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aRIA  作者: 旅人
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ARIA-a

初めて目覚めた貴方の驚く表情は忘れない

僕の説明が下手だったのも悪かったかな

あの時はごめんなさい

全てが今の僕にとっても初めてだったから

荒廃した記憶の残骸はあの日々のままで有ろうと形だけを模倣した

無理に繰り返した代償に空の一部は歪が彩り、地はそれら全てを鏡の様に写し取る


切り離された世界の一部は嘘を繰り返す

既にそれを見破られた今も尚


唯一の大きな違いは貴方がいないくらいだろうか

そう、貴方がいなくなっただけ

ただそれだけの違いだ


ただそれだけが私の全てだった


だからこそ

今度こそ

貴方を




目を覚ます


見にしたのは私を見つめる無表情のa

誰なのかは知らない。でも確かに彼女はaだ

世界中の男性達が議論した結果1番当たり障りの無い理想の少女型ロボット、これが自身のできる最も適切な彼女の表現方法だ


「Zハ今記憶ガナイノ」


確かにそうである

これまでの記憶が一切ない

だが唐突にそう言われても理解が追いつかない

まずそんなことを何故彼女が知っているのか

ただ私の目を一切瞬きもせずに見つめてくる



恥ずかしくなり目をそらす

aとは、zはとは誰なのか、この場所は何処か。今目視できる範囲で情報を集める

窓際に置かれたaとzであろう人物の顔写真2枚

写真の間、欠けた笑顔のお面1枚

写真から伺える彼女の笑顔は今のaからは想像もつかない

Zの表情は本当に酷いもので必死に笑顔を作ろうとしていて失敗していた


「コレマデ一緒二此処デzト生活シテキタノ」

ここが何処かと困る私を察したか、aは理解はできるが意味が分からない事を話す

混乱は増すばかり

今分かる最低限の情報をまとめる

aの顔の少し横に見える天井を凝視して気を紛らわせる

aとzは一緒に生活してきた…

今ここに私とaしかいないと言うことは私がzだと言うことだろう


aは続けてカタコト言葉で話し出す

「マタ一緒ニ生活シヨ」

抑揚もなく表情も無い。だが彼女が嘘を言っていないことは間違えではないようだ

なんとなくだが知っている

ただ写真を見たからそう思ってしまったのかもしれない

このなんとなくと言う感覚が正しいとはいいきれない

彼女を疑った訳では無い

自身が自分を信用出来なかった


ただただ困りに困った私はどうしようもなくなってここから飛び出すように逃げ出した。

aに見つめられる恥ずかしさでも、ここが何処なのか分からない為の恐怖でもない

aを疑う自身が情けなくて逃げ出した



部屋を出てすぐの玄関、そこにある2セットの靴の1セット、それをかかとを踏んだまま履き逃げ出した


玄関の扉を開けたらそこはマンションの廊下

結構上層階らしく眺めがいい

地上から蝉の鳴き声が響く

ただ今は景観や音を楽しんでいる暇もない

エスカレーターを探す間もなく近くの階段を駆け下りた


きっと彼女の言うことは人違いだ。もしかしたら彼女の方こそ記憶喪失で何か勘違いしているのだろう

そう自身に言いきかせる

自身が逃げた理由を必死で肯定した

冷静に考えたら駄目だ

理由を考えたら負けだ

悪いと思ったら止まってしまう

そうしないと足が止まってしまう


きっと彼女は事実しか言ってない

ただ言い方が直接的過ぎて私に実感が湧いていないだなんだろう


私は卑怯だ

何も言えず一方的に逃げ出したのだから


項垂れながら日に焼けたコンクリートを眺めて街を歩く

聞こえてくるのは環境音、車や電車、鳥の鳴き声に虫の羽音、空港が近いのか飛行機の音も…でもいつも聞いていたはずの音が聞こえない


不思議に思い首を上げる

人間は自身の視界に誰一人として入らない

山奥の村や進入禁止になった工事現場、それならこうなのも理解できた

だがここはビルが立ち並ぶ大型都市

車は無人、人の使わない横断歩道の赤信号を待つ

電車の乗客は誰一人としていない。時間通りに駅を出で次の駅で止まるのが役目のように


自身は今記憶が無い。間違えなく人間は沢山いた事を覚えている。だが此処には誰一人としていない

人の為の都市は今存在理由が失われているのにも関わらず現状を維持し続けていた



スーパーに入れば新鮮な野菜や果物、きっと今流行りなのだろう食玩も置いてある

だがそんな物此処では不必要なもの


1度やってみたいと思ったことがある

棚に陳列されたフルーツを適当に掴みにしてかじりながら商品を見て回る


本当にくだらないことだが試しにして見た

罪悪感は一切ない。罪は人間が作り出したのにその人間がいないのだから

陳列されたフルーツを掴み取る。そしてかじる

してみれば何ともつまらないもので、行けないことだったからこそ私はしてみたかっただけなのだろうと冷静に思考する


自身に呆れている間に不思議な物が目に写った

さっきまで陳列されていたフルーツをさっきと同じように陳列し直す自立した機械

それは数秒前と同じ状態に直した後、私にお金を請求しに来るわけでもなく、何事もなかったようにこの場から去っていく


私は手にフルーツを掴んだまま元通りになった陳列棚を唖然と見ていた



この都市は人が保ってきた状態を代わりに機械が維持している

機械達は人間の働く理由とは違い、何を要求する訳でもなくその設備の役割を果たし、保ってきた


そんな事を考えながらもタダでファミリーレストランのジュースをありがたく頂いた

人間がいないのにファミリーもあったものではない…


自身には今記憶がない

したいことが思いつかない

だからこそ目的もない

言ってしまえば価値もない

せめて何か行動理由が欲しかった


今は生きる理由を探す為に行動するしかない


ファミリーレストランを出る

ここを出て宛がある訳では無い

それでも此処にいて変わることがある訳でもない

後にしたファミリーレストランの机を機械が元通りに直していた



宛もなく道を歩く


アスファルトは8月終盤とはいえ間違いなく卵は焼ける

aの元を逃げるように去った時でも靴は履いた私を褒めてやりたい

都市から離れるほどには歩いた

それでも人間はいない

普通は都市から離れるほど人は減るはずだが、その常識すら通用しない

この暑さで人類が滅亡でもしたのだろうか。それなら毎年人類滅亡の予言がされるのも間違えではない

去年と変わらない暑さなのだからそんな訳でないのは知っている

記憶が無くてもそれくらいはなんとなく覚えている

きっと体が覚えているのだろう


ただひたすらに歩く


電車やタクシーを使えばよかったのではと今更思う

だが今からそれらの移動手段を使うとこんなに歩いたことが無駄になる気がして仕方がない

体を動かせばなにか思い出すのでは

そんな適当な理由を作って歩く事を肯定した

コンビニから一生借りたたペットボトル飲料水を飲む

顔を上げる

入道雲が正面に貼り付けたように広がっていた


本当に夏のようだ

夏なのは間違い無い

そのはずなのにこれ以前の記憶がない私からすれば取ってつけた様なもの


実感がわかない

夏がどんなものだったかくらいは思い出せる


視界が揺らぐほどに暑く、皮膚は日にジリジリと焼かる

セミが叫び疲れて地面に転がる

人生で100回訪れる事は滅多にない…


どうも私はマイナス思考だった事は思い出せた

考えるのを止める

今目の前の入道雲が生えてきた場所まで歩こう


適当な宛を作って歩く



都市を歩いて道を歩いてどれほど歩いて来ただろう

日は傾き入道雲はオレンジ色に染まる


海までたどり着いた

流石にこれ以上この足で目的まで近づくのは無理だろう

せっかく目標を作ったのにもう宛がない

砂浜に仰向けで寝そべる

サラサラの砂は服や皮膚に張り付かず、熱を持っていて心地がいい

このまま寝てしまうのも悪くはない

誰もいないのだから心配もされ用がない


何をしても許されてしまいそう

いや

誰もいないのだから許され用も咎め用もない

価値も必要性も意味も

ない

探してもない

私は1人だ

記憶を辿っても誰一人としていない

どこにも無いものを探しても無いのは当たり前だ

きっと逃げ出したからこうなった

さっきまで忘れた振りをしていた罪悪感が自己主張をする


今の感情は一言で表現できる

でも口に出してしまえば自身がこの後どうなってしまうか用意に想像が付く

きっと他人がいたらこんな言葉どれほどだとしても言えない

誰とも共有出来ない

孤独だ

1人だ


「寂シイ?」


目を覚ます

見にしたのは私を見つめる無表情のa


誰なのかは知らない。でも確かに彼女はaだ。

世界中の男性達が議論した結果1番の理想の少女型ロボット、これが自身のできる最も適切な彼女の表現方法だ。

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