第117話 『イライアは痛いや』
「くっ……」
『あら、効いてる効いてる。もう一押しね。ほらほら、自分に正直になりなさい。心を解き放つのよ。それに、アタシってば、めっちゃ役に立つわよ?』
「確かに役に立つな。会話のできる九官鳥程度には」
『うふふ、言ってくれるわね、さて、九官鳥にこんなことができるかしら?』
再び液晶画面が切り替わった。
メッセージソフト〝RINE〟が起動している。
そこには、5分前に届いていた新着のメッセージがあった。
『礼二郎ちゃん、そこにいるの。(/ _ ; )?
届いたら、お返事、ちょうだいネ。^_^』
それは、なんとも痛々しい文章であった。
「これは……〝おじさん構文〟か!」
※おじさん構文とは、自称イケてるおじさんが使いがちな、痛いメール文章のことを指す。
普段使わない口調や、普段呼ばない相手をちゃん付けで呼んだり、過剰な読点と顔文字が特徴である。
おじさん構文……噂には聞いていた。
だが実際に受け取るのは初めてだった。
若者に媚びる感じが、見るものをモヤっとさせる。
激痛内容はさておき、驚いたのは送り主名だった。
そこに表示された文字は、
〝至高の美人魔導士イライア=ラモーテ〟
マジか。いろんな意味で。
礼二郎の師匠である最強の魔女は、ネットリテラシーなど全無視である。
個人情報漏洩の恐ろしさを知らないのだろうか。
「これは……イタイヤ、じゃなくて、イライア師匠?」
イライアは確かに携帯を持っていた。
しかし、使い方がよくわからんと、この世界の最先端技術を拒絶していたはずだ。
周りがあまり勧めると機嫌が悪くなるので、無理強いはしなかったが。
『そうよ。君の大好きな魔法使いの爆乳おば……コホン、お姉さんよ! 必死にメールの打ち方を勉強したみたいね。でもお手本が悪かったのかしら。いったい何を参考にしたのやら。それとも年齢が関係しているのかしら?』
そういえば、イライアは以前警視総監を虜にして、礼二郎への警察の尾行を止めてもらったことがあった。
まさかそいつか。
そいつがイライアにメールを送った犯人か。
にしても、警視総監なのに犯人とはこれいかに。
痛いメッセージは、そのおっさんのイライア好き好きメールを参考にしたのかもしれない。
もしそうなら、イライアのアドレスは違法に入手したものだろう。
警視総監のおっさんめ、職権濫用が過ぎるな。
「もしかしてメッセージを送れるのか!? こちらからも!?」
『送れるわよ? すごいでしょ? まぁ君達2人の魔術印の力を利用してるから、アタシ一人の力って訳じゃないんだけどね。例えるなら魔術印wi-fiを利用した魔力ネット通信よ。どう、見直した? 褒めてくれてもいいのよ?』
ふよふよ浮かぶおしゃべり携帯を問答無用で引っ掴む。
礼二郎は爆速でメッセージを作成、返信した。
『メッセ、ありがとうございます。ワーイワーイ(^ ^)
イライアちゃんの、おかげで、僕は、元気ですヨ。(o^^o)
でも、みんなには、僕が見えていないみたいで、悲しいヨウ。エーンエーン( ; ; )』
イタタタタ。
痛い。
我ながら痛過ぎる文章だった。
今まで培った自我が崩壊してしまいそうだ。
だが、イライアの痛さを緩和するためには、仕方のない処置だった。
師匠にだけ恥をかかせるわけにはいかんのだ。
師匠と弟子、死なば諸共、痛みは分かち合うものと心せよ。
メールを打ち終わると、携帯は投げ捨てた。
御神器携帯は、床に落ちる前に浮かび上がる。
画面は緑髪少女に戻っていた。
『仮にも神器をポイ捨てするんじゃないわよ。で、どうすんのよ? コンビ解消? それとも……」
「くっ……まぁ、どうしてもって言うなら……ポケットも空いてるしな」
『ツンデレか。それじゃあ交渉成立ね。改めてよろしくお願いするわ』
「うむ、こちらこそよろしく頼む」
礼二郎は女神を許すつもりなどない。
だが、神器サナダの『アタシはアタシ、女神様の手下なんかじゃない』って言葉は、信じていいような気がした。
『それで早速だけど、いい情報と、悪い情報を持ってるのよ。君はどっちを先に知りたい?』
「よし、悪い情報から頼む」
『あら、君ってご飯は、嫌いなおかずから食べる派なのね。ちなみに野生動物は、100%好きなものから食べるのよ。一秒先に生きている保証がないって、本能で知ってるからかしら。君も一秒先には、チェリーのまま死ぬかもしれないのに、ずいぶんのんきな男ね」
なるほど。
「よし、いい情報から頼む」
『人の言葉に左右されて自分の意見をコロコロ変えるのは、自分ってものが無い証拠よね。そんな薄っぺらい男は速攻で女子に見破られるわよ?』
どないせいっちゅうねん。
『まぁいいわ。君はそのままチェリー街道をアクセルベタ踏みで突っ走りなさいな。そんで、いい情報はね。君が女神様からもらった、御神器のバトルスーツがあるでしょ?』
「あのクソダサいやつな(ゴワンッ)」
『そうそう……って言えなくなる答え方してんじゃないわよ! ――で、超かっこいいバトルスーツを着ると、君は世界に認識されるの。つまり奇跡ポイント稼ぎができるってわけ』
おぉ?
「マジすか?」
『マジよ。でも奇跡ポイントは、なるべく急いで貯めた方がいいわね』
「急いで? どうしてだ?」
『死んじゃうから』
「死ぬ? どこの、誰が?」
『大萩さん家の、チェリー礼二郎くんが』
ん? 大萩さん家の礼二郎って……僕じゃん!
「はぇ? 僕、死んじゃうの?」
今流行りの孤独死か!
いや、礼二郎の場合は死体が発見されないだけ、余計にタチが悪い。
『死ぬわね。もって一月よ。つまり、これが悪い方の情報なの。詳しく説明すると……』
口の悪い携帯電話から、次に知らされたのは、悪い情報なんてもんじゃなかった。
『君は、この世の食べ物を食べることができないの』
それは、ゆるやかな死刑宣告だった。
(後書き)
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