表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルなんていらない  作者: みやざわ
25/33

25:管理者と遂行者

「他にも制約がある。管理者同士の接触は非常時を除いて禁止されている。手を組んで何かをやらかしたり、敵対して管理者同士の戦いを未然に防ぐためだな。後は魔力乱用の禁止だが、これは止めようがない。そういう理由もあって、管理者には上部組織が存在する。管理者を管理するっつうのもおかしな話だが、おかげでくだらん掟がいくつもできた」

「掟? そういえば名前を呼んじゃいけないとか何とか」

「俺は追放された身だからな。名を口にするなとでも言われてるんだろう。あんなのは序の口だ。見たこともない神の威光に怯え、つまらん掟で自分たちを縛っている。領地内の人間をどう扱うか、起こりえる問題の一つ一つに、明確な回答が用意されている。人間だけでなく、俺たちの生活様式まで決まってんだからな。まったくくだらんよ。おれは、そいうものがもろもろ嫌になって逃げ出した。そして、長い旅を続け、立ち寄ったのが――」

「この森だったってわけ?」

「そういうことだ。人間の生きる場所を直接眺めるようになって、俺は、力なんぞ持っている俺たち管理者も、ずっと人間の方が面白いということに気づいた。なかでも一番面白いのは、お前だがな」

「それ、褒め言葉じゃないでしょ?」

「褒めてるんだが?」

「あんたにとって面白いって変とかそういう意味でしょ。聞き流す」

「ま、俺のことはだいたい説明した。なにか聞きたいことはあるか。信じられんと思うが、これからのために説明しておきたかった」


 ルシは表情をほころばせ、皮肉っぽく笑った。


「そんな大それた力を持つやつに、わたしは今から立ち向かおうってしてるわけ。完全に無謀のように思えるけど」


 わたしはルシを挑発するように言った。スキルの始まり、ルシの言う管理者、姿の見えない神。それは、知るべき情報であっても、これからの戦いには必ずしも必要じゃない。洪水のような情報になんとか自分の理解できる糸口を見つけたかった。

 

「俺はあいつに制約を与えた。だから絶対にこの戦いに手を出すことはねえだろうよ」

「絶対に?」

「ああ、絶対だ。やつらは掟を破ることを何より恐れている」


 ルシの言葉には自信があふれて居た。その自信を、今は信用することしかできない。わたしは、わたしのこれからのことを考えなくてはならない。


「なるほどねえ。でも今の話ってさ、わたしに言う必要あった? これ以上昔の話をされても、頭がごちゃごちゃで大変なことになりそうなんだけど。それに――」

「なんだ?」

「よくわかんないけどさ。わたしさ。正直あんたが何者かなんてどうでもいいと思ってるんだよね。わたしを置いていったことは許せないし、許すつもりはないけど、でも後のことはどうだっていいよ」

「お前が昔のお前のままで安心したよ」

「なにそれ」

「言葉どおりの意味だ」


 ルシが顔をほころばせた。こんな顔は、あまり見たことがなかったかもしれない。


「で、ほかに説明することがあったりするの?」

「実際、これから言うことの方がお前にとっては重要だろうな。ここに来るはずの人間だ」

「相手が誰かなんてわからないんじゃ?」

「やつはおそらく最大戦力を持ってくる。あの王国の情勢は知らないがおそらく……。いや、これは直接聞いた方が早いかもしれねえな」


 そう言うと、ルシは視線を空の方に向け、指先をこめかみのあたりに添えた。


“おい、今から来れるか”


 突然頭のなかにルシの声が響いた。


“わ! 回線も開いてないのにどうやってんの?”


 呼びかけたのは魔術師らしい。完全に油断した声で答えていた。


“良いから来れるのか”

“あたしさあ、精神回路を人に使われるのって我慢できないのよね。一度、先輩にされたことがあって、あたしはもうその時点で、前代未聞の大天才と呼ばれていたから、力が有り余ってたのよ。それで、ついつい相手の回路に大声で返事しちゃって、相手が医者送りになったことがあるのよね。人の心を覗くのはいいけど、自分のを見られるのはいやって、自分でも矛盾しているとは思うけど、そういうことってあるでしょう? だからやめて欲しいんだけど、あたしとあんたの実力じゃおそらく天と地ほどの差があって、だから、強くは言わないけど――”

“場所はわかるんだろ、来いよ”


 声が聞こえなくなっった。それからしばらくすると、飛行スキルで魔術師が飛んできて、回路を切ったことを延々と喋り出しそうになって、ルシが止めた。

 

「魔術師、次に誰が来るか、予想はついているか?」

「ああ、そういうことね。だいたいわかる。っていうか、話聞いてたら一人しか思いつかない。勇者でしょ」


 勇者!? わたしはびっくりして飛び上がりそうになった。


「勇者!? 勇者って、街でよく噂されてる!?」

「そ、王直属の部隊で一番の戦力って言ったら、正直あたしのほかに居ないし、あたしじゃなかったら、たぶん勇者しか居ない」


 魔術師はいたって冷静に応えた。わたしはどうしてそんなに冷静で居られるのかさっぱり分からない。


 勇者、それはわたしにとっても憧れだった。かつて、村に居た時、読まされる本のほとんどは、つまらない勉強のためのものであったけど、唯一、騎士道を養成するという目的で、英雄神話や、歴代勇者の冒険譚は読むことを許されていた。


 選ばれし者。王国のなかで最も力のある者、武功を立てたものを勇者と呼ぶ。勇者の物語は、わたしの心の支えだった。戦いを経て力を身につけ、悪の敵国や魔物たち、魔王を倒していく姿は、わたしの憧れの存在だった。


 ……小さい頃の話だけれど。


 それが、これから、やってくる?


「勇者と呼ばれているのか。おそらくそいつが、やつの選んだ、遂行者だな」

「遂行者?」


 わたしは聞き慣れない言葉に反応して、聞き返す。


「俺たち管理者は、人間たちに介入することは許されていない。だが、いざという時のために、たった一人だけ、力を与え、思考を伝えることのできる人間を選ぶことが許されている」

「それが、勇者ってこと?」

「おそらくな」


 あっさりとした答えに、わたしの考えが追いつかなかった。それって、どういうこと? 勇者っていうのは、自分の力でその実績とか、名声を勝ち取ったんじゃないの?


「確かに、勇者の強さは規格外だった。あたしはこれでも、魔術師界隈じゃ、右に出る者もいない力を持っているはずだったけど、あいつには勝てる気がしなかった。操作できる魔力の総量も、使えるスキルの多さも、底知れなかった」

「噂にだけは聞いたことがあるんだけど、魔物の軍勢をたった一人で全滅させたとか、乗っ取られた国を数日で取りかえしたとか。全部ほんとうなの?」


 魔術師の言葉に口を挟む。なんとかして、わたしのなかの勇者を守りたかった。


「誇張は一切なし、それが真実ね。あたしがどうして実績を作るのに躍起だったかっていうと、勇者のせいもあるのよ。あいつがいたら、よほどのことでない限り、魔術師の出番がなくなってしまうの。それくらい強かった。人間性に関しては、いろいろと言いたいことがあるんだけどね。でも、あたしが心から実力を認めてるのって、あいつくらいよ」


 けれどわかっている。わたしは、その勇者と戦わなくてはならないのだ。勇者がどんな人間であろうと、敵であることには変わりない。


「決まりだな。やつが送りこんでくるのはその勇者とかいうやつだ。軍勢という手もあるが、こちらの手によっては、各個撃破されるということがないわけではない。それよりも確実な方法は、手駒で最大の戦力を投入することだ」

「でも、そんな力を持ったやつに勝つ方法なんてあるの?」

「それを今から考えるんだろうが、俺は手は貸せないが、知恵は貸してやる。勇者も人間として生まれた以上、ステータス。スキルに縛られている。となれば、いくつか勝つ手立てを考えることもできるはずだ」


 ルシが自信ありげに言った。でもそれをするのはわたしでしょって思ったけど、今は言わないことにした。


「とはいっても、そう簡単にいくかしら。こんなこと言いたくないけれど、あたしでもあいつを足止めするくらいで精いっぱいよ。スキルを最大限に使って、勇者の攻撃と同等の力で拮抗することくらいはできるかもしれないけれど、それ以上、スキルで圧倒できるなんてことは絶対にできない。まして、スキルが使えない人間が、どうこうできる相手じゃない――あ、ごめんなさいね。あんたを悪く言うつもりじゃないのよ。ただ事実を言ったまで」


 魔術師が反論する。


「良いよ。気にしないで。まずは相手がどれくらいの力を持っているか知りたいところね」

「ちょっと、本気で勇者に勝つ気で居るの? どうにか引き分けに持ち込もうとか、そういう方向で考えるべきじゃないの」

「でも勝たなきゃ。引き分けに持ち込んで許されるほど甘くはないと思うし」


 それは事実だと思う。ルシの話を聞いてしまった以上。引き分けにして逃げ出すという手も、使えるとは思えなかった。


「だな」


 ルシがうなずいた。こいつとはどうでもいいところで意見があってしまうのだ。


「あーあ。ほんと、あんたたちに味方するって決めたのは失敗だったかも」

「ごめんね。でも、やるからには全力でやらないと。引き分けにもならない」

「そういう考えもあるかもしれないけどさあ」


 魔術師はあきれるように空を見上げた。


「俺から一つ言えることがあるとすれば」

「何か案があるの?」

「案ほどとも言えねえが、お前は考えが森に縛られ過ぎている。こういう場所を使うってのはどうだ」


 そう言って、ルシは草原を指差した。


「今まで森だったからなんとかなったっていうのに、開けた場所でどうにかなるの?」

「その考えがすでに枠にはまってるっていうんだよ。狭い場所で追い詰めることは有効だが、広い場所だからこそ、使える策もある」


 確かにそうかもしれない。勇者がどんな力を持っているにせよ、それが少なくとも魔術師と同等か、それ以上のものなら、今まで森で使ってきた罠は通用しない。


「もうあたしは知らない。こういう作戦って慣れてないのよね。考えるのはあんたたちに任せる。言ってもあたしは雇われの身なんですからね」


 魔術師の諦めたような言葉を聞き流しながら、わたしは、魔術師を使った罠について考えを巡らす。森でできないこと、そして、勇者と言う存在。考えることは山のようにある。


「うん。考えてみる」

「そうだ。やってみろ。考えることから、道は開けてくるもんだ」

「人ごとだと思って適当よね」

「まあな。せいぜいがんばってくれや」


 わたしは大きくため息をついた。でも、なにかが、見えたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ