「田中さんがそこまで言うなんて。もしや、どこかの組織のエージェント?」


「経歴を見る限り、それはない。早くに両親を亡くしてる点以外は、普通の高校生と変わらん。ただし本物の大萩礼二郎ならな。あれが本人とは限らんのだ」


「家族が――あの子の妹が、礼二郎本人と認めてるんですよ? それに二、三日中には歯牙鑑定の照会結果が出ますので、偽物ならそれで……」


「……これは俺のカンだよ。証拠があるわけじゃない」


「田中さんのカンは当たるからなぁ。どうします? ”要観”扱いに?」


「”準要観”だな。期間は、結果次第だ」


「わかりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
少しでも気になった方は、一度作品の評価をしてくれると、うれしいです、うれしいです、うれしいです!(☆☆☆☆☆をタップするだけです)

★★★★★で、応援していただけるとすごく励みになります!


ブクマもうれしいです! 超うれしいです!
気に入らなくなったら、遠慮なく評価を取り消して構いません(※同じ場所をタップすれば簡単に取り消せます)
script?guid=on<
『転生したら悪魔ハーレムでした!?~愛弟子に毒殺された錬成術師は魔人となり7人の美女悪魔を仲魔にして王族に転生する』
こちらもブクマ&評価で応援いただけると大変励みになります。
 小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ