物語のハジメと乙女の話
抵抗虚しく引きずられ、連れて行かれた先は地下牢獄。
じっと目を凝らさなければ数メートル先も見渡せないほど仄暗い空間の中、蝋燭の明かりだけが怪しくゆらめいていた。
この檻の中にあるのは、埃にまみれた錆ているベッド、ビリビリに破れた薄いシーツ、かろうじて見えないくらいの隔たりがあるだけのトイレ、以上。
クソ王子のせいで牢獄に入れられた訳だけど、どう考えても扱い酷すぎない?
年頃の女子高生がいていい空間じゃないよ?
考えれば考えるほどクソ王子への殺意が湧いてくる。
しかし年頃の女子高生という割には色々と無頓着な私である。
こんな状況の中、ベッドで一眠りしようなんて考えてるんだからほんと我ながら呑気だよね。
だってよくわかんないけど頭痛いし!疲れたし!
さぁ〜、寝るか〜。
と、ベッドに潜り込もうとしたんだけど、そこには・・・。
「・・・え?人?」
「やあ、こんにちは」
暗くて全く見えていなかったが、柔和そうな青年が寝ているではないか。
いや、こんにちはじゃねえよ。
「誰・・・!?」
「僕?僕はハジメ。君は?」
「えっ、と、・・・三橋レイ。」
警戒しまくりの私の威圧モードにも挫けず、のんびりと返事をされてしまい思わず気がぬける。
知らない場所に来たと思えば牢屋に入れられ、その上知らない男と同じ檻だなんてとことん不運過ぎると思う。
第一印象だけで言えば悪い人には見えないが、あくまでここは牢獄である。きっと訳ありなんだろう。
警戒しなければ・・・
「君、名前的にも服装的にも、日本から来たって感じかな?」
「え゛っ!?」
「ふふ、すごい反応だなあ。」
警戒取り消し。思わずすごい声が出てしまった。
私は見知らぬ土地で最高の味方を見つけたかもしれない。
「ななななな、何。どういうこと。やっぱりここ日本じゃないよね?外国?」
「う〜ん、どちらでもないね。
ここはスターチス王国、いわゆる異世界ってとこかな」
「何その中二病設定。ハジメも呼ばれてここにきたの?」
「まあ信じられないのも無理ないんだけど。まあ、僕は残念ながら日本人ではないかな。
ただレイの世界のことはよく知ってるし、この世界のこともよく知ってる。
まあ、一から説明するから隣、座りなよ」
ポンポンと、自分の横に座るよう促され仕方なくハジメの横に行く。
近くで顔を覗き見るとハジメも先ほどのクソ王子に負けず劣らずの美青年である。
透き通るような白い肌に、絹のようにサラサラとした金髪はまるで天使のようだ。
「何?かっこよすぎて見とれちゃった?」
「こんな美男子隣にしたら誰でも見とれない!?」
あまりに顔を見つめすぎたせいか、ハジメがからかってきたので思わず本音がこぼれてしまった。
ハジメは一瞬何を言っているのか理解できないような顔をしたのち、お腹を抱えて笑いだした。
「あははっ、レイ、変わってるってよく言われない?」
「・・・やかましい!
それより早く!この世界のことについて教えて。
私、ミオを連れて今すぐにでも帰りたいんだけど帰れるの?
ミオは聖女だなんだって言われてたけどそれって何?」
「焦らない焦らない。一つずつ答えていくから。
まあわかりやすいところから行くとね、話を聞くに、君たちは聖女召喚の儀によってこの世界に呼ばれたみたいだね。
で、ミオという子が聖女で、レイは手違いで誤ってこの世界についてきてしまった。
で、もう一つ悲しいお知らせなんだけど・・・。
申し訳ないんだけど。異世界から来た人間が元の世界に帰れた事例は聞いたことがないね」
それを聞いて私は、目の前が真っ白になった。