閑話9 【ミス・アンラッキー PART4】
※本編はこれから殆どシリアスパートになります。
コミカル部門はミスアンラッキーが頑張るそうです。
ちなみに、加代事件は3月。
ミスアンラッキーの宝くじは2月なので、時間に多少のズレがあります。
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【うまい話には裏がある】
数々の詐欺被害にあった祖母が、生前よく言っていた。
春香の、座右の銘でもある。
だが、この金貨に関しては、そんなレベルを軽く超越している。
強欲だが力ある悪魔に、何千という無垢な魂を捧げた代償。
その対価も持て初めて得るような、反則級の代物だ。
「どげんしよう……」
封印していた方言がうっかり漏れるほど、春香は動揺している。
この金貨を持ち続けるのは、正直恐ろしい。
うまい話に裏がある――。
では、超うまい話の先に待つものは?
第一ステージ、貯金ゼロ→無職生活
第二ステージ,住所不定→路上生活
第三ステージ、無実無根→逃亡生活
第四ステージ,誤認逮捕→牢獄生活
第五ステージ、冤罪裁判→死刑執行
第六ステージ、閻魔裁判→地獄巡り
第七ステージ、地球滅亡→大和発進
だ、ダメだわ。
悲惨な未来しか想像できない!
運を使えば使うほどステージが上がる気がする!
だからといって、捨てるなんて論外だ。
心ない人に悪用されたら、日本がヤバいことになる。
どころか世界がヤバい。
それに……と春香は少しだけ表情を和らげる。
「……礼二郎君からのプレゼントだもん」
手放せない最大の理由は、これだったりする。
ではどうするか?
真っ先に浮かんだのは、優しくも頼もしい礼二郎の顔だ。
礼二郎に相談……。
「ダメよッ! 礼二郎君に会うのは、全部解決してからって決めたでしょ」
これは、春香が己に課したルールだ。
春香は、わかっている。
正攻法では、礼二郎が手に入らないことを。
だから、売る。
恩を、それも特大の恩を売るのだ。
礼二郎のお兄さん、大萩源太とガチで対決、スカッと勝利して、ズバッと問題を解決する。
そうすれば礼二郎に対し、圧倒的なイニシアチブを取れるはず。
春香は夢想してみる。
~以下妄想~
ラストシーン25、カット九ッ、 5、4……カツンッ!
ジジジジジ(※フィルムが回る音)
全てが終わり、ドヤ顔で現れる春香。
「礼二郎君、もう大丈夫よ。このお姉さんが、全て解決したわ」
涙ながらに駆け寄る礼二郎。
春香を、力強く抱きしめる。
(ここでBGM)
出会いがどうちゃら~♪ 奇蹟がどうちゃら~♪
「春香さん、ありがとう、本当にありがとう……君は僕の女神だ」
「いいんよ、いいとよ、礼二郎君」
見つめ合う2人。
「春香さん……いやさ、春香」
「礼二郎君……もとい、礼二郎」
そして2人は、熱い口づけを交わす。
~Fin~
STAFF
主演:佐々木春香
助演:大萩礼二郎
脚本:佐々木春香
監督:佐々木春香
……
むはぁッ。
よかッ。これよかねぇッ!
あれ? ちょっと待って……。
もしかして、もしかしたら、その先まで進んじゃったりなんかしてッ!
DVD特典シーン30、R18カット十ッ、 5、4……カツンッ!
ジジジジジ(※フィルムが回る音)
ホテルの一室。
大きなベッドの中、春香が顔だけ出している。
ガウンを羽織った礼二郎が、ベッドに腰掛ける。
「いいのかい? 春香」
「待ってッ」
布団をめくろうとする礼二郎を、春香の震える声が止める。
(ここでBGM)
愛がどうちゃら~♪ 運命がどうちゃら~♪
「お願い……灯を消しちゃらん?」
~Fin~
STAFF
主演:佐々木春香
助演:大萩礼二郎
脚本:佐々木春香
監督:佐々木春香
……
なんつって!
ふぉぉぉッ! み、みなぎるっちゃぁぁッ!
はい、カットッ! クランクアップでーすッ。れっしたぁッ!
打ち上げは佐々木亭でーす! 参加する方はバスにお乗り下さーいッ!
コホン。妄想終了。
キスやら、ベッドやらはさておき、その瞬間だ。
最高にして、唯一のタイミングを見極めて、恩を売るのだ。
以上が、春香の作戦だ。
四流大卒の頭脳を、フル回転し、唯一導き出した答えだ。
もちろん一番の目的は、純粋に礼二郎のためだ。あしからず。
見返りを求めない、なんて言ってた自分がなつかしい。
やっぱり人間って強欲ないきものなんだなぁ。 はるか
「ちょっとちょっとお兄さん、さんざん苦労して、こんなに役に立った恩人のわたしを、まさか振ったりしないわよね? おおん?」
作戦を、歯に衣着せないセリフにすると、こんな感じだろうか。
最後のは〝恩〟とかけているわけではない。あしからず。
ひどい。
改めてみると、なんと姑息でなりふり構わない作戦だ。
これで、もし上手く行ったら……。
はうぁッ。む、胸が痛い。
本命の彼女さんに、申し訳ない。
い、いたたまれない。
ゲスですみません。生まれてごめんなさい。
でも……。
「だって……これしかないんだもん」
礼二郎に会わないと決めたのは、己に課した罰なのか。
それとも、単なる願掛けか。春香には、わからない。
それにもし礼二郎に相談したとしても、解決するとは思えない。
元はと言えば、この金貨は、あの奇妙な占い師が、ピザの代金に……ん? 占い師……。
「そうだッ」
勢いよく立ち上がる。
「あの占い師さんにッ」
春香は上着を羽織ると、玄関から飛び出した。




