原因不明-涙とヒマワリ
理由
それをあの時貴方に言えなかった
僕にはそれを告げる勇気が無かった
貴方が1人何処か先に言ってしまいそうだから
膝枕の元、目を覚ます
見にしたのは優しく私を見つめるa
誰なのかは詳しく分からない。でも確かに彼女はaだ。
世界中の男性達が議論した結果の末、決定した1番理想の少女。これが自身のできる最も適切な表現方法だ。
唖然とする私に彼女は少し下手な笑顔で話し出す
「大丈夫。貴方に記憶が無いのは知っている」
その通りだ
今私には記憶が無い
彼女がなぜそんな事を知っているのかは分からない
ただ私の目を見つめてくる
少し恥ずかしい
でも少し安心する
このままずっとこうしていたいとも思えてくるほどに
帰って来れなくなる感覚がして咄嗟に自身の視線を逸らす
逸らした視線の先
窓際に置かれた私とaの一緒に写る写真
そして1つのお面
2人しかいない夏祭り、手を繋いで歩いている
写真の中のaは無表情
お面や景品のスーパーボールからして楽しんでいたことが伺える
写真を真剣に見る私にaが話し出す
「私と貴方は前からここで一緒に生活してきた。貴方は記憶がなくて不安かもしれない。けれど心配しないで。大丈夫。」
そう言うaの方が笑顔に隠れる不安を隠しきれていない
記憶にない罪悪感が込み上げる
きっとこれは彼女を不安にさせた何かの正体
だがやはり思い出せない
いてもたってもいられず彼女の返答に答える
「今度こそは大丈夫」
この発言にaはきょとんとした後表情が緩む
一体何が今度こそなのか、私自身にも分からない
だとしても
今度こそは
日が1番高くなる頃、aに呼ばれる
何かと分からず呼ばれるがまま彼女がいるであろうリビングに向かう
そこにはこれから家出をするのかと言うほど酷く、そして無造作に大量の荷物を大きなバッグに入れるaがいた
私に気付いたaが口を動かす
「ヒマワリを見に行こう」
ヒマワリの様な笑顔だ
だがこの荷物量からしてどこのヒマワリを見に行くか検討つかない
今の私がそれを知るはずもない
もし本当に見に行くとしたら、彼女の言うままついて行くしかない
流石にとてつもなく遠い場所はよしてもらいたい
「電車で80分の所にある」
aが忙しそうに持って行くであろうお菓子を選びながら答える
私の考えは見透かされていたようだ
思ったより近くで安心する
私の荷物は道中の店から取ってこよう
人は誰もいないのだから
うん
誰もいない
誰もいない?
自身の常識を疑う
人は確か沢山いたはずだ
そう前から知っていたはず
だが人がいないことが今自身の常識になっている
この矛盾が理解を遠ざける
「大丈夫?」
急に顔色を変えた私を心配するよう
aが手を止め顔を覗き込む
は、と我に返る
「大丈夫」
そう言い私は下手であろう笑顔を見せる
この常識の矛盾はどうも解決しようがない
新しい「誰もいない」常識を今は正しい定義としよう
「準備完了!」
aはまたヒマワリ畑の如く笑顔でこちらを向く
まともに選別もせずパンパンになったバックをどう持ち運ぶ気なのだろうか
まあ何となるだろう
きっとこの問題も解決できるだろうから
静かな電車の中、aは子供の様に拗ねている
きっとあの大荷物を私が選別したからだろう
お気に入りだからと言って、何枚ものお面が入っていたのは流石に笑ってしまった
拗ねるaも可愛らしい
外の移り変わる風景を眺めている
今日の為に用意したのだろう
白いワンピースが窓から刺す光で眩しい
造られた完璧な美少女
まさにそれが1番適切な表現方法だ
異論を唱える者など何処にもいない
まあ私とaしかいないようだからそうなることはは必然か
外を眺めるaを私が眺める
「どうかした?」
視線に気づいたaがムスッとした顔でこちらを向く
目で荷物の件の恨みを主張する
何か機嫌を取らなくてはいつまでも睨まれそうだ
それも悪くはない気もしたが、流石にずっとそうでは困る
「あのお面はそんなに気に入っているの?」
そう訪ねた自身の言動の愚かさに、すぐ後悔を覚えた
aの睨みつけていた目は崩れる様に涙を流す
ああ
なんというか私は他人に慣れていない
他人が彼女しかいない上、記憶もなければそれも当然
でも今はそんな言い訳を考える間すらない
その流れる涙を拭いてあげる価値すら今の自身には無い
困りを超えて混乱に
混乱を飛び沈黙へ
aと共にいたいといつか願った事があった
そんな記憶が何処かに眠る
だがそれは彼女を悲しませる為ではない
もう謝り方すら分からない
謝る事すら彼女を再び、傷付けてしまいそうだから
「ごめんね…」
本来私が言うはずであったその言葉をaが口から漏らす
私の中で何かが外れた
それと共に遠い昔の感情が蘇る
自身への失望
そして今度こそと言う宛のない意志
あの時の繰り返しのようだ
だがあの時が分からない
今も尚忘れられたままの感情が自身を押しつぶす
それと共に訳の分からないものが目の奥底から込み上げ溢れる
aにそんな姿見せたくないと
違うだろと自身に言い聞かせ堪える
「泣いてもいいんだよ」
慰められるように手を握られる
互いの顔が少し近い
彼女の言葉を最後に
限界となる
気が付けばお互い向き合い謝り合い
ひたすらに泣いていた
理由すら分からない
彼女の謝る意味も
自身の涙と謝る言葉の理由も
何処か懐かしい握られた手を握り返す
2人の顔が隠れるほどに背の高いヒマワリがどこまでも広がる
暮れだし夕日により影が伸びていく
ヒマワリ畑に到着した時は既に、昼よりも夜が近くにあった
わざわざ行くと決めた当日に見に行かなくてもよかったのではとも少し思う
でも
今のaを見るとそうとは言えなくなってしまった
1日早くこの笑顔を見れたことが、私にとっては嬉しくて仕方がない
満足気な顔を見た彼女
途端
まるで捕まえてご覧と言わんばかりにヒマワリ畑の中に駆け込む
このどこまでも広がるヒマワリの中、見失うと彼女を見つけれそうにはない
私も彼女を追う為、ヒマワリ畑に走り駆け込む
白い彼女のワンピースが夕日に染まり琥珀色に輝く
ヒマワリ達がaに道を開けるよう、彼女は軽やかに走り抜けていく
上手くヒマワリを避けれない私はかき分けながらずかずかと追いかける
彼女も私を見失わない様
少し距離が開くたび、私の方を振り向き止まる
必死に追いかける私を余裕を見せながら笑っている
少し悔しい
やはり全く距離が縮まらない
どうにも今の私では追いつけそうにはないようだ
それでも彼女が楽しんでいるなら私はいくらでも追いかけよう
突然aが足をピタリと止める
私も緩やかに足を止めていく
彼女は冷静に何かを見つめている
追いついた
上がる息を落ち着かせる為少し深呼吸をする
少し落ち着いてから、彼女の視線の先を見る
そこには膝下くらいの高さしかないヒマワリが広がる
空から見下ろすとミステリーサークルがあるように見えるだろうか
意図的にこう植えられたようだ
何かの目印のようにも見える
そこには疲れきった男が1人
自身のお面をヒマワリに付けて佇んでいた
ヒマワリにかけられたお面は一部割れている
男が私とaに気づく
大切な物を拾い上げるようお面を取って、再びかぶる
そしてどこかできいたであろう話しの続きを語り出す
「生き残った人類は「 」を理解しようとした」