第13話 【龍神サンダルパス=アルシェラ】
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唐突な龍神の来訪に、宮廷内は箱をひっくり返したような大騒ぎとなった。
「剣帝エバンスはどうしたッ?」
「ハッ。王よ、恐れながら申し上げます。部屋に残された書き置きによりますと、剣帝エバンスは昨夜よい感じになったご婦人が既婚者であるとわかり、山へこもってしまわれたようです」
「くっ、また山にッ。なんとメンタルの弱い男だッ。仕方ない。エドワーズ宰相ッ。隠れてないで出てまいれッ」
「ハハッ。エドワーズはここに」
「ここに、ではないわッ。さっさとその平民服を着替えて、龍神様をもてなしてまいれッ」
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「龍神サンダルパス=アルシェラ様ッ。わ、我が国に、なにかご用だろうかッ?」
中庭では、巨大な金色のドラゴンが腰を下ろし、目の前で必死に話しかける男性を見つめていた。
男はこの国の宰相である。
言葉ひとつ間違えれば、この国は一瞬で消滅するのだ。
その重圧は、計り知れないものがあろう。
「…………」
龍神は、なにも言わない。男は額に汗が浮かぶのを感じた。
「龍神サンダルパス=アルシェラ様ッ。も、もしかして、西の採掘場の件でお怒りならば、即刻作業を中断して……」
「アルシェッ」
そのとき、中庭に現れた黒いドレスの女性が叫んだ。
その後ろでは、二人の少女と一人の女性がガタガタと震えている。
「あ、アルシェ? 偉大なる龍神様に対し、なんたる口のきき方を」
【イライア=ラモーテェェェェッ!】
突然、ドラゴンが咆吼を上げた。
ゴォーッッッ。
その瞬間、衝撃波のような突風が周囲を吹き飛ばした。
「いひぃぃぃぃっッ」
先ほどの男性も派手に吹っ飛んだ。
「その姿で叫ぶでないッ。城を壊すつもりかッ」
ひとり平然と立つ女性がドラゴンに向け叫んだ。
すると、巨大なドラゴンが、光へと変化し、その光がシュルシュルと縮んでいく。
やがて3メートルほどの大きさになったかと思うと、光の中に人型が現れた。
光がその人物に収束し、現れたのは――巨大な女性だった。
金色の光り輝く長髪、黒目に、は虫類を思わせる金の瞳、そして、その額には、エメラルド色の美しい宝石がはめ込まれている。
「炎眼の魔女、イライア=ラモーテッ」
巨大な女性が、黒いドレスの女性の前に立ち、睨み付ける。
「龍神サンダラパス=アルシェラ」
黒いドレスの女性も物怖じすることなく睨み返している。
そして長く、重苦しい沈黙が流れた。
先ほどの衝撃で吹っ飛んだ三人の娘が、黒いドレスの女性――イライアを盾にするように後ろへ立った。
「イライア様ぁ」「こ、こ、怖いにゃ」「シャリーッ。お、押すなッ。押さないでくれッ」
三人とも、相変わらずガクガクと震えている。
長い沈黙の後、「フッ」――巨大な女性の口から空気が漏れた、そして。
「フワーハッハッハッハーッッ。我が盟友イライアよッ。息災であったかッ」
膝を突き、イライアに抱きついた。
「我が友アルシェよ。そなたも元気にしておったか」
イライアが巨大な頭に腕をまわし、抱きしめた。
「もう少し小さくなれんのか。このままじゃと建物に入れんぞ」
「むッ。人型は久しぶりでな。ちょっと待っておれ」
すると龍神が再び光に包まれ――2メートルほどの大きさに縮まった。
「まだ少し大きいが、これなら大丈夫じゃろう。して、この国になに用なのじゃ」
「こんなちんけな国に、用なぞあるものかッ。用があるのは我が盟友イライアにだッ」
「ん? ワシにか?」
「あ、あのーイライア殿……」
そのとき、イライアを盾にしていた鎧姿の娘が口を開いた。
「立ち話もなんですし、中に入っていただいてはいかがかと……」
「なんだ、貴様はッ」
龍神がギンと睨み付けた。
「いひぃっッ」
鎧娘が、イライアの後ろに引っ込んだ。
「これッ。こやつは、我が弟子の仲間じゃ。そう凄むでない。むっつりじゃが、悪い奴ではないのじゃ」
「むっつりぃッ? あ、あのイライア殿、その呼び方は……」
「む、礼二郎の。そうかッ。では、むっつり娘よ、部屋へ案内するがよい」
「ひゃ、ひゃいッ」