第14話 【魔女と龍と、さっぱりなむっつり】 ~第1章、完~
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「粗茶でごじゃります」
女騎士セレスが、若干噛みつつも龍神にお茶を差し出した。
なぜわたしが、と思いつつ給仕をしている。
無関係な者が不用意に近づくと、龍神の機嫌を損ねるので仕方が無い。
その旨をセレスが説明すると、エドワーズという宰相は「それなら仕方あるまいッ」とニコニコ顔で走り去った。
なのでここは、魔女イライアにあてがわれた豪奢な部屋である。
褐色少女ロリと猫娘シャリーは部屋の隅で抱き合い、ガタガタと震えている。
「粗末なものを我に献上すると申すかッ」
「ひぃッ」
「これッ。むっつり娘を脅すでない。して、ワシになに用じゃ?」
「フワーハッハッハッハーッ。むっつり娘よ、冗談じゃ冗談じゃッ。用というのはこれじゃ」
龍神が右手を空中に突っ込んだ。
むっつり娘の目には、龍神の手が手首から先が消えたように見える。
空間魔法だ。しかも無詠唱である。
礼二郎も得意とする魔法だ。
もっとも、礼二郎は短縮ながら詠唱しているのだが。
そして龍神が右手を空間から出すと、そこには1枚の紙。
「これは」魔女イライアがそれを受け取り、サッと目を通した。
「――我が友アルシェよ。これを受け取ったのはいつ頃じゃ?」
「昨晩、日付が変わった頃だろう。女神の奴が突然現れて『郵便でーす』と抜かし、この手紙を置いていきおったッ」
「女神ファシェルが、じゃと? 12時間ほど前か――。我が弟子礼二郎が消えた時間と合致しておる。手紙の内容は――この城に、ワシ等が滞在していること、そして我が友、アルシェ――お主に対する謝罪じゃな。なんと、お主達、戦う約束をしておったのか」
「応ともよッ。決闘ができぬようになったと謝罪しておるッ。しかも腹立たしいことに『やれば僕が勝っていたのに、残念です』と抜かしておる。それを見てますます戦いたくなったわッ。あの女神め、我の楽しみを奪いおってッ」
「それはおかしかろう。あやつはそんな安い挑発をするような奴ではない」
「そんなことはどうでもいいわい。それより、その手紙にはなにやら仕掛けがあるぞ。女神の奴は気付いておらんみたいだがな」
「仕掛けじゃと? うん、たしかに微かな魔力を感じる。お主よく気がついたな」
「フフン、龍神の名は伊達ではないぞッ。それに最後の『我が師匠・謎解きの達人イライア=ラモーテによろしくお伝えください』とは、そなたにこの仕掛けを解いてもらえという暗号であろう」
「この仕掛けは、我が弟子の《スキル》じゃろう。詳しいことはわからん。あやつ、このワシにも秘密にしておるのじゃ。じゃがたしか、24時間で効果が切れると言っておったような……」
「つまり、ここへ来ずとも仕掛けは作動したと申すかッ。なんと、我は一杯食わされたわけかッ。あの小僧、女神ばかりか、我をもたばかりおったッ。まんまと伝言役を請け負ってしまったわいッ」
「そう言うことじゃな。あやつの目的は、お主に詫びること。そしてこの手紙を届けさせること。他にもなにかありそうじゃが」
「なぜ、最初からお主に手紙を届けん? その上で、そなたに決闘中止の連絡をさせればよかろう」
「ふむ、その場合、ワシひとりでお主のダンジョンへ出向くことになるじゃろうな。つまり――なるほど、そう言うことかッ。ククク、我が弟子ながらやりおるわい。賢者の名は伊達では無いわけじゃ」
「ほう、そう言うことか。我がここへ来ることで――フワーハッハッハッハーッッ。我が盟友イライアよッ。そなたの弟子はなかなかの策士であるなッ。面白いッ。この龍神サンダルパス=アルシェラ、まんまと策略に乗ってやろうぞッ」
「まぁ待つのじゃ。それはあくまでワシ等の予想じゃ。決めるのは実際にこの手紙の仕掛けが作動してからでも遅くはあるまい」
「それもそうであるなッ。仕掛けの作動する時間は、12時間後であるか。おい、むっつりよッ」
「ひゃいぃッ」
「我はそれまで眠るとするッ。仕掛けが作動したら起こすがいいッ。頼んだぞ、むっつりよッ」
「わかりましたッ」
いつの間にか”むっつり娘”から”むっつり”に呼び名が変わっていた。
セレスはそのことについてひとこと言いたかったが、怖いので当然言わなかった。
どうにかして”むっつり”が定着するのを防がねばッ。
むっつり鎧娘はそう決意した。
だが具体的な方法はさっぱりである。
ちなみに、先ほどの話の内容もさっぱりなむっつりであった。