第136話 『イセカイダー罠にハマる』(※補足資料あり)
『あら、あの子からメールが来てるわ』
「またあいつか……」
『そう。大橋チエちゃん』
礼二郎はため息をこぼした。
大橋チエからは、もう何度もメールが届いている。
いい加減うんざりだ。
内容は、
『あなた、何者なんですか!』
『どうして、あなたの起こす超常現象を、みんな驚かないんですか!』
『一度会ってお話しをさせてください!』
ってな感じだ。
それが、かれこれ100通以上。
「しかし、どうして〝認識阻害〟が効かないんだろうな?」
『たまにいるのよ。精神系の魔法に、異常なほど耐性のある子が』
「しかし、腐っても女神の呪いだぞ?」
ゴワン(※タライが頭に当たる音)
『女神様を腐ってるだなんて、よく言えたわね。少し熟成してるだけよ。――おそらく、その子の精神が神のレベルで確立されているの。だから外部からの影響にびくともしないんだわ』
「神レベルってマジか。すげぇ女の子だな」
『熱狂的なファンも多いみたいね』
「ふむ? チャンネル登録者数12万か……」
『まさか会ってコラボっちゃおうなんて思ってないでしょうね?』
「コラボするかは別にして、一度くらい会ってみてもいいんじゃないか?」
『ダメよ。この子の芸風は〝暴露系〟なのよ? もし君の変身を解くところなんか隠し撮りされたらどうするのよ?』
サナダの心配は、もっともだった。
礼二郎は、気をつけていることが二つある。
1、素の礼二郎状態で、物を動かしたり、壊したりしないこと。
2、変身するところや、変身を解くところを、人に見られないこと。
もしそれらを破ると、ペナルティが課せられる。
礼二郎の目的である〝礼二郎を再び世界に認識されるようにする〟って奇跡に必要なポイントが、増えていくのだ。
実際に、変身を解くところを10人の人に見られたことがある。
すると即座にその人たちの記憶が改変された。
そして、上記の必要奇跡ポイントが増えた。
なんと30もだ。
30kp。
これは、迷子救助30人分に相当する。
Youtabeの登録者数に換算すると、なんと1000人分だ。
つまり、変身シーンを人に見られるたびに、礼二郎の社会復帰が遠のくのだ。
ついでにイライアの引きこもりも継続してしまう、
もしテレビやyoutabeで変身シーンや、解くシーンが放送されたら、どえらいことになる。
なので基本的に礼二郎がまったりするのは、今いる廃工場のような人が皆無な場所となる。
「暴露系か。確かに、それはマズイな」
『触らぬ神に祟りなしってことよ』
「僕はクソな女神に触ってないのに祟られたがな」
ゴイン(※タライが頭に当たった音)
『あと他に依頼メールは……あ、いいのがあったわ。脱走した猫ちゃんの捜索願いよ』
「ふむ。依頼者は?」
『小学校3年の女の子』
「子供と動物――ビンゴだな」
『やっちゃう?』
「是非も無い。――《次元装着》! 行くぞ、サナダ虫!」
『ぶっ殺すわよ、チェリーボーイ?』
∮
「ようやく会えたわね。イセカイダーさん」
待ち合わせ場所に現れたのは、小学生女児ではなかった。
成人した女性だったのだ。
年の頃は、20代後半……いや、30代前半か。
眼鏡の奥にある鋭い眼光は、意志の強さを表していた。
短い髪のその女性を、礼二郎は見たことがあった。
youtabeの動画でだ。
「まさか、君は……」
「初めまして。私は大橋チエ。よくも今までメールを無視してくださったわね。さて、聞きたいことが山ほどあるんだけど、答えてもらえるかしら?」
『ダメよ! きっと隠し撮りや盗聴されてるわ! ノーコメントよ! 何も話しちゃダメ! どうしてもっていうなら、弁護士かマネージャーのあたしを通して頂戴!』
携帯神器のサナダが、礼二郎の顔の前で叫んだ。
「驚いた。まさか携帯電話が、自分の意思を持ってるだなんて……」
「おい、サナダ。お前のせいで、状況が悪化したぞ?」
『ふ、不可抗力よ!』
「ふ〜ん。あなた、サナダさんっていうんだ」
『きゃぁぁ! 君のせいで、最低な名前が秒でバレちゃったじゃない! バッカじゃないの! このクソチェリー!』
「チェリー? あら、もしかしてイセカイダーさんは、女性経験がないのかしら? これは大スクープだわね」
「うぉぉぉい! くおのぉ、クソ携帯が! お前のせいで、僕の超重要機密が秒でバレたじゃねぇかぁぁっ!」
最悪だ。
このことが配信されたら、僕のイメージが……。
って、僕のイメージってどうなだっけ?
当然の結果として、礼二郎とサナダは、低レベルな罵り合いとなった。
それをワクワク顔の大橋チエが見つめている。
そして数分後。
「ともかくだ!」チェリーが言った。
『そう、ともかくよ!』携帯が言った。
『「君に話すことは何もない!」』二人がハモった。
そして飛び立とうとする礼二郎に、大橋チエが抱きついた。
「待って! 行かないで!」
すでに礼二郎の足は宙に浮いている。
「うぉい! 危ないぞ! 死にたくなかったら手を離せ!」
「イヤよ! 死んでも離さないわ!」
『行かないで』
『死んでも離さない』
共に、女の子から言われたいベスト10に入るセリフである。
だからと言って、言う通りにするわけにもいかない。
この娘は危険すぎる。
礼二郎は、腰に巻き付いた手を解こうとする。
細い腕なのに、意外なほど力強い。
無理やり引き剥がしたら、骨が折れてしまいそうだ。
すると大橋チエはこんなことを言い出した。
「取引よ! 取引をしましょう!」
「却下だ! さっさと離しなさい!」
「聞いて! あなた達、チャンネル登録者を増やしたいんでしょ!」
ピタリ。
礼二郎の動きが止まった。
「でも、思ったよりも増えなくて困ってる!――違う!?」
『……あなたなら、増やせるっていうの?』
サナダが口を挟んだ。
「ええ、そうよ。増やせるわ」
「……僕たちは登録者数100万人を目指してるんだが」
地に足をつけた礼次郎に、大橋チエは自信満々に言い放った。
「十分可能だわ。私が協力すればね。協力しないなら、さっきの秘密を暴露することになるわよ? さぁどうするの、イセカイダーさん、サナダちゃん?」
『いいわ。詳しい話を聞かせてもらえる? チエちゃん?』
「うぉい! なに勝手に決めてるんだよ!」
『断ると君のピュアなところがバラされるわよ?』
「話を聞かせてもらおうか、チエさん」
(後書き)
本文には書いていない設定の補足をば
・今回の話の日付は、4月17日 です。
※礼二郎が世界から消えたのは3月11日
※こず枝の〇〇事件は4月1日
・礼二郎の目的と必要奇跡ポイント
【大萩加代の傷害の根本治療】:20591kp
『大萩礼二郎を再び世界の認識に加える』:15748kp(4/17時点)
『加代を幸せにする』:20000kp(※ただし条件あり)
『魔女イライアの不妊の呪いを解く』:5000kp
礼二郎は、妹である加代ちゃんの治療をまずは優先しています。
次に自分の社会復帰です。
なので
Youtabeの登録者数100万人を達成すると、ボーナスとして3万kp
さらに通常獲得として1万はあるだろうと見越して、合計4万kp
という狸の皮算用をしています。
(さらに補足)
※女神からのお情け条件(本文にはまだ書かれていない)
1 女神ファシェルの信者を増やすと一人につき1kp(※女神のhpで入信の手続きが可能) しかし、4/17時点で信者は7人
2 礼二郎がyoutabeチャンネルを作り、チャンネル登録者数100人につき3kpを贈呈
どうも礼二郎くんが、女神に文句を言った結果こうなったようです。
ちなみに、現時点でのチャンネル登録者数は489人です。
そうですね。ダメダメですね。
以上、知ってると、ふーんってなる裏設定でした。
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