紅と金と黒
物心ついた時から、私はこの部屋にいた
黒と赤を基調としたゴシック調の部屋の中
紅の瞳を持つ黒髪の少女は黄金色の髪に空色の目を持つ男性と話していた
紅の少女にとって、その部屋だけが世界だった
それ以外の物はすべて、本や資料で見ただけのものだった
少女は幸せだった
男と話すその時間が何よりも好きだった
その間だけは、男にとっても平和な時間だということを知っていたから。
語らう二人を邪魔するかのように、少女が通ってはいけないと言われている扉がノックされる
入ってきたのは黒い髪にほんの少しの朱色の混ざる黒い瞳の男性
黄金色の髪の男性の右腕であり、秘書のような存在であり、親友であった
黒髪の男性は会議までは時間があったのだけれど、前線の方で問題があって総帥の方でしか対応できないみたいだ、と申し訳なさそうに告げる
黄金色の髪の男性は不満を隠さない表情で椅子から立ち上がると少女の額にキスし、申し訳なさそうに頭を撫でた
少女はほんの少し寂しそうにしながらも、大丈夫だから、と告げた
黄金色の髪の男性は入り口近くに掛けてあった軍服の上着を手に取ると行ってきます、と日本語で言った
少女は答えるように行ってらっしゃいと男性に返した
黒髪の男は黄金色の髪の男性が出ていくのを見届けた後、少女にごめんな、と謝る
少女はどうして?と返す
普段は言わないのに、珍しいね、とも。
黒髪の男性は何とも言い難い表情をすると少女は不思議そうな顔をする
黒髪の男性は、お前まだ八才だろ?なんでそんなに大人びてるんだよ…もう少し子供らしくしていてもいいんだよ、と少女に言う
少女は、だって彼を困らせられないしこんな情勢なのに迷惑かけられないよ、と返す
黒髪の男性は疲れたように額に手をやると、あいつもたまには甘えられたいって思ってるからたまには子供らしくしてあげて、と少女に返す
少女はわかった、と黒髪の男性に返す
黒髪の男性は部屋を出ようとし、思い出したように群青色が部屋に来るって言ってたよ、と伝える
少女は嫌そうな顔をする
黒髪の男性は嫌でも我慢してあげて、たばこは吸ってないって言ってたから、と少女に返す
そうして部屋から出ていった
残ったのは少女一人
ベッドに倒れこむと群青色が来るという言葉を思い出して不快な気持ちになり他の人も一緒に来てくれれば追い出せるのに、と考える
紅の瞳の少女は、群青色が嫌いだった
煙草の匂いよりも何よりも、人を見透かしたような、深い深い蒼の瞳が嫌いだった
群青色は考える
「もし、すべてを忘れられたら」と
群青色は嘆いた
「神は何も為さないままに死んだのだ」と。