第12話 【くっ、こ、殺せぇぇぇぇっ!】
「セレス様、入りますね――セレス様ッ」
「にゃんと、その格好はッ」
「……気合いを入れるのはいいが、その格好は、ちとドン引きじゃぞ?」
「んな、なぜみんなが来るのだッ」
「セレス様、それは攻めすぎです」
「それじゃほとんど裸だにゃ」
「よくわからんうちは、そんな失敗をするものじゃ。気を落とすでない」
「くっ、こ、殺してくれぇぇッ」
セレスは、布団に頭を突っ込んだ。
「セレス様ッ。お尻がッ」
「にゃはは、尻丸出しだにゃッ」
「セレスよ。のんきに尻を出してる場合ではないぞ」
「え?」
セレスは枕で下半身を隠して、頭を上げた。
「イライア様、これで全員そろいました」
「じらさにゃいで、にゃにがあったのか教えて欲しいにゃ」
「まさか、主の身になにか」
セレスの質問に、イライアはとんでもない言葉を返した。
「そのまさかじゃ。あやつは今、この世におらん」
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朝になり、セレスは鎧を身につけた。
鏡を見ると、目の下に軽くクマができていた。
結局、セレスはあれから一睡もできなかったのだ。
「主殿、無事なのか?」
鎧娘は、昨夜、この部屋で交わした会話を思い浮かべた。
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『ついさっき、あやつの気配が突然消えおった。少なくともこの世界にはおらん』
『あ、主殿が、死んだと言われるのか?』
『セレス様ッ。れいじろう様は生きてますッ』
『ご主人様が、そう簡単にくたばるわけないにゃッ』
『す、すまん……。ロリとシャリーの言うとおりだ』
『うむ、たしかにあやつは生きておる』
『ほっ』『言った通りにゃッ』『よかった。しかし、今どこに?』
『うむ、魔術印でつながっておるからわかるのじゃが。やつは、とんでもなく遠い場所に移動しておる。こんなことができるのは、”女神”くらいじゃろう』
『女神様、ですか?』『にゃッ? 女神様ッ?』
『女神様ッ? 【恵みの女神・ファシェル】様ですか?』
『そうじゃ。お主達には言っておらんかったが、あやつは女神から拉致されてこの世界に来た、異世界人だったのじゃ』
『あッ。そう言えばロリは、れいじろう様が寝言で知らない言葉をしゃべってるのを聞きましたッ』
『アチシも聞いたにゃッ。”オニギリタベタイ”とか言ってたにゃ』
『異世界……ん? いやいやッ。待て待てーいッ。寝言を聞いたとは、ど、どういうことだッ』
『え、あの、ロリは、夜さみしくなったら、その、れいじろう様のお布団に……』
『ご主人の布団に潜り込んでたにゃん』
『はぁぁぁっッ? さみしかったら、布団に入ってもよかったのかッ? わたしは身も心も懐も、ずっとずっとさみしいのだぞッ』
『セレス様……』『にゃんだか切ないにゃ……』『セレス、お主……』
『くっ、殺せぇぇぇぇっッ』
『まぁセレスの痛い話は置いておいて、闇雲に動いたところでどうにもならん。今は休んで、朝になったらワシの部屋へ来るがいい』
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コンコン。
「きゃぎは開いておる。入るがよい」
「イライア殿ッ。ま、真似しないで欲しいッ」
セレスがドアを開けて、魔女に抗議すると。
「シーッ。セレス様、お静かにッ」「静かにするにゃッ」
すでに来ていた、ロリとシャリーから怒られた。
「いや、だって、ゴニョゴニョ」
魔女・イライアの部屋は、むっつり女騎士セレスのそれより三倍は広かった。
しかも、エラくゴージャスである。
絵画やタペストリーが壁一面に飾られ、床はふかふかのカーペットが敷き詰められている。
まぁ、【炎眼の魔女】には、普通のことだろう。
なにせ機嫌を損ねると、その国は終わりなのだ。
その恐ろしい魔女が、部屋中央のテーブルに載った水晶になにやら呪文を唱えている。
「《ウル・エフェイル・デ・ファプセラ・ドゥラ》……ん? なにか巨大なものがこの王宮に迫っておる」
「巨大なッ? 主殿となにか関係が?」
「わからん。じゃがこの大きさは」
そのとき、王宮内が急に騒がしくなった。
「なんでしょうか」
「ちょっと様子を見てくるにゃッ」
シャリーがそう言うと、窓からひょいと身を投げ出した。
空中に見えない足場があるかのように、なにもない場所を四つ足で駆け上がっていく。
相変わらず見事な魔術である。
「大変にゃッ」
数分後、窓から戻ったシャリーが慌てた口調で言った。
「どうしたのじゃ?」
「龍神様が来てるにゃッ」




