表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スキなんて言えない

作者: にゃんた


お久しぶりですにゃ(=^ェ^=)

今回はちょっと長めの短編に挑戦しました!


学生さんは、今やこの先経験するかもしれない甘酸っぱい青春にワクワクしてくださいにゃ!

大人の方は、懐かしんでくれたら嬉しいニャ♪




今日、私はとうとう覚悟を決めた。

アイツに、スキって言ってやる、って。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



初めて会ったのは、幼稚園の頃。

幼稚園の周りは、南側に小学校がある以外は田んぼで、山から降りて来ちゃった雄鹿が暴れる事件があったくらいの、超が付く田舎。


幼稚園児(こども)って無条件に可愛いとか言う人もいるけど、私はそうは思えない。

子供って怖い。

無邪気だからこそ、悪気なく他の子と違う部分のある子供を異分子扱いもする。

息をするように「なんで」、「どうして」で追い詰める。


ある日、私はお昼の時間、園児ながらに女の子たちに人気のあった男の子にこう言われた。

「これ、たべなよ。おいしいよ。ぼくの、いっこあげる。」

男の子が持っていたフォークには、たこさんウインナーが刺さっていた。


私は、乳・卵・そば・ピーナッツなどの食物アレルギーがあって、医者にもアレルゲンは口にするなと厳しく言われていた。

もちろん、アレルゲンとは何なのかとか、食品表示がどうだとか、そんな事は幼稚園児には分かりようもなかった。


でも、お母さんから毎日のように、「何が入ってるかわからない、ママが食べて良いって言った物以外は食べちゃダメよ?誰かがくれるって言っても、要らないって言うのよ?」と注意されていた。

「食べたら苦しくなって、死んじゃうかもしれないんだからね。」とまで言われ、幼心(おさなごころ)にも絶対にしないと誓ったのだ。


私は男の子からの申し出を断った。

男の子はつまらなさそうにして、他の子に声をかけに行った。

私は、お母さんの言いつけを守れた事に安心していて、一部始終を周りの女の子たちが意味深に見つめていたことに気づかなかった。


その日から、女の子たちの態度が変わった。

私を無視するようになったのだ。

一部の男の子も、彼女たちに同調するように私に対して冷たくなっていった。


そんな中、アイツだけは変わらなかった。


私は食物アレルギー持ちで、他の子より体が小さかったのもあり、この一件のようにイジメにあうことがあった。

アイツは、イジメにあっていた私を慰めるでもなく、イジメに加担するでもなく、遠巻きにただ眺めていた。

私から話しかければ返事もしてくれるけど、アイツから関わってくる事は無かった。


アイツは、私がイジメられている間、ずっとその距離を保ち続けていた。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



付かず離れずだった関係が変化したのは、小学校に入ってから。


小学校では、席が名前の順で決められていたので、「ほ」で始まる私と「ま」で始まるアイツは同じクラスになると、前後か隣に並ぶことが多かった。

俗に言う腐れ縁というやつなのか、私とアイツは五年生の一年間を除いてずっと同じクラスで、席も近かった。


幼稚園でのようなイジメは鳴りを潜め、平穏な毎日を過ごしていた。


アイツと私は、何かと争うことが多かった。

というのも、テストをすれば同点、音楽や家庭科の実技テストの出来は五分五分(私の方が評価は高く、丁寧だったけどね!)、果ては体育の50m走のタイムもほぼ同じ…

50m走は、男女混合で名簿順に数人ずつ組んで走らされたので、いつもスタートが同時だった。


授業中に行うテストで国語、算数、理科…と点数が被っていくと、アイツの方も私をライバル視し始めたらしかった。私は、幼稚園の頃から何かにつけアイツを見ていたから、少し悔しい。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



3年生のある日の体育で、マラソンをした時。


私は、派手にすっ転んだ。

みんな、倒れた私を横目に見つつ走り過ぎて行く。

その時、目の前に手が差し出された。


アイツだった。


アイツが立ち止まり、転んだ私に手を差し伸べてくれたのだ。


「早く掴めよっ!」


驚いて目を見開いて固まっていたら、声を掛けられた。

アイツの手を借りて立ち上がってみると、私の膝からぼたぼたと血が垂れた。

転んだ拍子に石にでも当たったのか、擦り傷と言うより切り傷のような大きめの傷が出来ていた。


「センセー!怪我人ー!血、めっちゃ出てる!」


気づいたアイツが先生を呼んでくれた。

担任の、優しげな女性が駆け寄ってくる。


(まい)ちゃん!大丈夫?歩ける?水道で傷をよく洗ってから、保健室行こうか。」

「センセー、俺連れてくよ。センセーは、マラソン見てなきゃだろ?」

「あら、俊也(としや)くんが?…そうね、じゃあお願いできる?」

「任せろ!」


私が口を挟む間も無く、保健室までアイツが付いてくることが決まってしまった。

水道で、自分で傷を洗って、保健室へ向かう間私たちは特に何も話さなかった。

無言だったけど、足を引きずっているせいで、段差に(つまず)いてよろけた私をアイツは腕を掴んで支えてくれた。

そこから先は、アイツは私の手を引いて歩いた。

私は、膝から、だらだらと血が止まらずに垂れている様を見つめていた。何となく、アイツの方を見るのは気恥ずかしかったからだ。

靴下と靴に赤いシミができていた。

あーあ、お気に入りの靴だったのになぁ…


保健室のドアを開けると、独特の匂いが私たちを出迎えた。カラカラと軽やかな音をさせて、キャスターの付いた椅子ごと振り返るのは養護の先生。養護教諭には珍しく、爽やか系の男性だ。


「センセー、怪我人連れてきた。」

「体育で転んじゃった?クラスと名前は?」

「3年2組の穂村(ほむら) (まい)です。取り敢えず、洗って来たんですけど…」

「舞ちゃん、そこの椅子に座って、先生に傷見せて?」

「はい。」

「…うわー、結構派手に転んだねー…石でもあった?まだ血が止まってないみたいだから、これで押さえててくれる?」


そう言って脱脂綿を渡されたので、依然として血を流す傷を押さえた。

暫く経って脱脂綿を外してみると、脚を伝うほどに出ていた血の勢いは弱まっていた。


「じゃあ、消毒するねー。痛いかも知れないけど、じっとしててね。」


先生が手早く消毒して、ガーゼとテープで傷を覆った。脛を伝っていた血も拭いてくれた。


「はい、終わり!」

「ありがとう、先生。」

「お家に帰って、血が出なくなったら、絆創膏にして良いからね。」

「はい。」


処置の間、ずっと傍らに立って待っていたアイツに声をかける。


(とし)くん、ついてきてくれてありがと。」

「舞は、ドジだもんな、仕方のねー奴。足庇って歩いて、また転ぶなよな!」


照れたように笑う、アイツの鼻の頭が赤かった。


校庭に戻ろうとしているところで終業のチャイムが鳴り、そのまま教室に戻った。

教室に入ると担任の藍原先生に呼ばれた。


「舞ちゃん、傷はどう?」

「大丈夫です。保健の瀬良先生がガーゼしてくれました。ちょっと痛いけど、歩けるし。」

「そっか。じゃあ、お家に連絡しなくても大丈夫そうだね。俊也くん、付き添ってあげてくれて、ありがとう。」

「どーいたしまして!」


先生に褒められたアイツが私の方を見て、へへっと笑った。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



今になって思えば、あの辺から明確に「スキ」になっちゃってたんだ。

それまではなんとなく目で追っちゃうくらいだったのに。アイツが笑ってるのを見て嬉しくなったり、話しかけられてドキッとしたり…


他の女の子と話してるのを見ると、胸がモヤモヤしてキューッと痛くなる。


初恋は叶わない…なんて言うけど、本当なのかな?もし本当だったら、困る。



だって私…





✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「…い、舞!ねぇ、舞は?」

「!何?」

「舞には、好きな人いないのって訊いたんだよぉ?また話聴いてなかったでしょ!」

「ごめんごめん。好きな人?」

「そう!梨乃(りの)ね、篠宮(しのみや)くんが好きなの。でね、告白しようと思うんだぁ…修学旅行で。梨乃たちの班、梨乃と舞と篠宮くんと前原くんじゃない?」

「そうだね。」

「だからさ、梨乃が告白してる時、舞は前原くんといて欲しいの。幼馴染なんでしょ?だったら仲良くても、変じゃないよね!っていうわけで、2人でいて貰う感じなんだけどー、もし舞に好きな人がいるなら、前原くんと噂になったりしたら嫌でしょ?だから、訊いたの!」

「スキな人…いるよ。でも、協力する。梨乃は大事な友達だし。」

「いいの?嬉しいっ!」


想いを自覚した後、私はそれをアイツに伝えることなく、私たちは小学校を卒業した。

受験して中高一貫校に進学したけど、アイツも同じ学校を受けていたなんて思ってなかった。

入学式でアイツの名前が呼ばれて、驚くと同時にとても嬉しかった。まさか、もう6年、学校生活を一緒に送れるなんて思ってなかったから。

私の小学校から進学してきたのは、私とアイツの2人だけだった。やっぱり、知ってる人とは話しやすいからアイツとも頻繁に喋るようになった。


1年生の時はクラスが違ったし、新しい環境に慣れるのに必死で、アイツのことを考える余裕はあまりなかった。


その後、2年生3年生と同じクラスになって。



そして今。3年生の一大行事、修学旅行が目前に迫っている。

私に詰め寄るこの子は、1年生の時にできた親友。2年生でクラスが分かれてしまったけど、3年生でまた同じクラスになれた。

梨乃はちょっと、ぶりっ子っぽいと疎まれがちだけど、仲良くしてると実は全然そんなことなくて、かなりサバサバしてる。変に詮索しないし。

ちゃんと人を見てて、相手の嫌がることはしないから、私でも安心して付き合うことができた。


修学旅行ではアイツとも同じ班。

男女分かれて2人組を作って組み合わせる形式で班決めをしたら、私と組んだ梨乃がアイツと組んだ篠宮と同じ班になりたいと言い出したのだ。

結局それで決まっちゃうし。


梨乃が篠宮に告白すると聞き、少しドキッとした。さらに私の好きな人の存在を尋ねられて、私はアイツのことがスキなんだって意識させられた。


梨乃は修学旅行の行き先である京都で、班行動の間に時間を取って篠宮に告白するらしい。私とアイツは、別行動だ。2人きりで。


どうしよう。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



修学旅行3日目、班行動の日。

私たちが最後に訪れたのは二条城だった。

立派な石垣のお城に、築山や整えられた植木が見事な庭園…

順路に沿って歩き、躑躅(つつじ)木蓮(もくれん)椿(つばき)牡丹(ぼたん)など綺麗な花を咲かす木の植わったエリアに出た。

順路を外れ、ベンチに座って花を楽しむことも可能なそのエリアで、4人で休憩する流れになった。

私のすぐ後ろを歩く梨乃が、2人にしてほしいと耳打ちして来る。

私は来る途中で見かけた自動販売機で飲み物を買いたいとアイツを誘って、梨乃たちの元を離れた。


自動販売機とトイレ、休憩用の四阿(あずまや)があったので、アイツと2人で少し話した。


「俊くん、戻らないでここにいよう?」

「なんで?」

「梨乃が篠宮に話あるって。2人で話したいって言ってた。」

「…あー、告白か?賢治(けんじ)、モテるもんなぁ。村井(むらい)もか。」

「どうなるかな…」

「案外、うまくいくんじゃねぇの?村井って口調はアレだけど、いい奴だよな。賢治も嫌ってないと思うぜ。」


アイツがあっけらかんと予想を語った後、沈黙が流れた。


「なぁ。」


沈黙を破って先に口を開いたのはアイツだった。呼びかけられて鼓動が高鳴る。


「舞、は…好きな奴とかいるのか?」


予想外の問い掛けに、私は焦った。


「っ、い…いない、よ!」


つい否定してしまい、ハッと我に返ってさらに動揺した。


声、裏返ってなかったかな?

ちゃんと信じてくれたかな?

これ以上、何か訊かれたりしないよね⁇


跳ねる心臓を持て余しつつ返事を待っていると、四阿の脇の池を見ていたアイツが私の方を向いたのがわかった。

でも、私にはアイツの方を見る勇気はなくて、どこを見るともなしに、池にいる鯉をただ目で追っていた。


「……。」


ぽつりとアイツが何かを呟いたけど、その時ちょうど鯉が立てた水音に掻き消されてしまった。


「…あ。あいつらだ。舞、賢治達が来たぞ。」


どのくらい経った頃だろうか。

アイツが梨乃と篠宮が来たことを告げる。

それは同時に、私たち2人きりの時間が終わったことを示していた。


もうちょっとだけ、話したかった、かも。


こちらに向かって来る梨乃と篠宮は、手を繋いでいて。幸せそうに微笑む梨乃を見て、うまく行ったんだ、って安堵した。


アイツは梨乃たちが、四阿に着く前に得意げに笑った。


「ほら。俺が言った通りだろ。」


心配することなかったんだ、とでも言いたげな私を安心させるような笑顔に、ちょびっとだけ、苦しくなった。


言えなかった。

いつか絶対に伝えるから。

だから、待ってて。



まだ、スキなんて言えない。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



遂に今日。

私たちは中高一貫校を卒業する。


今朝、鏡の前で決意した。


アイツに、スキっていってやる、って。


姿見の中の彼女は、吹っ切れたように凛々しく微笑みながらも、眉根は下がり不安が透けて見えた。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



卒業証書を手にして、駆け寄る。

正門に寄りかかって目を伏せるアイツに。


パタパタという足音が校舎に反響する。


夕焼け色に染まったアイツは、眩しそうに目を(すが)めてこちらを見る。

まぁそれも仕方ない。逆光なのだから。


夕陽を背にアイツと向き合う。

ここまで来ても、まだ勇気が出ない私の、最後の抵抗。

暗くならなくても、顔が、涙が、アイツに見られないように。


「卒業しちゃったね。」

「あぁ。」

「私ね、俊くんがこの学校受けると思わなかったんだ。」

「…それは、…」


アイツはボソボソと何か言うが、聴き取れない。


「ねぇ、修学旅行の時さ。俊くん私に訊いたよね。好きな人いるかって。いないって答えたけどアレ嘘なんだ。」


アイツは細めていた目を見開いて私を見る。


「スキだ、ばか。」


…あぁ、やっと言えた。

アイツはぽかんとしている。



「じゃーね。」


素直になれない私は、好きだって言った後に余計な「ばか」をつけちゃったのを自己嫌悪した。

想いを告げることができたから、もういいや、と思って踵を返し駆け去ろうとする。



「っま、待てよ!」


アイツが私を引き留める。顔を見られないように下を向く。もう既に視界はぼやけ始めている。


「俺の、返事は?訊かないのか。」

「だって!」

「あーもー、めんどくせぇな。俺もお前が好きだよ!ずっと…ずっとな!」


今度は私が目を見開く番だった。

大きく開いた目から、膜になっていた涙が一筋零れ落ちた。


「ほんと…?」

「嘘じゃない。好きだ、好きだよ。舞。」


彼は呆れたように苦笑して、優しく温かく微笑んだ。そして、いつかのようにへへっと照れ臭そうに今度は頰を赤くして笑った。



「私も、嫌い、じゃないよっ!」


素直じゃない私は、彼みたいに繰り返しスキなんて言えない。

けど、これで。

どうか、わかって欲しい。


夕陽を浴びて輝く、彼の笑顔目掛けて全力で笑った。



ちょっと照れながらも腕を広げた彼の胸に飛び込むのは、数秒後の話。


会話でわかりづらいと思いますので…

〜登場人物〜

穂村(ほむら) (まい)

ヒロイン


前原(まえはら) 俊也(としや)

ヒーロー


藍原(あいはら) (はるか)

舞と俊也の小学校3年生時の担任の先生


瀬良(せら) 真咲(まさき)

小学校の養護の先生


村井(むらい) 梨乃(りの)

舞の親友、中高一貫校の一年生の時にできた友達


篠宮(しのみや) 賢治(けんじ)

俊也の友人、モテるらしい




実は実は…


このお話の《私》は、私なのです…

フィクション10%のほぼ実話のストーリーにしてみましたにゃ。


お恥ずかしながら、みなさんが楽しんでくれますよう…(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ