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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ディタッチメント フロムリアリティ・ シンドローム

作者: 天崎 栞

ある少女のお話。




長いタイトルですみません。

タイトルやキーワードでお分かり頂ける方は、予めお察し下さい。


ご気分を悪くされると感じた方は

その時点でブラウザバックして下さい。

また内容が内容なので、最初にお詫び申し上げます。

申し訳ございません。



では。

ここからは、自己責任でお願い致します。




息が詰まりそうだ。



畳に横たわわだかまりを作る、長く艶やかな黒髪。

透き通る程の白い羽の様な肌に淡く長い睫毛。

人形の様な端正な顔立ちの少女は、まるで眠り姫の様だった。


ざらざらとした特有の感触。

それが、眠り姫を目覚めさせる(とげ)

頬に触れて違和感を感じ、ゆっくりと目を開ける。


真紅の様な、赤い赤い澄んだ瞳。

けれどその真紅の双眸には、ひっそりと闇色が佇んでいる。

少女にとって、の目の前に映る現実は、絶望という名の暗闇。




まだ覚醒仕切っていない、気怠い思考を

横たわらせながら、由香は身を持ち上げ起こした。

由香が起き上がった事に合わせて、腰まであろうかという程の黒髪は背に流れた。




4畳半の和室。

その部屋の片隅には茶色い机。

それ以外は何も置かれていない無機質で殺風景な部屋。

時を刻み、味のある畳をそっと指先で添う。



この部屋には、少女だけ。

窓からは少しだけ月夜の淡い金色の光りがにわかに差し込んでいるのみ。

だから、余計に見えたのだろうか。


月の光りは、机にある代物を示していた。

小瓶に詰められた白い錠剤は溢れ、机の上に点を残している。

そして、湯飲みに残された水__。


少女は物憂げな瞳で、それを呆然と見詰めた。




(___“また”、か)


“それ”が目に焼き付いた瞬間。

まだ朧気(おぼろげ)だった脳裏が覚醒した。



由香は知っている。

その溢れ佇んでいる錠剤は、体にどの様な役割を果たすのか、

湯飲みに残る水は、どんなものなのか。


机に佇んでいる錠剤と湯飲みは______



睡眠薬と、酒だ。



眠れぬ者が、寝つき易く眠りに落ちる様にと作られた薬。

人々の疲れた感情を癒し、時折にして本音を吐かせる飲み物。




由香はまだ未成年で、

本来ならば酒を口にするのもいけないだろう。

睡眠薬も、由香自身は必要としていないのだけれど。

無論、睡眠薬と酒は、最初から由香が望んで口にしたのではない。



闇の中で

一筋の光りに視線を向ける。

それは、それすらも絶望という名の光り。

項垂れた絶望の表情で、由香は天を仰ぎ、深い夜空を見詰めた。





部屋の向こう側には、

煌々とした光りと男女の笑い合う声が聞こえる。

僅かに開いた襖からは、その光景を見る事が出来た。


ソファーに寄り添う男女。

男に頭を預けて、甘える様に媚びる女。

そして女の肩に腕を回し、けらけらと笑っている男__由香の父親だ。


毎度の事、この光景を見るけれど

毎回、父親の隣にいる相手は何時も違う。

ある時は、ドレス姿の若い女、ある時は、和装姿の若い女……。


今日は薄いワンピースを着た、

また新しい長い巻き髪の化粧の濃い女だった。

名前も姿も知らない女をとっかえひっかえ、父親は家に連れてきては、女と酒を(たしな)み、笑いあった。




一方で由香は、この和室から出る事を許されなかった。

暗闇のこの部屋で、孤独を抱きながら過ごす。

そして微かに開いた襖から、


父親と、父親が連れてきた女が語り合う姿の後に、

酒から情事へと変わる光景をただ見詰め、目を背ける事しか出来なかった。



**



もう、あれは随分と昔の事に感じる。

こうなったのは、由香の母親が他界してからだ。

妻思いの、子煩悩だった優しかった父親は、


母親が消えた事で、

心の奥底に潜めていた欲望を、目覚めさせてしまったのだろう。



*


それはある日、突然の事であった。




「____いや!」



体を和室の壁に押し付けられ、

抵抗し震える娘に、父親が差し出したのは小瓶に入れられた白い錠剤。

父親はそれらを娘の口に無理矢理入れ、湯飲みの水___酒をを放る様に呑ませた。


(……………苦しい)


薬の苦さと、喉を焼かす様な酒の味が混ざり合う。

苦味で味覚が麻痺をし、焼ける様な水を由香は

脅されるままに飲み込んだ。


最初は何もなく、由香は父親を見た。

目の前に居る男は、由香の記憶にある、あの菩薩(ぼさつ)の様に優しい父親ではなく、

狂喜をその面持ちに浮かべたピエロの様だった。


(………貴方は、誰?)


急に思考に、(ヴェール)が掛かった様に白い霧に包まれる。

ぼんやりと霞だした視界と共に、少女の真紅の瞳は虚ろいゆく。

ふらふらと頭が前後に揺れた後にぐらりと華奢な体が傾き

棄てられた人形の様に、由香は畳に倒れ伏せた。


体の自由が効かない。

急激に思考を奪う睡魔に圧されながら、由香は見た。

狂喜に取り憑かれた、悪魔の男を。




父親は娘に

アルコール度数のきつい酒を呑ませては、眠らせる。



それは、由香の邪魔なのか。

或いは、娘に見られたくないのか。

それとも、女と過ごす時間を娘に邪魔をされたくないのか。



最初の頃は抵抗した。だが、

華奢な少女の力は、いとも簡単に捩じ(ねじ)伏せられてしまう。


父親に力では敵わないと、

この現実からは逃れられないと、心が諦めたからなのだろうか。

次第に抵抗する気も無くなり、由香は意識を手離す様になった。





濃紺の夜、

誰からも見放された孤独な少女を、金色の月は見詰めている。

しかし絶望した少女の瞳は闇色が混ざり酷く虚ろな瞳だ。

きっと少女の心も、存在も、全ては闇の中___。


そんな中、少女は心の中で呟く。




(___嫌いよ、嫌い__)



こんな囚人みたいに扱われている自分も。

女と語り合いながら娘の事を忘れ、葬った父親も。

そして、こんな現実に置いた世界を。


希望を失い絶望に身を佇ませる由香は

酷く瞳も表情も虚ろで_____。


そしてこの頃の由香は

父親に責められなくとも、自ら睡眠薬に手を出す様になった。

心が、体が、薬を求める様になっていたのだ。



意識を手離して、無意識の闇に居る間は

何もかも忘れる事が出来て、自分自身は無で要られる。

こんな現実も、情景を見ないで済む。


由香は

何時しか睡眠に、執着し出す様になった。

自分を現実から解放してくれるモノに。



*



もう飽きた。

どうせ、自分は此処から出られはしない。

こんな現実を見るのも、この牢獄に置かれるのも嫌だ。




____ならば。



由香は、自ら瓶へ手を伸ばす。

白い指先が、(てのひら)には、大量の白い錠剤。

小さな粒を取ると口に放り込み、無くなるとまた手に放り込み___


何時しか、錠剤に満たされていた小瓶は空っぽになり

寂しそうに机の色を映し出しながら佇んでいる。


そして

全ての睡眠薬を口に入れた後に

湯飲みに残る杯を全て一気に飲み込んだ。




「___う……」


苦い。

薬の薬味の苦さと、焼ける様な酒の熱さが脳裏を満たす。

それぞれの苦さと熱さ口に広がりピリピリと

不快な感覚を残していく。





酒は苦手だ。

薬を飲むのも苦手だ。

本当はこんな事はしたくないけれど、

一刻も早く現実から離れたくて、意識を手離したくて。


そう思うと

口に広がる苦さなんて、どうでも良くなった。



少女は錠剤を多めに

湯飲みに残る酒を一気に飲み干していた。



苦い錠剤を焼ける様な熱さの酒で刺激的な味を飲み干すと

由香の体はぐらりと傾き、壊れた人形の様に後ろへと倒れて横たわる。


畳には

少女の長く真っ直ぐな黒髪も横たわりわだかまる。


窓から伺える満月を虚ろな真紅の瞳で見詰め、目を閉じる。



(___早く………)



消えて、しまいたい。



紅い瞳に佇むのは、闇色。

少女の顔に、瞳に、もう正気は残されていない。

絶望を抱き佇ませながら、由香は己を狂喜に満ちた表情で嘲笑った。




(バイバイ___……)



帰ってこない。

否。帰って来たくもない。

微かに持ち上げたか細い腕は、手は、虚しく空を切って落ちる。



音も無く、静かに白い頬を伝った雫。

少女は正気の喪った微笑を浮かべ、闇の中へと意識を手離した___。





それは、永遠に。

少女が、由香という少女として、目覚める事はなかった。



最後に。


由香がどうなったのかは、

読手様のご想像にお任せします。


読んで下さり、ありがとうございました。

そしてご気分を悪くされた方には、再びお詫び申し上げます。


大変

申し訳ございませんでした。

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