表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
aRIA  作者: 旅人
6/13

笑顔-お面

貴方がくれたそれは僕にとって最大の宝物になった

だからこそ

僕はあなたの為に何度でもお面を被る

ヒマワリ畑での出来事は、夢であったようにうっすらとしか思い出せない

ただ1つだけ、ハッキリと覚えているのはお面の男の事だけだ

それですら重要な部分が抜け落ちている

面の向こう側

そう

正体だ


aはハッキリとその素顔を見た

あの時目にした彼女の表情を思い出すだけで胸が苦しい

もし理由を聞こうものなら再び彼女を苦しめそうだ

そんなことなど絶対に、私にできる訳がない

お面の男の正体を聞こうとするのは到底できない


aはあの日以来少し大人しくなった

いや、大人しくなってしまったと言うのがただしい

表情には常に影を潜ませ

何か申し訳なさそうだ

後も先も考えてなかった遠く先まで透き通った笑顔

それはもう嘗ての幻



いつの出来事か分からない無数の記憶

それを自身が持っている事に違和感を持ち出した

ただ単に記憶が戻りだしたのではと思えばいいだけの話し

だがどうにも引っかかる事が多い


記憶の中にあった「a」

いつの表情かは古くて分からない

なぜあれほど望んでいた笑顔なのに、見ている事が悲しかったのだろう

どうして私はあの表情を忘れようとしたのだろうか

何一つとして分からない

古びた記憶にノイズが走る

分からない

まるで自身の記憶でないように


思い出すのを一旦やめる


そんな事を考えながらも自宅で夕食の鳥の揚げ物とフライドポテト、そして焼きトウモロコシを料理していた

これも何故だか分からないのだが

何とも作りなれている

昔屋台でも出していたのか

なんて事はありえない

お客さんがこの世にただ1人

aだけだ


8月31日

お祭りの開催日

夏の締めくくりには丁度いい

だがあの日以来aはあまり外に出ようとしなくなった

私はその理由から逃げてしまっている

知れば知るだけ、彼女を傷付けてしまいそうだから


以前ならきっと誘ってくれたのだろう

強引に手を引きながらでも


彼女は窓の外を眺めている

花火はまだかと揺れながら、待つその背中

楽しみにしている事を伺える

だが思い出したかの様に固まり、自身の望みを抑え込む

肩まで伸びた髪先を指で触れながら気を紛らわせる

祭りへ行くのを我慢している


何か違う気がして仕方ない

いつもあそこに行っていたはず

そうだ毎回夏の終わりに、現地で花火を見ていたはずだ

いてもたってもいられなくなり

私自ら誘ってしまう


「祭りには行かないのかい?」

どう話を切り出せばいいか分からず単刀直入に尋ねる

唐突に誘い同然の言葉を聞いたa

電気が流れたかのように、ビクッと動いてまた固まる


「あっ」

私も続けて何か話そうとした口を止める


彼女は目を輝かせ振り向く

その表情を待っていた

だが直ぐにその気を沈め話し出す

「もうお祭りは飽きたからいい」

あからさますぎる嘘だった

わかりやすいにも程がある

隠す気がない訳で無く

在り来りな嘘を着いたことがないのだろう

そうする理由が無かったのだから


私に今夜の夕食メニューを依頼してきたのはaだ

どれもこれもあの祭りの屋台と同じ食べ物ばかりじゃないか


「本当にかい?」

この件はこれを最後に問い詰めるのはやめておこう

諦めかけたその瞬間

彼女は私を見ながら少し間を開け再び話す


「怖いから」

その言葉に込められた意味は到底1つではない

何重にも重なった理由はaを縛り付けるくらい容易であった

彼女は目の前にいる1つの理由を見つめる

視線は腕に移る

もう無い無数の切り傷を見る

ヒマワリ畑に私を連れていってしまった事

その罪悪感を彼女は隠し通す事ができなかった


私のせいだ

口からその後悔が言葉となって溢れ出しそうになる

こらえる

もっと強ければと自身を咎める

憎い、自分がどうしようもなく

それでも今は

ただ今は


彼女を笑顔にしてあげたい

それ以外はどうでもいい

方法なんて1つくらいだ


aの手を取り

走り出す

忘れたあの日がこうしろと囁く


彼女は驚いていた

目まぐるしいほど急な行動

今自身のされている事がわかったいない

その行為は今まで何度も私にしていた事だと

一切気づかないままに



あの日aに連れられた時、私が足の速さを合わせていたつもりだった

でも本当は違う

彼女が合わせてくれていた

今だってそう

最大速度で走っているのに

貴方は軽々速さを合わせる


それに何か何かとついて行くばかりの毎日

そしていつも着いた場所は美しかった

でもなによりも貴方がそばにいたから

どんな所でも綺麗だった

貴方と共にいれたなら

ただそれだけで幸せだった


言葉選びが下手な私は上手く伝えれない

代わりに手を強く、優しく握り走り続ける

彼女はいつまでもキョトンとしていた

まるでお祭りの日の私の様に


お祭りの会場に着く

そこは相変わらず人間がいない為静まり返っている

だが今はそれの方が好都合だ

ここを貴方と2人占めできる

彼女の空いた口が塞がらない

その場で呆然と立ち尽くしている

彼女の手を握ったまま、迷いなく射的屋に向かう

「ど、どうしたの急に」

いつもと間違いなく違う行動を取る私に困惑するa

「見ていて」

そういい景品のお面にコルクを命中させ棚から落とす

想像以上に簡単だった

今ならなんでも出来る

彼女を笑わせれる


機械が景品のお面を私に渡す

あの時と同じお面

笑顔のお面

ずっと昔のように感じる


目を丸くして見ていたaにお面を被せる

彼女に告げる

「これをあげる」

変わらず固まり続けるa

少ししてから彼女は面を自ら外し、私の顔を見つめ出す


そこにあった素顔は目から大粒の涙を零していた

あげたお面の比ではない

花火の様な笑顔をしながら


今この時をずっと望んでいたように

ただひたすらに感謝するように

大切そうにお面を両手で抱き抱える


花火が上がる

それは夏が終わるのを合図するように

残る夏を使い切る様、空に咲く

光に照らし出される私を見つめるaの顔

泣いた後のせいで頬が赤い

そんな彼女もとても可愛らしい


「いつまでも目を逸らしたくない」

私はこんな言葉を口に出す柄ではない

でも今しか言えなかった

後悔なんてしない


突然両手を首の後ろに回し体ごと引き寄せられる

手にはお面を持ったまま

力はどうも入らない

求められていた

受け入れたかった


しかたない


身を委ねる

花火が上がる


誰もいないこの世界で気づいた時には既に彼女がいた

今思えばどうして彼女と私しかいないのか

どれくらいこの状態が続くか

何も分からない

いつか突然終わってしまうかもしれない

ただ今が続けばと

1秒でも長く続けばと

永遠に続けばと

8月3▒

彼女の弱さを気づいてあげれなかった

これはその罰なのだろう

そして今、あの日々の夢が目の前で繰り返される

これも私への罰なのだろうか

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ