第19話 【賢者TIME】
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礼二郎は、二階自室のベッドに腰掛けた。
眼前に広がるのは、これまた15年ぶりの光景である。
一階では幼なじみのこず枝と、妹の加代が食事の準備をしている。
大萩家の夕食は、大体いつもこの時間だ。
兄の源太が帰宅して全員で食事を摂る。
それがいつの間にかルーチン化して、今に至っている。
大萩家は、兄の源太を中心に廻っているのだ。
食事の準備には、もう少しかかるらしい。
アポなしで異世界から帰ってきた礼二郎のせいである。
礼二郎は申し訳ない気持ちになりつつも、懐かしい部屋を見渡した。
部屋は綺麗に片付いている。
15年(実際には1ヶ月だが)もの間、主がいなかったとは思えないほどだ。
「加代、なわけないな。こず枝が掃除してくれていたのか。ん? 掃除? はうぁッ」
イヤな記憶がよみがえり、血の気が引いていく。
「ま、まさかッ」
急いでベッドの下を覗き込む。
――ガクッ。礼二郎は、膝から崩れ落ちた。
「なんて、ことだ」
ベッドの下では、大量の雑誌が綺麗に整理されていたのだった。
【礼二郎・思春期ベスト・セレクション】(※つまりエロ本)である。
「くッ。ま、まぁ、これくらい男なら仕方あるまい。こず枝もわかってくれるはずだッ」
礼二郎は、多少強引に気持ちを切り替えた。
他に考えなければならないことがあるからだ。
――それは……異世界のことだった。
(まさか、時間を巻き戻すとはな)
礼二郎は女神に託した手紙に、ある仕掛けをしておいた。
それがうまく作動すれば、仲間達に再び会えるかもしれなかった。だが。
(時間軸が違うのなら、無理な話だ)
まさか、時間の逆行ができるとは思っていなかった。
性根が腐っていても、さすがは女神というところか。
あの気の合う仲間達とは、もう二度と会えないのだ。
いや、15年後にまた時間軸が重なれば、可能性はある……か。
それに、15年後なら大丈夫だっただろうが、もし今、仲間達が異世界から来たとしても、礼二郎には、それを受け入れる資格がないのだ。
兄の源太も、決してそれを許さないだろう。
(会えるとしても15年後か。そんな先のことを考えても仕方あるまい。ハァ)
懐かしい仲間達の顔を思い浮かべ、ため息をついた。
(どうせなら、転移した時間に戻してくれればよかったのだが……。いや、あまりギリギリを狙うと、タイム・パラドックスの危険があるか……)
【タイム・パラドックス】――宇宙崩壊を招く、時間操作によって生じる、壊滅的な矛盾、だっただろうか。
同時に、二人の自分が存在することはまさにそれだろう。
(むしろ、1ヶ月で済んで喜ぶべきだな。高校の出席日数もまだ問題あるまい)
間に冬休みを挟んだのが、不幸中の幸いだった。
(冬休みか。フッ、長い休みだったな。師匠、ロリ、シャリー、そして、セレス。みんな元気で。ついでに、エバンスさんも)
礼二郎は仲間達の健康と幸せを、そして特定人物の口内健康を心から祈った。
(それにしても)
礼二郎は、先ほどこず枝から抱きつかれたことを思い出した。
(あれは、シャンプーの匂いなのか?)
こず枝からは、柑橘系の爽やかな匂いがしていた。
ふと、上着に鼻を近づけると、微かに匂いが残っている。
「……」
礼二郎はベッドに腰掛けたまま腕組みし、眉間に皺を寄せ目を閉じた。
――数十秒の後。
カッと目を見開き立ち上がった礼二郎は、膝をつき、ベッドの下へ手を伸ばした。
ズルズルと結構な量の雑誌を引っ張り出す。
礼二郎の大事な大事なコレクションだ。
思った以上にキチンと整理されていたことはゆゆしき事態だ。
だが、今の礼二郎にはそれすらもテンションを上げる要因足り得る。
「ふむ」
礼二郎は真剣な表情で、上から順番にコレクションの確認をしていった。
これは不純な行為ではない。
コレクションのチェックは、コレクターの嗜みなのだ。
ペラッ。絨毯に腰を下ろし、ページをめくる。
「むッ。この女性は、師匠に似ているではないかッ。尊敬する師匠にこんな格好をさせるとは、けしからんッ」
礼二郎はそのページを開いたまま、ベッドに置いた。
そして、次のコレクションをチェックする。
ペラッペラッ。ページをめくる
「むむッ。この子はロリに似てるなッ。ま、丸見えではないかッ。けしからんッ」
そのページを開いたままベッドに置いて、次のコレクションをチェック。
ペラッペラッ。ページをめくる
「むむむッ。この子に猫耳をつけたら、シャリーそっくりではないかッ。けしからんッ」
そのページを開いたままベッドに置いて、次のコレクション。
ペラッペラッ。ページをめくる
「むむむむッ。このお姉さんが金髪になって鎧を着たら、まるでセレスではないかッ。けしからんッ。まったくもってけしからんぞぉッ」
そのページを開いたままベッドに置いた。
屹立している礼二郎がおもむろに立ち上がる。
腕を組んで眼前を見下ろした。
厳選された四つのコレクションだ。
その宝物が礼二郎を中心に、キチンと扇状に並んでいる。
壮観である。
最愛の仲間達を連想させる美女の面々。
しかも、ほぼ肌色な感じで礼二郎に微笑みかけている。
「――けしからん。が、仕方あるまいッ」
言うと、ニヤけた礼二郎が、おもむろにズボンへ手を掛けた。
カチャカチャ。ジーッ。
――★【 IT’S賢者TIMEッ】★――